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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第八十九話、東からの脅威


 異世界帝国太平洋艦隊、ハワイを出航す。


 9月5日。第六艦隊の潜水艦『伊22』の通報は、中継を経て、日本本土に届けられた。その後も、数隻の伊号潜水艦から通報が相次ぎ、南方作戦を進める連合艦隊にも、内地の軍令部にもその報告が入った。


 永野軍令部総長は、伊藤整一軍令部次長と共に、確認作業にかかる。


「戦艦12、3隻、空母もほぼ同数の大艦隊……」


 永野が呻くように言えば、伊藤は淡々と報告用紙を睨んだ。


「複数の報告です。巡洋艦は20以上。駆逐艦も最低でも50以上、おそらく6、70はいるでしょう」

「これらの行き先は、フィリピンかね?」

「おそらく……」


 艦隊には他に大規模な輸送船団と、護衛艦隊がついており、これらは陸軍戦力と物資を満載していると考えられた。その数、数百にも及ぶ。


「ついに、来るべき時が来たか」


 永野は呟く。


「意外に遅かったか……?」

「この時期になったのも、上陸部隊が揃ったからでしょうな」


 伊藤は言った。


 先月の南方作戦発動の時点で、敵太平洋艦隊が救援に出撃してきてもおかしくなかった。だが、実際は9月になるまで動きは見られなかった。


 東南アジアを守る敵陸軍で守りきれると考えたのか……否、8月の時点で出撃しても間に合わないと考えたのかもしれない。


 しかし今回、充分な陸軍部隊を揃えて、大船団の先駆けとして、敵太平洋艦隊は出撃してきた。

 これは明らかに、南方奪回を企図している。


「当然ながら、これを叩いて、敵の南方奪回を阻止しなくてはなりません」

「うむ。連合艦隊には、敵太平洋艦隊の撃滅を命じる」


 日本の命運は、敵の南方進出の成否にかかっている。ようやく手に入れられる石油を含め、ここで資源を得られなければ、日本は戦う力を失う。


 これは、決戦にも等しい負けられない戦いである。


「もう数か月遅く来てくれれば……」


 伊藤が珍しく顔をしかめた。


「『武蔵』や『紀伊』なども連合艦隊に送ってやれたのですが」

「訓練期間が短い。数だけ揃えても、戦力とは言えない。……とはいえ――」


 永野は目を閉じた。


「こちらでも何かできることはあるかもしれない。……神明大佐にも教えてあげなさい」


 軍令部には、第九艦隊がある。



  ・  ・  ・



「――と、言うわけで、またまた私が派遣された」


 伊藤は、九頭島司令部に足を運んだ。事が起きれば、第九艦隊の司令長官を務めることになる。


 そして、毎度の如く、神重徳大佐もいた。第九艦隊が戦地に行くなら、参謀として司令部付きになるよう言われているらしい。……ひょっとして、軍令部で、煙たがられているのでは? と、神明は勘ぐった。


 伊藤は首を捻る。


「神明大佐、君ならこの状況をどう考える?」


 そこで神が期待するような目を向けてきた。今度はどんな作戦で、殴り込みをかけますか――と言っているような目である。

 セレター軍港強襲、マリアナ諸島奇襲と、すっかり神に気に入られているようだった。


「連合艦隊は、敵太平洋艦隊と正面から迎え撃つ――これは確定事項です」


 そんな期待されても、それ以上のことは言えないぞ、と心の中で付け加える。


「連合艦隊が勝てばよし。負ければせっかく手に入れた南方と石油を失う、と。……ただ、この連合艦隊が負けた場合でも、最悪引き分けに持ち込む手はあります」

「続けたまえ」


 伊藤は促した。神明は淡々と告げた。


「敵の陸軍を載せた輸送船団を壊滅させればよいのです」


 敵は、艦隊だけでなく、陸軍も用意した。それはつまり南方を取り戻すためだ。だから、その上陸部隊を叩けばどうなるか?


「前回、第九艦隊がマリアナの飛行場を叩いた時と同じです。たとえ飛行場を全滅させ、攻撃能力を喪失させても、上陸部隊を伴っていなければ、占領はできない」

「あ……!」


 神が声を上げた。そうだ、サイパン、グアムを奇襲し、第九艦隊が引き上げる際、彼は言ったのだ。――我々に後続部隊があったなら、マリアナ諸島を奪還できた、と。


「今回も同じです。仮に敵太平洋艦隊が、連合艦隊を撃退しようとも、肝心の上陸戦力がなければ、東南アジアを奪い返すことはできない」

「確かにそうだ」


 伊藤は静かに言った。


「しかし、連合艦隊は、敵太平洋艦隊との決戦に臨むだろう」

「よろしいですか?」


 神が挙手した。


「軍令部から、連合艦隊に、輸送船団を優先して叩くように指示を出しては?」


 そもそも作戦に関していえば、軍令部が出すものであり、連合艦隊はそれに従うものだ。……とはいえ、それはここ最近では形骸化しつつある。現場の連合艦隊の考えが優先されるきらいがあり、作戦についても連合艦隊司令部から案が提出されることも珍しくなかった。


「敵艦隊が目の前にいて、輸送船団を先に狙うのは、まず不可能だろう」


 むしろ、その船団を叩くために、まず敵艦隊を排除する、というのが基本だ。敵だって船団が狙われていると見れば、それを阻止に動くだろうから、それを排除しなくては輸送船団の攻撃すらできない。


「連合艦隊に、敵主力と決戦をしながら、輸送船団を攻撃する余裕はないだろう」

「ええ、連合艦隊とは別の部隊が必要でしょう」


 神明は頷いた。――だから、そこで第九艦隊が殴り込みを、みたいな目をするのをやめてくれないか、神。


「まあ、適当なところで潜水艦を集めて攻撃させる、というのも手ではありますが」

「果たして、第六艦隊に、索敵以上のことが可能かどうか」


 伊藤は、渋い表情を浮かべた。


 潜水艦中心の編成である第六艦隊は、異世界帝国の対潜兵器の前に消耗を重ねている。魔技研のマ号潜の技術を投じた新型の建造を急ピッチで進めているが、それでも前線に出られるようになるのは、まだ少し先となるだろう。


「……そもそも、敵も、輸送船団に対する攻撃に備えて、護衛艦隊をつけているでしょうから、潜水艦とて簡単にはいかない」


 情報では数百を超える大船団だという。前線に展開する伊号潜水艦をかき集めても、退治できるようなものでもない。東南アジア一帯を奪回する規模なら、当然か。


「まあ、うちのマ号潜隊が仕掛けて、もう一押しあれば、不可能ではないでしょうな」

「もう一押し」

「……ここは亡霊の手を借りるというのも、有りです」


 神明は意味ありげにそう告げた。

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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