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第九一〇話、連合艦隊は止まらない


 連合艦隊が、日本本土侵攻を目論む異世界帝国艦隊を撃退した。

 しかし軍令部では、まだ安心するのは早く、緊張感が漂っている。


「北海道の敵は、無人艦隊が撃破。帝都圏に迫った敵主力は、古賀長官の連合艦隊主力が撃滅――」


 中澤 (たすく)軍令部第一部長は言った。


「舞鶴を狙った紫の艦隊も、海氷島によって上陸地点を潰され、退却。……危ないところでしたが、敵は引いてくれました」

「海氷島が無効と聞いた時は、肝を冷やした」


 伊藤 整一軍令部次長は目尻を下げる。


「武本中将の機転に救われたな」

「あれがなければ、まだ舞鶴は戦場でした」


 敵艦隊は、日本近海から消えた。だが安堵するのも早く、軍令部内はまだピリピリした雰囲気の中にあった。

 作戦中、本土空爆を行い、艦隊決戦の場に介入してきた敵重爆撃機部隊。その出所を探り、基地への逆襲に神経を尖らせていた。


 そして、ぼちぼち報告が入ってくる。

 太平洋上に、重爆撃機の編隊が空中の巨大ゲートに入っていくとの目撃した偵察員たちからの通報が。


「空中のゲートだと……?」

「海上からは侵入できませんな」


 遮蔽で姿を隠した『旭』のような偵察巡洋艦を送るなどしても、さすがに空を飛べない限り、ゲートの向こうへ行けない。


「星辰戦隊ならば、行けるか?」


 エーワンゲリウム機関を搭載し、空飛ぶ軍艦とも言える星辰戦隊ならば、空中ゲートに侵入もできる。


「新潟と山形に上陸を仕掛けた敵を撃退した後ですから、補給と保守をせねば、すぐには動かせないでしょう」


 日本海軍は、持ちうる兵器を使えるだけどんどん投入したので、すぐに動かせる戦力はさほど多くない。

 そこへ通信担当の軍令部員が駆け込んできた。


「偵察機からの続報です。敵重爆の移動に用いられたゲートですが、爆撃機が全て通過後、消滅しました」

「何だと!?」


 中澤は目を見開いた。


「つまり、敵がどこから爆撃機を飛ばしたか、それ以上探れないということか?」

「おそらく。そうなります」


 むぅ、と唸る中澤。伊藤は驚く様子もなく、事務的に告げた。


「こちらからの逆襲を警戒していたのだろう。爆撃機を出撃、そして帰還した時のみ、ゲートを開くという……」

「確かに、使わない時まで開いておく意味は、異世界人にはありませんからな」


 事実、最初に日本本土へ重爆撃機を敵が差し向けた時は、日本海軍の挺身隊が、ゲートのあるアスンシオン島を攻撃し、飛行場とゲート発生装置を破壊されている。

 その痛い戦訓があれば、異世界人が警戒していて当然であった。


「面倒なことになりましたね。敵の侵攻艦隊を叩いて、上陸は阻止しました。つまり、彼らの侵攻作戦は頓挫したわけです」


 そうなると――


「敵は重爆撃機による本土空襲を継続するのか、あるいは中止するのか、それがわからないと現状の防空体制の警戒は続けなければいけませんし、再編も急がなくてはなりません」


 ゲートが開きっぱなしだったなら、こちらから仕掛けて、敵が爆撃をしようがしまいが関係なく攻撃できる。

 しかしゲートが閉まり、敵次第となれば、日本側は受け身で常に警戒し続けなくてはいけなくなる。


「防空体制の復旧、強化は、どの道必要だ」


 伊藤は言う。


「遺憾ながら、敵に本土空襲を許してしまったからな。それに――」


 地図を見やる。


「南極遠征で、まだ敵球形基地の攻略戦も継続中だ。敵が撤退したということは、逃げた敵がそちらに現れる可能性がある」

「一難去ってまた一難。まだまだ、終わりませんな」


 中澤は首を振るのである。



  ・  ・  ・



 連合艦隊司令部のある旗艦『出雲』の長官公室に、各艦隊の司令官と参謀長が集まっていた。


「まずは、今回の防衛戦に尽力してくれた皆の働きに深く礼を述べたい」


 古賀 峯一連合艦隊司令長官が、まず言った。


「損害も多く、犠牲者も少なくないが、しかし我々は、まだ戦いが終わっていない」


 敵重爆撃機基地の排除、南極遠征。司令官たちの表情は、戦勝の後と思えないほど険しい。


「だがそれ以前に問題がある。草鹿参謀長――」

「はい。現在、我が軍の鎮守府について、横須賀、呉、舞鶴が敵の攻撃を受けて、平常通りの状態ではありません。つまり、修理、燃料・弾薬の補給について、その作業にも支障が出ます」


 司令官たちはざわつく。母港に帰投しても、再び戦闘が可能になるのに時間がかかる。


「佐世保、九頭島他、そちらに回っても、順番待ちが発生するでしょう。故に、我々は、損傷の少ない艦を選抜、優先的に補給を行い、臨時編成部隊で作戦行動に移るのが最善となりましょう」


 臨時編成部隊――集まった将官らはざわめく。古賀が口を開いた。


「重爆撃機の基地の件は、軍令部が第九艦隊を再編し、対応するそうだ。我が連合艦隊は、南極遠征作戦を再開し、球形基地の制圧支援を行う」

「今もまた南極の戦いは続いているのですか?」


 とある参謀長の質問に、古賀は頷いた。


「うむ、現在も交戦中だ。艦隊の支援がない状態ではあるが、敵も日本攻略に戦力を集結させていた影響か、そちらに敵の艦隊は現れていない。だが――」


 日本侵攻を諦めた敵が、南極基地防衛に現れるかもしれない。対策はしているが、所詮は小手先のものであり、基地ごと破壊するような攻勢があれば、陸軍部隊は壊滅してしまうだろう。


「というところで、各艦隊の所属艦の中で戦闘に耐えられるものに優先して補給を行う。戦力の抽出について、各艦隊の協力を強く要請するものである」


 通達はただちに行われ、残存戦力の再編、補給が開始された。

 ゲート封じのために第一次世界大戦以前の近接砲撃戦が頻発した結果、水上打撃部隊に関していえば、無傷の艦を探すほうが難しいほどの被害を連合艦隊は受けていた。そこで注目されるのは、空母とその護衛艦艇群であった。

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