表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
921/1114

第九二一話、人を転がす手管


 神明 龍造という男は、問われたことに対して、反射的に否定することはほとんどない。もし否定するなら、それは答えがわかりきった時のみである。

 それ以外のことはまず考える。そしてそれができる、できないがわかった時、できないを口にする前に、できる方法がないか考える癖があった。


 だから大抵の場合、物理的に不可能でなければできると答えることが多い。

 とはいえ、その可能にしても、いくつか条件をクリアした上で、という注意がつくが。なので、口で言うほど可能ではなかったりする。

 案の定、神明は使える戦力を検討すると、即席の攻撃案を作り上げた。


「軍令部と陸軍から協力を得られるとよいのですが……」


 神明の言葉に、古賀 峯一大将は視線を、草鹿 龍之介連合艦隊参謀長に向けた。


「どう思う?」

「一撃を与えるという点では、可能でしょう。軍令部と陸軍の協力を得られれば、さらに大きな戦果があげられると考えます」


 すでにその気になっていた。源田 実航空参謀が口を開く。


「『日高見』を活用するのは、思いもしませんでした。確かに転移ができるのだから、前線で使うことも可能だ……。むしろ、南極の敵基地攻略の支援に使うべきだったと、今さらながら思います」

「確かに、前線の航空基地としてこれほど打ってつけのものもなかった」


 神 重徳首席参謀が同意する。神明は言った。


「機動艦隊の空母部隊を、南極に派遣してしまった後だからな。その前に送ってあれば、二機艦や三機艦の奇襲攻撃隊を北方で使えたかもしれない」


 だが、この作戦で、陸軍の協力が得られるなら、四発爆撃機が活きる。そしてそれが運用できるのは、海氷飛行場である『日高見』である。

 古賀は立ち上がった。


「では、関係する部隊に出撃準備の通達。軍令部にも人をやって協力を仰ごう。それが通れば、陸軍からもあれを提供してもらえるかもしれない」

「承知しました」


 連合艦隊司令部は動き出す。聞いていた小沢 治三郎中将は首を傾げた。


「相変わらず、隙間をついてくる戦力選びだな」

「当面、出番が回ってこなさそうなものを選んだら、こうなっただけです」


 神明が苦笑すれば、草鹿が声をかけてきた。


「神明参謀長。これから軍令部に行く。君も来てくれ」

「……わかりました」


 軍令部と交渉しやすい人選ということだろう。草鹿も、誰を連れて行けば話が通りやすいか理解しているのだった。



  ・  ・  ・



 軍令部は、連合艦隊からのアムチトカ島の敵艦隊攻撃作戦について、了承した。

 その投入戦力について、軍令部直轄の第九艦隊を使用する件も承認を得た。


 草鹿参謀長が説明する横に、神明が同行したことも、勘のいい伊藤 整一軍令部次長や中澤 (たすく)第一部長は、作戦の出所を察したのも大きかったかもしれない。


 その証拠に、伊藤、中沢が陸軍参謀本部に向かう中、神明に同行を求めたからだ。今度は陸軍のもとへ向かった神明は、そこで、今回の作戦で使用する兵器――魔石爆弾の提供の場に参加した。


「そう、ポンポン新型爆弾を求められてもな……」


 陸軍側はいい顔をしなかった。

 それもそのはず、先の日本本土防衛戦において、陸軍は、海軍の要請に応じて、魔石爆弾を提供したのだ。


 海軍はそれを用いて、敵重爆撃機の基地へ彩雲改二を送り、破壊した。日本本土の防空に関しては陸軍がメインなのだが、異世界帝国の爆撃隊に爆撃を許したのが、相当腹に据えかねたらしい。首相の東条 英機も、手段を選ばず報復すべしと声を張り上げたのだという。


 かくて、第九艦隊が、敵の転移ゲートへ突入、陸軍の求める報復を成し遂げた。陸軍としては、それで一応溜飲を下げたのだが、そこへきて、海軍はさらに魔石爆弾をもう1発欲しいと言ってきた。


 本土を爆撃した敵基地を叩くことならば協力はするが、撤退した敵艦隊に魔石爆弾を用いるのは、陸軍側の本音を言えば、ノーであった。

 敵艦隊残党掃除は、そもそも、海軍の討ち漏らしであり、そこに新型爆弾を提供するほど、陸軍もまた余裕があるわけではない。

 渋る陸軍側に対して、発言を許された神明は言った。


「陸軍の新兵器が、敵艦隊を撃滅に貢献すれば、国民は喜ぶでしょうな」

「……!?」


 これには伊藤や中澤も目を剥いた。


「艦隊撃滅は、海軍の手柄ですが、大本営の発表に『陸軍の新兵器』が頭につけば、国民はどう受け取るでしょうか」


 神明は事務的に告げる。


「我らが陸軍は、本土侵攻を企てた敵に対し、それが海だろうが空だろうが、地獄の果てまで追い詰め、撃滅する。――さぞ新聞も、陸海軍共同の手柄と書きたてるでしょうな。これは陸軍の手柄とも言えるのではないでしょうか」

「大本営発表の際は、その辺りを強調してもらえるんでしょうな?」


 陸軍側が言えば、軍令部の伊藤次長は真顔で頷いた。大本営報道部の発表する文面にそのように記載すると海軍側は了承した。


 かくて、陸軍は魔石爆弾を一発、海軍に譲渡した。なお作戦に当たっては、魔石爆弾が敵艦隊に通用するか、陸軍から観戦官が派遣されることになった。

 神明は、目当ての爆弾を手に入れたが、中澤第一部長は、あまりいい顔をしなかった。


「艦隊に魔石爆弾が通用すれば、陸軍は、艦隊など不要! 引いては海軍不要、陸軍との統合を言い出すかもしれない」


 海軍の存在意義に関わることだと、どうにも納得していない様子だった。これを伊藤次長が宥める。


「今はそれを言っている場合ではないだろう。そもそも、我が日本は海洋国だ。海軍なくば、陸軍は日本から出ることもできないのだから、それでどうやって異世界帝国と戦うというのか。……やりようはあるよ」

「まあ、ええ、そうですな」


 温厚な伊藤の言葉に、それなりに納得できたのか、中澤の語気も柔らかくなった。



 後年、中澤は、神明 龍造について、こうコメントしている。


『目的のためには、手段を選ばない男だったね。相手の欲しい言葉を選んで、こちらにとって都合のいい状況になるように、操っているようにも思えた』


 彼の提案する作戦に必要なものというのが、これが不思議と揃ってしまう。


『だから、そういう意味でも、彼は魔術師だったね』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ