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第九〇七話、怒涛の日本艦隊


 ムンドゥス帝国地球征服軍の主力である本営艦隊と征服軍第一艦隊に、日本海軍第一機動艦隊、そして第一艦隊が突入を開始した。

 小沢中将の一機艦は(くさび)を打ち込み、古賀大将の第一艦隊は、敵艦隊の傷をさらに切り開く。

 連合艦隊旗艦である『出雲』も、艦首の46センチ三連装砲を発砲し、1.4トンの徹甲弾を、炎上する敵ヴラフォス級戦艦に直撃させ、爆沈させる。


「敵重爆に介入される前に片をつける!」


 古賀 峯一連合艦隊司令長官は声を響かせた。


「これ以上、内地に進ませるな!」


 後続する播磨型戦艦が51センチ連装砲から黒煙を噴き出させる。先頭から順に後続艦へと繰り出される様は、一種の儀式めいて鋼鉄の巨艦の行進を力強く魅せた。


「左舷方向! 敵水雷戦隊、接近!」


 見張り員が叫ぶ。異世界帝国の駆逐艦が七、八隻――さらにその後ろにまた数隻が、側面に回り込むように波を切りながら向かってくる。


 だが、そうはさせじと、第十五巡洋艦戦隊の『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』が20.3センチ連装速射砲を、まるで太鼓を叩くようなリズムで撃ち出した。


 さらに第二十七巡洋艦戦隊の軽巡洋艦『大沼』『神西』『尾瀬』『浜名』が15.5センチ三連装砲で、エリヤ級駆逐艦を迎撃。装甲なき駆逐艦を砲弾が貫通し、その主砲である13センチ砲を砕き、艦上構造物を破壊した。



  ・  ・  ・



 本営艦隊に食い込む日本艦隊に対して、ムンドゥス帝国征服軍第一艦隊の旗艦『クレマンソー』では、ゲラーン・サタナス中将が叫んだ。


「親父殿を助けろ! ただちに援護に迎え!」


 征服軍第一艦隊は、本営艦隊の右舷やや後方に位置していた。これはちょうど、日本艦隊が突撃してきている方向の正反対であり、そのままでは敵を狙い撃つのが非常に難しい位置にあった。


「日本軍め! こちらの位置を計算して突っ込んできやがったな!」


 実に腹立たしいことであった。

 だが日本軍の攻撃は、まだ序の口である。


『対水上レーダーに反応。方位0-5-5、距離30キロの地点に、複数の艦が出現!』


 索敵が、本営艦隊とは反対舷方向に現れたそれを捉えた。さらに。


『対空レーダーが複数、いや多数の光点を確認。方位、位置から、先ほど報告の艦隊が、艦載機を展開している模様!』

「なに――」


 ゲラーンは目を見開いた。


「空母だと!? まさか砲戦距離内に空母を転移させたというのか!?」


 それ以外に水上レーダーに加えて対空レーダーも反応を捉えたりはしない。しかし、それが事実だとして、艦載機の展開速度が異常に早いのではないか。


「味方ではないんだな? どうなんだ?」


 垂直離着陸機能を持つ最近のムンドゥス帝国艦載機ならば、飛行甲板から直接垂直に飛び上がり、急展開も可能ではある。現れたのは日本軍ではなく、後方にいた空母部隊ではないのか?


『敵味方識別反応なし! 味方ではありません!』


 悲鳴じみた航空管制官の報告に、ゲラーンは舌打ちする。よく考えれば、あの位置に転移ゲート艦を置いていないから、友軍の可能性などほぼなかったのだ。


「閣下!」

「わかっている、ストラテゴス」


 ゲラーンは、参謀長に答える。


「間に合うかわからんが、戦艦の砲戦距離に侵入されて撃たないのは戦艦の恥だ。主砲、発射! 目標、敵空母!」


 戦艦『クレマンソー』以下、ゲラーン艦隊の戦艦群が、そのビッグガンを振り向ける。

 リシュリュー級戦艦の装備する主砲は1935年型38センチ四連装砲だ。この主砲は45口径ながら、最大仰角で撃ち出した場合、4万1700メートルにも届く。射程ならば大和型に匹敵する遠距離対応砲だ。

 砲弾重量は884キログラムだが、相手が空母であるなら充分な威力である。


 砲が旋回し、射撃態勢に入るゲラーン艦隊。敵は艦載機を飛ばしているが、それが届くのはしばらく先だ。砲弾の速度の方が遥かに速い。


『対空レーダーが高速飛翔体を捕捉!』


 レーダー士官が慌てた声を発した。ゲラーンは振り返る。


「ミサイルか!?」

『本艦ではありません。『ガスコーニュ』に――!』


 そちらに目を向けた時、リシュリュー級改ともいうべき戦艦『ガスコーニュ』に砲弾が直撃した。


「!?」


 そう、直撃だ。海面に落ちなかったから水柱は立たなかった。艦橋が高速砲弾に貫通され、艦首、艦尾にそれぞれ配置された1935年型38センチ四連装砲の天蓋装甲をぶち抜き、吹き飛ばした。


 カッと光が瞬いたと思ったその時には、大音響と共に『ガスコーニュ』だったものがバラバラになり、火山が噴火したような黒煙が天へと昇っていった。


「馬鹿な……! 直撃だと!?」


 戦艦の装甲を穿つ砲弾を撃てるのは戦艦のみ。そして堅牢なその装甲を貫通できる砲を持つ戦艦は多くない。

 信じられないことに、飛んできた砲弾は全弾(・・)命中したのだ。これは常識的に見ても、あり得ないことだった。


『「ガスコーニュ」轟沈!』


 今さら観測所から報告がきたが、言われるまでもなくゲラーンや司令部参謀たちは目の当たりにしている。


「日本海軍の砲撃の射撃精度は高いと言われておりましたが――」


 ストラテゴス参謀長が目を大きく見開く。


「これは、悪魔の所業でしょう。でなければ魔法の類いだ……」


 ゲラーンたちの知るところではないが、この砲弾の直撃は、確かに魔法――能力者による弾道制御が為せる技であった。

 第二機動艦隊水上打撃部隊の戦艦『大和』が、46センチ主砲の最大射程からの一撃を見舞ったのだ。


 艦載機を展開する空母に意識が集まっている間に、水平線の向こうから『大和』がアウトレンジ射撃を行った。ゲラーン艦隊の戦艦は、距離3万の空母部隊を狙い、シールドを解除していたことが、この致命的一撃を許した。


 ――シールドの隙間を狙ったというのか……!? 空母は、そのための囮……?


 愕然とするゲラーンである。そしてその動揺は、各戦艦の艦長たちも同じだった。


『敵空母部隊、消失。おそらく転移により離脱した模様!』

『敵航空機群、接近!』

「しまったっ!」


 虚を衝かれ、砲撃のタイミングを逸してしまった。おそらく各艦の砲術長らは目標に狙いをつけ、艦長の号令を待っていたに違いない。

 呆けていたのはどれくらいかわからないが、追い打ちをかけるように日本軍航空隊が迫りつつあった。

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