第九一三話、南極拠点ティポタの攻防
異世界帝国南極拠点、ティポタにて、日本陸軍第105海洋上陸旅団は、敵守備隊と激しい戦闘を繰り広げていた。
基地の半分を瞬く間に進撃した日本陸軍だったが、異世界人もまた次々と兵と戦闘兵器を繰り出して対応。膠着状態に陥っていた。
陸軍特種船船団は、上陸地点に待機し、飛行甲板を持つ『あきつ丸』『にぎつ丸』は、マ式噴射装置を装備したタ号観測襲撃機を出撃させたり、あるいは収容作業を繰り返していた。
タ号観測襲撃機は、マ式の滞空能力に注目した陸軍が、オートジャイロであるカ号観測機をより進化させた小型低空機である。
オートジャイロには似ているが、マ式エンジンの搭載し、実質、低速小型の航空機であった。
しかも海軍の虚空輸送機のように空中制止や垂直離着陸も可能であり、機体重量に対してパワーがある分、対地ロケット弾や小型爆弾を搭載しての対地攻撃が可能な機体である。
特種船団の護衛として待機しているのは海軍の偵察巡洋艦『旭』である。艦長の芝山中佐は、町と一体となっている基地を双眼鏡で眺める。
しかし戦場は奥に移動しているので、基地内の港区画から戦闘の詳細はわからない。せいぜい、タ号観測襲撃機が行ったり来たり、地上を爆撃するところくらいか。
「……なかなか進めておらんようだ」
「拾った通信によると、敵は奥からどんどんやってきているようです」
副長が、複雑な表情を浮かべる。
「数が減らない云々と、上陸旅団司令部とやりとりしていたそうですよ」
「ふーん……。それはつまり、この基地の奥に、異世界への通路とかゲートがあって、そこから増援が送り込まれているということか?」
「さあ、私にはわかりませんが、その可能性はありそうですね」
副長は軍帽をとって額の汗を拭った。
「そうなると、この基地を制圧するのは、現状の戦力では無理かもしれないってことになりませんかね?」
「最悪、そういう展開もあり得る、な」
考えたくないとばかりに、芝山は首を横に振った。
そこへ通信長がやってきた。
「艦長、外を見張っている稲妻師団の偵察隊から緊急通信です。敵艦隊が出現。こちらに近づきつつあり」
「とうとう来たか」
芝山は渋面を作った。
日本本土に、異世界帝国の大艦隊が襲来したことで、基地周辺海域を制圧するはずだった機動艦隊が、内地へ引き上げてしまっている。
球形基地の海に面しているゲートから、敵艦が入ってくれば、陸軍特種船団は攻撃され、上陸部隊も袋のねずみとなってしまう。
直掩についているのは、偵察巡洋艦の『旭』と、アフリカのギニア湾ゲート守備隊から引き抜かれた第八十二戦隊の封鎖戦艦『北見』『伊那』『米沢』『佐久』のみである。
この封鎖戦艦は、防御障壁を貫通する三連光弾砲を主砲としており、防御や速度に問題はあるが、遮蔽によって姿を隠しつつ、待ち伏せには向いている。
ゲート水路を進んでくる敵艦も、戦艦は無理だが、巡洋艦以下ならば確実に撃破可能な戦闘力を持っていた。
さらに転移ゲートを装備した防空輸送艦が二隻待機しており、ゲートに戦艦などが侵入すれば、別の場所へ飛ばす手筈となっていた。
つまり数では弱体だが、かなりの防戦が可能なようにはなっている。しかし、多勢に無勢であることには違いなく、敵が対策を講じれば、いずれは突破されてしまうことも考えられた。
だから、決して楽観はできないのである。
「内地も大変だと聞く。果たして、味方は来てくれるのか……」
芝山は独りごちる。もし来れないなら来れないで早く連絡してくれれば、陸軍を撤退させ、『旭』の転移ゲートで退却もできる。最悪なのは撤収に間に合わず、やられてしまうことだろう。
「早くも正念場だな」
「艦長!」
新たな通信兵が駆け込んできた。
「友軍です! 連合艦隊が戻ってきました!」
・ ・ ・
芝山や『旭』乗組員の不安をよそに、内地では南極遠征軍支援艦隊が、急遽編成され、補給を受けることなく、即時行動を開始した。
二回ほどの戦闘が可能な燃料、弾薬を有し、かつ損傷軽微ないし無傷の艦を、各艦隊より抜き出したそれは、文字通り寄せ集めであった。しかし所属戦隊ごとの編成のため、僚艦との行動に関して言えば、問題がないレベルの連携は保っていた。
●南極遠征軍支援艦隊:司令長官、小沢 治三郎中将
第三戦隊:(戦艦):「土佐」「天城」「紀伊」「尾張」
第五戦隊:(戦艦):「肥前」「周防」「越後」
第十五戦隊:(戦艦):「浅間」「八雲」「武尊」
第十二巡洋艦戦隊:(重巡洋艦):「阿蘇」「笠置」「葛城」「身延」
第十八巡洋艦戦隊:(重巡洋艦):「利根」「筑摩」
第三十五巡洋艦戦隊:(軽巡洋艦):「天龍」「龍田」「天神」「物部」
第二十九巡洋艦戦隊:(軽巡洋艦):「奥入瀬」「十津」
第六十二巡洋艦戦隊:(転移巡洋艦):「勇留」「鳴門」「豊予」「本渡」
第一航空戦隊:(空母):「大鶴」「紅鶴」「蒼鶴」「翠鶴」
第十航空戦隊:(空母):「隼鷹」「龍鳳」「白鷹」
第十九航空戦隊:(空母):「雷鷹」「神鷹」「角鷹」
・第四水雷戦隊:「神通」 (軽巡洋艦)
第十一駆逐隊 :「敷波」「夕霧」「春雨」「漣」
第十八駆逐隊 :「海霧」「谷霧」「山霧」「大霧」
第十九駆逐隊 :「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」
第二十駆逐隊 :「黒潮」「早潮」「初風」「天津風」
・第三防空戦隊:
第六十七駆逐隊:「雪月」「沖月」「風月」「青月」
第六十八駆逐隊:「天月」「海月」「白月」「浜月」
戦艦10、空母10、重巡洋艦6、軽巡洋艦7、駆逐艦24と、一個艦隊規模の戦力は確保された。
指揮官は、第一機動艦隊の小沢中将がとり、補給が完了次第送られる第二陣が駆けつけるまで、敵南極拠点近海の制海権を確保するのであった。