第九一六話、駆けつける敵の援軍
日本軍南極遠征軍支援艦隊こと、小沢艦隊は、南極拠点の増援に現れた一個艦隊を撃破した。
滑り出しは順調に見えたが、それで終わりではなかった。
「転移光を観測! 艦隊規模の転移!」
見張り員の怒号にも似た声が、航空戦艦『浅間』の艦橋に響く。小沢 治三郎中将は表情を引き締めた。
「第二ラウンドだな。さて、どこまで粘れるか」
日本本土防衛における戦いからの連戦である。弾薬に余裕がある艦艇を選抜して編成された支援艦隊だが、先の戦闘でもまた消費した。
何もなければ母港に帰投するところだが、南極拠点ティポタ攻略のため、陸軍が戦闘中である。内地で再編、補給されている支援部隊第二波が到着するまで、この海域に留まらなければならない。
「敵は輸送艦隊の模様! 大型輸送艦と、重巡洋艦含むの護衛艦隊!」
現れた敵について第一報。ここから正確な数の確認が行われる。
「輸送艦隊……?」
「援軍の陸軍を載せているのでしょう」
神明 龍造参謀長は双眼鏡を持った。
「先に叩いた艦隊が露払いをしたところで、海側から歩兵を送り込む算段だったのだと思われます」
「なるほど。しかし、その露払いは、すでに海の底だ」
小沢は相好を崩す。
「基地攻略中の陸軍を挟み込もうという魂胆だったのだろうが、見逃すわけにはいかないのでな。突撃だ」
司令長官の命令が出される。一番最初に反応したのは、制空隊として上空を周回していた烈風艦上戦闘機だった。
爆装している烈風が真っ先に切り込む。転移直後、敵がまだ状況を把握していないタイミングを見計らって仕掛ける。その作戦の通り、緩降下しつつロケット弾攻撃が行われる。
まず狙われたのは、グラウクス級軽空母だった。飛行甲板に敵機が並んでいるのを見た以上、最優先標的となるのは仕方がない。
転移後、艦載機の発進に備えて、防御シールドを解除していたことが、致命的被害をもたらす。
まさに発艦直前だった。先頭の機が浮かび上がるところに、甲板にロケット弾が叩き込まれ、爆発、炎上した。
五隻あった軽空母は、たちまち燃え盛る松明と化した。何とか発艦できたのは、ヴォンヴィクス戦闘機が三、四機ほど。
しかし制空隊の烈風が小隊単位で襲いかかり、たちまち撃墜された。
軽空母、そして陸兵を載せた揚陸艦五隻もまた爆撃によって火の手が上がる。
ティポタ襲撃の報を受けた異世界帝国本国ゲート防衛艦隊ならびに本国ゲート守備隊は、ただちに陸軍一個連隊を送る準備を整えた。
艦隊は一足先に移動し、一個旅団を載せた揚陸艦も人員と物資を収容すると護衛部隊――重巡洋艦5、軽巡洋艦10、駆逐艦20に守られて出港した。
先行した艦隊が、敵海上戦力を一掃したところに、海から一個旅団を逆上陸させて、日本軍を殲滅する作戦であった。
だが現実は、本国ゲート艦隊は、小沢艦隊の速攻により返り討ちにあった。陸軍部隊を載せてやってきた揚陸艦隊もまた、小沢の目の前に置かれたメインディッシュよろしく食らわれるのである。
航空戦艦『浅間』『八雲』、巡洋戦艦『武尊』が、三連光弾砲で、プラクスⅢ級重巡洋艦を攻撃する。シールドがあろうがなかろうが、戦艦主砲に匹敵する一撃を受ければ、重巡洋艦とて一溜まりもない。
むしろ主砲である20.3センチ砲による攻撃をしていた艦など、一瞬で複数弾が直撃し、命中箇所から上をごっそり蒸発させ、爆沈した。
重巡をたちまち片付けると次は、軽巡洋艦だ。素早い砲の旋回と、圧倒的な46センチ三連光弾を撃ち込む『武尊』、一撃一殺のように次々に沈める。
重巡洋艦よりさらに装甲が薄い軽巡洋艦では、直撃に耐えられるはずもなかった。だが異世界帝国軽巡も15.2センチ砲による反撃を試みる。
しかし戦艦部隊と、第十二巡洋艦戦隊の重巡『阿蘇』『笠置』『葛城』『身延』による砲撃は、異世界帝国艦をみるみる撃ち減らしていった。
巡洋艦らの砲撃をよそに、旗艦『神通』を先頭に第四水雷戦隊が突入を行う。揚陸艦を守ろうと壁を形成する異世界帝国駆逐艦。
たちまち砲火が交わされ、被弾するものが相次ぐ。しかし日本海軍側は一式障壁弾を用いて、敵駆逐艦に直撃弾を出すと、その船体を一撃裁断して撃沈した。
本来、対空用の砲弾だが、今では数で勝る敵駆逐艦を早々に沈める武器として、駆逐艦側では好んで使われた。
外すと、位置によっては砲弾が展開した障壁のせいで、次の弾を撃つまでに待たされることもあるが、当たればその威力は頼もしいの一言であった。
頼みの水上打撃戦力が潰され、異世界帝国の揚陸艦部隊は窮地に陥る。肝心の陸軍旅団を載せた揚陸艦は、烈風からの先制爆撃で被弾、炎上していた。
その次の行動は、予定通り上陸なのか、あるいは日本艦隊から退避なのか。揚陸艦部隊は即断できずに右往左往しているように映った。
当然、それを見逃す小沢艦隊ではない。
第三戦隊の『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』が、距離を詰めつつ41センチ砲を放った。それらは炎上する大型揚陸艦に吸い込まれるように着弾、陸兵と弾薬もろとも吹き飛ばした。
ティポタ援軍にきた揚陸艦部隊が、滅茶苦茶になる。だがそこに、異世界帝国側はさらなる増援を送り込んできた。
「新たな転移光!」
「また増援か……!」
小沢は呻く。今度はいったい何が来るのか。現れた艦艇、その確認作業を進める。
「敵は軽巡洋艦5、駆逐艦20から30!」
見張り員が知らせ、小沢は神明を見た。
「軽巡に駆逐艦。水雷戦隊か……?」
軽巡洋艦戦隊一個に、水雷戦隊。そう思われていたが、制空監視の彩雲艦上偵察機の報告を山野井通信参謀が持ってきた。
「敵は潜水型巡洋艦5、同潜水型駆逐艦15、潜水艦15のようです。敵艦は――」
「敵艦隊、潜航の模様! 潜水艦です!」
見張り員の報告が被った。
「四水戦に対処させろ」
小沢の指示は早かった。
現在、空母を除く日本艦には、対潜用の誘導魚雷が搭載されているが、水中の敵には駆逐艦が処理に当たるのが普通だ。
第四水雷戦隊は、改装された潜水型駆逐艦で構成されている。水上からの対潜攻撃も、水中に潜っての潜水艦と同様の魚雷攻撃で対応できる。
とはいえ――
「さすがに敵も一筋縄ではいかないということなのだろうが、こうも連続すると、弾が不安になってくるな」
球形基地の占領、そして確保のための時間を稼ぐために、小沢艦隊は奮戦するのである。




