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第九〇三話、窮地の一手


 紫星艦隊主力の出現。

 第七艦隊、第三機動艦隊は背後を衝かれる格好となった。だがその対応は異なった。第七艦隊が上陸船団への切り込みを継続する一方、三機艦は――


「第三、第十九、第二十巡洋艦戦隊は、突撃を続行せよ!」


 三機艦司令長官の三川 軍一中将は命じた。


「第九、第十戦艦はただちに反転! 後方の敵艦隊に応戦する!」


 大型巡洋艦と重巡洋艦戦隊に船団攻撃をやらせ、伊予型、美濃型戦艦の六隻は、追い上げてくる紫星艦隊――シャラガー隊に対して艦首を向けた。


「面舵! 敵の頭をとれ!」


 旗艦『越前』を先頭に、三機艦の戦艦は、向かってくる異世界帝国艦隊に対して全主砲を向けた。


「撃ち方始め!」


 41センチ三連装砲三基九門、六隻五十四門が火を噴いた。しかしそれに倍する砲弾が降り注ぎ、海を叩き水柱を突き上げさせた。

 シャラガー隊もまた、果敢に砲撃を仕掛けてくる。


 三機艦にとって、正面から撃ち合うには不利なのは明白だった。だが、敵に後ろを取られたままではよろしくない。

 そんな三機艦の三川中将だったが、旗艦の転移室に第七艦隊から佐賀作戦参謀がやってきた。


「武本中将から遣いとして来ました」


 転移室経由でやってきた佐賀参謀は、第七艦隊側の作戦を説明した。それを聞いた三川は頷いた。


「確かに、それが最善かもしれない」


 この状態で挑んでも、損害も馬鹿にならない。それで敵と刺し違えられるというなら、意地を通してもよいが、現実には敵の一部を沈めても残りが舞鶴を攻撃するだろう。

 一番は、敵の意図を阻むことだ。


「了解した。その作戦、こちらも乗ろう」


 かくて、戦艦部隊も砲撃を継続しながら舞鶴方面へと引く。

 後は、海氷島の使用が認められれば、というところだったが、この時、紫星艦隊の方で、一つの事件が起きた。



  ・  ・  ・



 紫星艦隊主力の二つ、テシス隊とシャラガー隊の後ろに控えていた高速空母群。砲撃戦の推移に合わせて、攻撃隊の発艦準備が進められていた。


 が、そこを日本軍の奇襲攻撃隊が襲いかかったのだ。

 流星改二艦上攻撃機が、対艦誘導弾を発射。さらに紫電改二が肉薄し、ロケット弾攻撃を行った。

 飛行甲板上のエントマⅡ戦闘機、ミガ攻撃機にロケット弾が迫ったが、防御シールドが発艦前の機を守った。


 さすがに精鋭である皇帝親衛隊。奇襲に対して備えていたが、シールドを抜けてくる転移誘導弾まで防ぐことはできなかった。

 流星改二の攻撃で、各空母4の中型空母が被弾、大破した。そして『ギガーコス』『ドランシェル』それぞれに対して6発ずつの対艦誘導弾が撃ち込まれた。


 旗艦『ギガーコス』、そして『ドランシェル』の二隻は艦体中央から艦尾側に命中し、大きな損害を受けた。


『艦尾ガンマ、デルタ砲に直撃。遮蔽シールドにより誘爆は阻止しました!』

『第四機関室、大破。艦速、落ちます!』


 もたらされる被害報告に、艦長のディレー少将は艦の保全を命じる。動揺する参謀たちをよそに、参謀長のジョグ・ネオン中将は落ち着き払っていた。


「もらいましたな。しかも、これは大きな被害です」

「この『ギガーコス』でなければ、今ので最悪、轟沈していたな」


 ヴォルク・テシス大将は冷や汗を拭った。


「こちらの防御を悉く抜いてくるとは、おそろしい爆弾だ」


 防御シールドも、艦自体の分厚い装甲も無視して、艦の内部で爆発した。新鋭艦であるギガーコス級は、弾薬庫誘爆などに備えて、重要区画自体にもシールドを張る防御設備があった。

 結果、転移で艦内で爆発した敵弾は、内部シールドによってその威力を抑えられたのだった。


 ギガーコス級には、旗艦級大型戦艦キーリア級のような多重防御シールドは搭載されていない。しかし艦内に入り込んでくる転移弾に対しては、ダメージは受けてもその損害レベルは雲泥の差があった。


「しかし、中破、ないし大破レベルの損害ですな」


 轟沈しなかっただけで、『ギガーコス』の負った被害は、決して軽くない。主砲は半減し、速度低下は免れない。戦闘に支障があった。


「敵は少数だった模様です」


 ディレー艦長が報告した。


「およそ30機ほどの航空機の攻撃だったようです。空母はやられましたが、それでなければ、本艦も危なかったところです」

「敵の奇襲攻撃隊か……」


 テシスは司令官席にもたれた。


「前衛部隊を空襲した直後にしては、ずいぶんと早い攻撃だったが」


 紫星艦隊側の知るところではないが、主力を襲った少数の奇襲攻撃隊は、第三機動艦隊のものではなかった。

 日本海に侵入したギガーコス級を追尾するために派遣された第二機動艦隊の空母『海龍』の攻撃隊だった。


 中継ブイを利用し、ほぼ全力となる66機を出し、テシス隊、シャラガー隊に分かれて襲撃した。


「時間差……いやトラブルで1隻だけ攻撃隊の発艦が遅れていたのか。まあ、何にせよ、上手くやったものだよ」


 さすがのテシス大将も、奇襲攻撃隊の出所について確かなことはわからなかった。

 だが紫星艦隊の不運は、それで終わらなかった。


『敵艦隊、消失! おそらく転移で退避した模様!』


 観測所からの知らせが司令塔に響き、テシスらは顔を上げる。


「転移……」

「逃げましたか」


 前衛部隊――プロトボロス級航空戦艦に率いられた二つの艦隊――アルファ隊、ベータ隊が、日本艦隊を挟み撃ちにしようと反転していた。

 アルファ隊の方は、日本軍の奇襲攻撃隊でその戦力を半減していたとはいえ、シャラガー隊との挟撃には充分な戦力を有していた。これには日本艦隊指揮官も不利を悟り、離脱したのだろう。


「敵艦隊が引いたなら、マイヅルへ攻撃を仕掛けるまでですな」


 ネオン参謀長がそう口にした時、視線を向けた舞鶴に巨大な氷壁が現れた。日本軍の海氷の壁を使った兵器それが再び現れたのだ。

 しかしそれは、ムンドゥス帝国艦隊を攻撃するためではなかった。舞鶴湾への入り口を氷の壁が塞いでしまったのだ。

 これにはテシス大将も「あー」とらしくない声を上げた。


「これは……やられた」

「長官?」

「参謀長、全艦に集結を命令。撤退する。作戦は――」


 失敗だ。

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