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第九〇六話、浮上襲撃


 上陸船団が、敵潜水艦隊に襲われている。

 その報は、地球征服軍司令長官のサタナス元帥にとって、看過できない事態であった。日本本土に乗り込む陸軍部隊を船ごと沈められては、侵攻作戦が破綻する。兵が上陸できなければ意味がない。


「護衛部隊は、敵潜を蹴散らせられないのか!?」


 自然と声が荒々しくなるサタナスである。


「はっ、敵は十数隻もの潜水艦を投じていまして、護衛艦からやられているようです」

「ぐぬ……!」


 潜水艦を狩る護衛艦が先にやられてしまえば、輸送船は手も足も出ない。これが潜水艦が少数であれば、やられる艦艇の数は高が知れているが、敵が多数となれば、護衛部隊を撃破した上で、船団を攻撃できるだろう。


「閣下、船団を救援しませんと――!」


 作戦参謀が発言したが、今から潜水艦を狩るために駆逐艦を、主力より分派するのは、よろしくない。連合艦隊との決戦のため、戦闘艦艇は一隻でも欲しい状況なのだ。


「いや、船団には転移ゲートで安全海域まで退避させろ。こちらの戦力は出せない。――通信! 船団に転移退避を命令!」

「はっ!」


 通信参謀と同士官が、通信室へと駆け込む。マディス参謀総長は眉をひそめる。


「日本軍も、必死ですな」

「きちんと戦いをやっているということだ。あれこそ海軍というものよ」


 サタナスは苛立ちを押し隠して、司令官席に身を預けた。司令塔の管制士官が報告した。


『重爆撃機隊、帰投します』


 本営艦隊上空を周回していたオルキ、パライナ重爆撃機が、翼を翻して撤収を開始した。太平洋上の転移ゲートを使って、遠路はるばるやってきた重爆撃機隊である。帰りの分も考え合わせれば、いつまでも飛び続けることはできない。

 サタナスは渋い顔になる。


「こんなことなら、もっと爆撃隊用のゲートを、日本本土近くに設定しておくべきだった」


 それならば航続距離に余裕が出て、艦隊上空に滞空できる時間も増える。マディスは口を開いた。


「遠方にゲートを置いたのは、日本軍の逆襲を防ぐためです。やむを得ませぬ」


 日本軍は重爆撃機がどこから飛んでくるか探り、可能ならばゲートを封鎖しようとするだろう。本土から近ければ、ゲートを発見される可能性が高くなる。遠方になればなるほど、発覚する可能性は低くなるのだ。


「それよりも、閣下。我々は今後、どう動かれますか?」


 艦隊の集結、戦闘可能艦艇の再編が終わり、また戦闘が可能な状態となっている。日本本土に進軍するとして、現在位置から近いのは関東方面であるが、九州、あるいは頓挫したが北海道へ転移ゲートを用いて移動、仕掛けることもできた。

 サタナスは表情を引き締める。


「どこへ転移しようとも、日本艦隊は現れる。我々は奴らを撃滅せねばならない。このままカントウ方面へ進撃する!」


 決戦である。後退はない。前へ進むのみである。

 そこへ、通信室に行った通信参謀が急ぎ足で戻ってきた。


「閣下! 上陸船団より通信。ゲート艦がやられたため、離脱不能! 救援を求むとのこと」

「何だと!?」


 日本軍は護衛部隊のみならず、転移ゲート艦も狙い、それを攻撃することで転移離脱を阻んだのである。こうなっては、上陸船団は、鮫の群れに襲われる溺者も同然、ただ狩られるのを待つのみとなる。

 戦力を裂きたくはないが、それをしなければ船団は全滅。上陸戦力を失えば、日本侵攻作戦は瓦解する。


「おのれ――」


 サタナスが言葉を吐いたまさにその時、遠くで爆発音が連続した。


『敵艦、出現! 近い!』

「っ!?」


 日本海軍は、本営艦隊の意思など関係なく動いていた。重爆撃機が去り、彼らは攻撃を再開したのだ。



  ・  ・  ・



 爆撃隊の襲来の際、連合艦隊の主力である第一艦隊は、転移離脱した。第一機動艦隊は煙幕を用いて、潜水可能な艦艇は潜水行動を開始。潜水できない艦は、第一艦隊と共に離脱した。

 そして口火を切ったのは、潜水状態で潜んでいた一機艦の水上打撃部隊であった。


 浮上した航空戦艦『浅間』『八雲』は、艦首の40.6センチ三連光弾三連装砲を発射。防御シールドを貫通する三連光弾が、オリクト級戦艦に突き刺さり、爆発を起こす。


 また同じ頃、第五巡洋艦戦隊の『石動』『国見』『戸隠』『五竜』も浮上し、30.5センチ砲を発砲した。

 『石動』『国見』の三連光弾は、異世界帝国重巡洋艦を貫通し、爆沈させる。


 一方、『戸隠』『五竜』の主砲は、通常の実体弾を撃ちだす砲のため、シールド装備の艦に初撃ダメージは難しい。

 だが魚雷よろしく、使い捨ての光線砲を装備し、その一撃を以て、シールドを破壊。そこに徹甲弾を撃ち込んだ。


 近距離での殴り込みである。戦艦、大型巡洋艦を援護する第七水雷戦隊の軽巡洋艦『水無瀨』、第二十四、二十六駆逐隊が、敵小型艦に主砲を叩き込み、横やりを防ぐ。


「敵は慌てているぞ」


 第一機動艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は不敵な笑みを浮かべた。航空屋の前は水雷屋。敵艦隊へ突入とばれば、不思議と気分が高揚した。それも先制攻撃が可能な場面となれば、小沢の開始五分で決着がつくという持論の証明どころであった。


「本隊を引き入れろ。畳み掛けるんだ!」


『浅間』の転移中継装置が発動。潜水できないために第一艦隊と退避していた一機艦の残りが転移で現れる。

 第三戦隊の戦艦『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』が、『浅間』と僚艦『八雲』の後ろに二隻ずつ現れると、それぞれ斜め前方の敵戦艦に対して、41センチ砲を振り向け、発砲した。


 大型巡洋艦『石動』『国見』もまた、十七巡洋艦戦隊の『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』、五十一巡洋艦戦隊の『愛鷹』『大笠』『紫尾』を転移中継装置で引き寄せ、異世界帝国本営艦隊を揺さぶる。


 雪崩れ込む第一機動艦隊水上打撃部隊は、三連光弾砲を装備した艦により、敵艦の防御シールドを崩し、通常砲装備艦がさらに道を切り開いていった。

 本営艦隊側も、遅ればせながら反撃を行うが、それは自らのシールドを解除することを意味していた。


 一機艦に続き、古賀大将の第一艦隊が、戦場に転移。その怒濤の攻撃は、本営艦隊を圧倒していくのであった。

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