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第九二八話、マ島攻略作戦


 異世界帝国の紫の艦隊こと、紫星艦隊を叩くため、その母港があるマダガスカル島攻略作戦が、軍令部において立案され、連合艦隊側もそれを了承する方向で動いた。


 紫星艦隊を撃滅できれば、インド洋の制海権の確保に繋がり、敵のめぼしい艦隊がいなくなる。地方の防衛艦隊ならば、米英艦隊でもどうにでもなる。

 異世界人が新たな戦力を送り込む前に、傷ついた敵旗艦級――ギガーコス級戦艦を破壊するのだ。


 永野 修身軍令部総長の紫星艦隊を叩けないか、の言葉は、マダガスカル島掌握にまで話が大きくなっていた。

 軍令部の作戦課は、以前よりマダガスカル島攻略作戦を考えており、紫星艦隊撃滅とその母港を叩くついでに、それも実行してしまおうというのである。


 異世界人は、この世界ではアヴラタワーという生命維持装置によってその生存を助けられている。そこを重点的に狙い、電撃的に占領する作戦を、軍令部は計画した。つまりはセイロン島攻略作戦の再現をしようというのだ。


 作戦に参加するのは、第一機動艦隊と第三機動艦隊の空母航空部隊。上陸戦力は、海軍特殊戦闘群の稲妻師団と、数合わせの無人戦闘旅団。

 ちなみにこの無人戦闘旅団は、ルベル世界に派遣された海軍陸戦隊一個大隊と似たような構成ながら、制御のレベルが甘いため、おそらく二線級程度の能力しか発揮できないと目された。あくまで補助であり、電撃的侵攻を行うその主力は、稲妻師団が担う。


 また陸軍だが、こちらは第103海洋上陸旅団と、電撃師団の一個大隊をマダガスカル島攻略に派遣した。師団戦力以下ではあるが、急遽決まった作戦にしては、よくぞ参加してくれたというところかもしれない。

 これら上陸部隊は転移で現地海域へ飛ばすが、部隊を上陸させる時の護衛は、第九艦隊が担当することになっている。


 紫星艦隊が復帰する前の報復として急ぎ、進められた作戦だが、開始の事前準備段階で、怪しい空気が漂い出す。

 それはインド洋を担当する第七艦隊からもたらされた。


「偵察に向かった艦が、消息不明になっている?」


 連合艦隊司令長官、古賀 峯一大将は、厳めしいその顔をさらに険しくさせた。中島情報参謀は答えた。


「はい。潜水駆逐艦『早梅』『飛梅』、潜水艦『呂519』、『呂523』が、マダガスカル島近くに進出し、潜水偵察を行ったとのことですが、その途中、消息を絶ちました」

「やられたのか……」

「おそらく」

「これは、よろしくないですな」


 草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は事務的な調子を崩さず言った。


「こうも立て続けにやられるというのは、我が軍の攻撃計画が敵に察知されたかもしれません」


 攻撃前に偵察を。異世界帝国のマダガスカル島守備隊も、その警戒ラインで日本潜水艦を連続して発見、沈めれば、日本軍の何らかの作戦の予兆と見るのが自然だった。


「しかし、わかりませんな」


 神 重徳首席参謀は首をかしげた。


「我が軍の潜水艦は探知能力に優れております。一隻や二隻なら、まあ奇襲されたとしましょう。ですが四隻もやられたというのは、どうにも考えにくい……。何かありますよ、これは」

「確かに、敵と遭遇したなら、何らかの報告があったはず」


 源田 実航空参謀が眉をひそめる。


「報告もなく四隻喪失、消息不明というのは、敵の新兵器か、新型の潜水艦などが存在するのでは……?」

「どうかね、中島情報参謀?」

「わかりません。なにぶん、消息不明艦がやられたかどうか、確証もありませんし」


 もしかしたら通信機の不具合や故障の可能性もなくはない。


「しかし四隻というのは、事故や偶然では片付けられないのでは?」

「まさしく。通信を妨害する何かが存在しているのならともかく、そうでなければ敵に撃沈されたと見るべきだろう」


 参謀たちは言う。古賀は口を開いた。


「敵も、マダガスカル島守備に、かなり注力しているということかもしれない」

「過去、我が軍は、あの島を攻撃しています」


 草鹿参謀長は頷いた。


「基本は空襲でしたが、数度もやられれば、敵も厳重な警戒網を敷き、防御態勢を整えていてもおかしくはありません」


 むしろ、強化されているのが自然だ。いくら後方拠点に手抜きの多い異世界帝国軍だが、かの紫の艦隊の母港であり、かつインド洋の最前線であれば、全方位を警戒していてもおかしくはない。


「敵に、こちらが攻撃を仕掛けようとしている兆候として取られるのもよくないですが――」


 源田は、マダガスカル島の地図を見下ろす。


「接近しようとした潜水艦、潜水型駆逐艦がやられた可能性が高いというのは気になります。我が空母部隊を転移で接近させた時、その敵が突然攻撃を仕掛けてきたら……。航空隊を飛ばす前に逆奇襲で、空母がやられてしまうかもしれません」


 そうなったら、損害だけ出して、作戦を中止する羽目になる――という展開も予想できた。


「最悪の展開としては、こちらの探知圏外から攻撃できる新型の敵潜が警戒しており、防御障壁も貫通してくる例の新型魚雷を使ってくる場合でしょう」

「それが予想できるなら、短距離転移で、魚雷は回避できる」


 神は言った。障壁貫通の魚雷ならば、転移回避ができるのは、インド洋決戦で実証されている。あの戦いは空母数隻に被害が出たが、回避パターンを構築してからは全て避けている。


「貫通する魚雷も新型かもしれません」

「そもそも魚雷ではなく、別の兵器かも……」


 ざわつく司令部。草鹿は、古賀を見やる。


「如何いたしますか? 現状、正体のわからない敵がいると仮定した場合、空母部隊をマダガスカル島に近づけるのは危険過ぎます」

「それはわかるが、草鹿参謀長。紫の艦隊は叩けるうちに叩いておきたい」


 古賀はきっぱり告げた。


「だが懸念のとおり、このまま突っ込ませるのはリスクが大きい。故に、短距離転移が通用するか、第七艦隊の潜水艦に試してもらう」


 作戦に参加する空母部隊の安全を図るのは当然のことだ。

 インド洋に展開する第七艦隊の潜水艦、もしくは潜水駆逐艦を、複数で行動させて目標海域に侵入。攻撃を受けた場合の状況とその正体の確認と、攻撃であるなら転移で躱せるか。それを見届ける監視役を配置する。慎重にして堅実な古賀らしい作戦だった。


「これが確定するまでは、マダガスカル島攻撃作戦は延期、もしくは中止の可能性もある。そのように心得てくれたまえ」

「はい!」


 参謀たちは姿勢を正し、首肯した。

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