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第九一七話、長期戦の構え


 異世界帝国軍は、南極拠点――ティポタを日本軍に渡したくないようだった。

 一個艦隊、陸軍を載せた輸送艦隊、そして潜水艦隊。送り込まれた戦力を各個撃破した小沢艦隊だが、思案のしどころであった。


「内地から支援部隊第二波がいつ来るかわからない」

「そして、敵の増援がまだ現れるかもしれない」


 小沢艦隊司令部は、残弾を気にしつつ、耐久せねばならない。参謀長の神明 龍造少将は発言した。


「長引くのであれば、艦艇の燃料についても考えた方がよいでしょう。特に駆逐艦は」


 高速を利して走り回る駆逐艦は、機関の強弱が激しく、燃費の消費を加速させる。巡洋艦以上の大型艦と比べても、燃料搭載量が少ないから余計にである。


「まだ駆逐艦も保つのではないか?」

「足りなくなる前に手は打っておくべきかと」


 神明のそれに、小沢はもっともだと頷く。


「ふむ……。いざとなれば内地に転移で戻すこともできるが……。タンカーを要請すべきか?」


 通常、戦地まで移動する際には、艦隊に燃料補給を行う高速タンカー部隊がつくものだが、転移連絡網が整備されて以来、日本海軍は、タンカーを随伴させる例は減った。

 一応、戦場後方の退避地点にタンカーや工作艦を待機させることもあるが、精々その程度である。


「しかし、水雷戦隊は魚雷も消費し尽くしているからな。燃料だけでなく、水雷装備の補給のためにも内地に戻したほうがいいかもしれない」

「四水戦の代わりの水雷戦隊を、早急に送ってもらうべきかもしれません」

「どこに余裕がある?」


 小沢は思案する。


「第一艦隊と、各機動艦隊の水雷戦隊は、どこも修理、補給待ちだろう。インド洋の第九水雷戦隊?」

「あれは、通商破壊で広く展開しているでしょうから、招集だけで時間がかかるかもしれません。……六水戦などどうです?」

「旧型駆逐艦ばかりの部隊か」


 小沢は渋い顔になった。第六水雷戦隊は、開戦時より睦月型駆逐艦で構成されている。第七、第八と新しいナンバーの水雷戦隊が編成されたが、これらは潜水型駆逐艦が中心となっていて、第六水雷戦隊は、その編成に大きな変更はなかったりする。


「フネは古いですが、新品化と現代装備に更新していますから、不足はありません。……大きな戦いに参加する機会がほとんどなかったので、練度については若干不安はありますが」

「第五水雷戦隊は……あれは、ルベル世界か。六水戦でもいいから、早めに送ってもらうよう打診しておくか。山野井参謀――」


 小沢は、通信参謀に伝令として連合艦隊司令部へと派遣した。ついでに第二波がどれくらいで到着できそうか、見込みだけでもいいから聞いてくるようにと付け加えた。


「さて、残る我々だが、現有戦力でもうしばらく何とかせねばならない」

「敵の転移地点の後ろに、第十五戦隊が潜み、敵が現れたところで不意打ちを仕掛けます」


 神明は、海図台の上の簡易地図をなぞった。


「『武尊』は遮蔽により、敵大型艦を叩き、『浅間』『八雲』も浮上奇襲。球形基地手前に配置した三戦隊、五戦隊も砲撃をかけることで、敵に包囲されているように錯覚させられれば、一時的にでも混乱させられます」


 その隙に、可能な限り戦闘力を奪う。勢いに乗って、そのまま殲滅できれば理想であるが、これについては敵の規模に左右される。そして弾薬の在庫によって抵抗できる時間も変わってくる。


「いよいよとなれば、撤退するしかないが、やれるだけはやろう」


 小沢の発言に、参謀たちは首肯した。

 そこへ見張り員が叫んだ。


「転移光です! 敵の増援と思われます!」

「噂をすれば、だな。敵情、確認急げ」


 今度は何が現れたのか。光の中から、異世界帝国艦隊が出現した。



  ・  ・  ・



 本国ゲート防衛艦隊、第3艦隊。その規模は、小沢艦隊が撃滅した『第6艦隊』に匹敵する戦力であった。

 つまりは10隻のオリクトⅡ改戦艦と、10隻のアルクトス級中型空母を有し、重巡10隻、軽巡20隻、駆逐艦40隻の艦隊だった。


 そしてゲート防衛第3艦隊は、転移地点に日本艦隊がいることを知った上で転移してきた。

 第6艦隊が通信途絶。陸軍一個旅団を載せた船団から、救援を求める通信を受けたことで、ゲート防衛艦隊司令部から、出撃を命じられたのが第3艦隊だったのだ。


 出現とほぼ同時に、アルクトス級中型高速空母の飛行甲板から、並べられていた航空機が一斉に浮き上がるように発艦した。


 基地上空を旋回していた制空隊の烈風艦上戦闘機が、ただちに迎撃する。しかし、空母10隻から飛び立ったエントマⅡ戦闘機は、制空隊の数を上回っていた。

 さらにミガ攻撃機の編隊が、小沢艦隊水上打撃部隊に迫る。待ち伏せ配置につく前だったため、日本艦隊は奇襲どころではない。


「一航戦、十航戦に、戦闘機の増援と攻撃隊の出撃を下命! 六十二戦隊に、転移中継装置の用意!」


 小沢は神明を見た。


「転移で敵を躱しつつ、敵艦隊に突撃する。いいな?」

「はい。それが最善かと」


 第六十二巡洋艦戦隊は、転移巡洋艦戦隊である。『勇留』『鳴門』『豊予』『本渡』は、それぞれが艦隊の急な転移に備えて、配置についている。


「敵機、接近!」

「転移退避! 我が水上打撃部隊は、敵艦隊後方に移動する!」


 飛来するミガ攻撃機。小沢艦隊は、対空射撃……をすることなく、転移を使った。ロケット弾装備で突っ込んできた機体、雷撃のために高度を落とした機体は多々あれど、例外なく目標を見失った。

 本国ゲート防衛艦隊第3艦隊の旗艦司令部では、日本艦隊が消えたことに騒然となる。


「逃げた、か……?」


 援軍に駆けつけたところで、第6艦隊を壊滅させた敵が逃げる。拍子抜けもいいところであった。

 だが、そう決めつけるのは早かった。第3艦隊後方に回り込んだ小沢艦隊が反転し、襲いかかってきたからだ。

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