第九一一話、第九艦隊、ゲート破壊任務に出撃す
海軍軍令部は、第九艦隊を動かした。
その目的は、太平洋上に確認された重爆撃機用ゲートの捕捉と破壊である。
だがこの第九艦隊、軍令部直轄部隊ではあるが、ここ最近の任務は九頭島近海の警護と、新型装備艦の試験が主であり、その戦力も大したものではなかった。
しかし、日本本土の危機ということで、急遽、編成を外れていた稼働艦艇を集めて、それなりの戦力となった。
●第九艦隊:司令長官、土岐 仁一中将(無人艦隊司令官兼任)
戦艦:「薩摩」
大型巡洋艦:「早池峰」「妙義」
重巡洋艦:「那岐」
軽巡洋艦:「矢矧」「鹿島」「古座」「鈴鹿」
特殊巡洋艦:「九頭竜」
第四十一巡洋艦戦隊:「那珂」「鬼怒」「球磨」「多摩」
第四十二巡洋艦戦隊:「北上」「大井」「木曽」
第九航空戦隊:「龍驤」「翔竜」
第十八航空戦隊:「大鷹」「雲鷹」「冲鷹」
第二十一航空戦隊:「千歳」「千代田」
付属:「日進」「瑞穂」
駆逐艦:「若竹」「呉竹」「早苗」「朝顔」「夕顔」「芙蓉」「刈萱」
「貧乏くじを引かされた」
そうぼやくのは、無人艦隊司令長官として、北海道防衛に当たった土岐中将である。魔技研のボス、開発部門のトップということで、無人艦隊の面倒を見ていたが、義勇軍支援艦隊司令長官となった新堂中将の後任として、第九艦隊司令長官を勤めていた。
要するに、兼任である。
最近まで、第一機動艦隊とT艦隊参謀長を兼任していた神明のこともあって、まあ大変だよねと言いつつ、無人艦隊にしろ第九艦隊にしろ前線に出ることはほぼないからと高をくくっていた。
だが無人艦隊は前線に狩り出され、慣れないながらも戦闘をこなし、何とか北海道防衛を成し遂げた。
これで少し落ち着くと思いきや、第九艦隊に出撃命令が下り、兼任で司令長官をしていた土岐は、休みを取る間もなく、またも前線に行かされたのである。
「人手不足、ここに極まれり、だな。まったく――」
「神明さんに比べたら、まだマシじゃないですか」
首席参謀の守谷大佐は言うのである。
「あの人、戦闘中に一機艦とT艦隊司令部を行ったり来たりしていたそうですから」
「こっちはこっちで集中できるから、か? 事実だとしても他人事だと思いやがって」
土岐と守谷は魔技研で、付き合いが長く、割と規律の緩い土岐の性格も相まって、皮肉じみたやり取りはしょっちゅうであった。
「それはそれとしまして、敵はゲートを開いたり消したりしているんでしょう? せっかく艦隊を揃えたとはいえ、何ができるんですか?」
「いいか、守谷君。ゲートを開け閉めするというのは、口で言うほど簡単ではないんだよ。君も魔技研上がりだからわかるだろうが、ゲートを開くには座標固定型と、艦艇装備型がある」
「……つまり、我々は、後者だと推測して、ゲートの発生カ所を捜索し、ゲート艦艇を破壊する、ということですね?」
「だったら簡単でいいよね」
土岐は嫌味な笑みを浮かべた。
「君もアスンシオン島の重爆ゲートは覚えているか? あれはゲート発生器が、ゲートの向こう側にあって、こっちからは攻撃ができなかった」
「重爆ということもあって、もしかしたら前者の可能性がある、と?」
「そういうことだ。偵察機が敵を追尾して発見したゲートも、どうやらアスンシオン島のパターンっぽいんだよね……」
「だとすると、艦隊側からできることなどありますか?」
「我らが神明大先生が、アスンシオン島のゲート破壊をやってのけたからね。無理とは言えないわけだよ、残念ながら」
「では、神明さんをお呼びして助力を得るべきではありませんか?」
きっぱりと守谷は言った。
「実戦経験は、我々より遥かに積んでいらっしゃいますし」
無茶も多い人で、部下として動くと苦労させられるのだが、神明は有言実行型なので、未知のことに挑戦する時、その存在はとても頼もしい。
「君、小沢さんのところに行って、頼んできたまえよ。神明君を貸してくれって」
「……ちょっと無理そうですね」
守谷は背筋を伸ばして、顔を正面に向けた。土岐は意地の悪い顔になった。
「まあ、実はここに来る前に、大先生から知恵をもらってきている。何とかなるよ」
・ ・ ・
第九艦隊は、彩雲改二偵察機の投下した転移中継ブイを使い、観測された転移ゲートの発生場所に到着した。
現在確認されているゲート発生場所は四カ所。そのうちの一つである。
早速、第九艦隊に所属する駆逐艦七隻が、対潜行動を開始。転移ゲート艦が潜んでいる可能性を考え、捜索を開始した。
これら駆逐艦は若竹型二等駆逐艦という旧式ばかりであるが、魔技研による構造再生で新品同様に復活し、開戦後はマ式ソナー、対潜誘導魚雷を装備し、船団護衛に活躍していた。
輸送路の転移ゲート化により、任務を外れた若竹型は、魔技研により少人数化と近代化改装を受け、九頭島に配備されていたのだが、今回の動員で第九艦隊に加えられた。
第九艦隊臨時旗艦、戦艦『薩摩』に、駆逐艦隊から敵潜水艦の存在は確認できず、と報告が入る。守谷参謀長は首をかしげた。
「これは、艦艇装備型ではなく、座標固定型ですかね?」
「だろうね。それでは、待ち伏せ作戦を開始する。指定艦は、準備にかかれ」
神明案に従い、第九艦隊は動く。
第九航空戦隊の『翔竜』から、特殊装備の彩雲改二が発艦。ゲート発生までの空中警戒をする。
そして海上では第四十一、四十二巡洋艦戦隊――5500トン型軽巡洋艦改装の重誘導弾装備艦となった『那珂』『鬼怒』『球磨』『多摩』『北上』『大井』『木曽』の七隻が斜め上空に、大型誘導弾発射機を指向させた。
「座標固定型は、開く場所については文字通り固定だ」
つまり、一度発生した場所から動かない。位置さえわかれば、ゲートがそこに発生しなくても、狙いをつけることができるのだ。
「さあ、持久戦だ」
土岐は腕時計を確認した。転移ゲートが開き、重爆撃機が出てきた時が、攻撃開始の合図だ。