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第七八四話、星辰戦隊、空中襲撃!


 中央輸送船団の上空に、敵機の姿はなかった。

 多数の輸送船が、列を形成し、10ノット前後の速度で進んでいる。高速の空中軍艦から見下ろせば、海上を行く船団が、ナメクジのように遅くみえて仕方がなかった。


 青い海の上を這うように進む敵船団だが、それはもちろん遠くから見るから遅く感じるのであって、近くでみればそれなりの速度で動いている。


「さすがに数が多いな」


 星辰戦隊司令の高橋 総二郎大佐は呟く。

 一群200隻! その左右と後方を、駆逐艦が対潜警戒に配置されている。空から見ればその配置は一目瞭然であった。


「『北辰』は、敵船団の上空を旋回し、攻撃を仕掛ける! 『妙見』は旗艦に続け。――大田原艦長」

「はっ、周回攻撃、了解です」


 北辰を指揮する大田原 宏治少佐は頷いたが、微妙な表情になった。高橋はそれを見逃さなかった。


「どうした、艦長? 緊張しているのか?」

「はい、いえ、まあ緊張はしとりますが、どうも艦長というのは慣れなくありまして」

「……そうか」


 水雷から航空に移った高橋ではあるが、大田原は、生粋の航空屋である。水上艦乗組員は最初だけで、あとはずっと基地航空隊で過ごした。火山重爆撃機の指揮もこなしているが、円盤兵器から作られた空中軍艦は、当然ながら初めてである。


「機長呼びから突然、艦長では、混乱はするよな」

「こいつが飛行機なのか軍艦なのか、そこから話が始まりますな」

「海軍の定義が、はっきりしていないのがいけない」


 高橋は軍帽を被り直した。


「飛んでいるから航空機、ではあるのだが、その人員配置は、軍艦のそれに近い」


 とはいえ、それを今言っても仕方がない。だから高橋も視線を転じた。


「ひとまず、仕事と行こうか。艦長」

「はい!」


 空中軍艦『北辰』は、異世界帝国輸送船団の上空に接近すると、速度を落とし、艦を左に傾けた。そしてそのまま緩やかな旋回飛行に移る。


「左砲戦、用意!」


『北辰』の艦首上面に一門設置された40.6センチ単装三連光弾砲を、左へ旋回する。

 同じく下面に搭載された14センチ単装光弾砲も向き、円盤部の左舷側光線砲も、それぞれの発射態勢に入った。


 遅ればせながら、『北辰』は全長170メートル。全幅は円盤部で83メートルある。これでも元のアステールが155メートルの直径だったことを思えば、幅はかなり削られている。

 その武装は、三連光弾砲を艦首に一門、下面に14センチ単装光弾砲二門。そして円盤部に12.7センチ連装高角砲三基六門、8センチ光弾砲八門。円盤部に回転式光線砲二基十六門。底部熱線砲一門、対空用の20ミリ三連装光弾機銃二十四基となる。まさに円盤部は、小さくなった分、ハリネズミのように武装されていた。


 これらの中で、主力となるのは40.6センチ三連光弾砲と、14センチ光弾砲、回転式光線砲となる。最大火力は底部熱線砲だが、威力と引き換えにエネルギーの消費も大きいため、普段使いはできない。


 なお、僚艦である『妙見』は、三連光弾砲が40.6センチではなく、20.3センチ三連装砲とスケールダウンしている一方で、艦首と艦尾にそれぞれ装備しており、より中・小艦艇への駆逐能力が向上している。武装面の違いは、そこだけで、後は『北辰』と同じである。


「防御障壁のない輸送船相手に、三連光弾砲や光線砲は、過剰武装でありますな」

「神明少将も継戦能力を気にしていたからな。なに、一撃必殺で済むと思えばよい」

「確かに。爆撃では、当たり所によっては一発では沈みませんからな」


 大田原が頷けば、各砲から攻撃準備よしの報告が揃った。


「司令」

「いつでもいいぞ、艦長。よい射撃演習だ。外してくれるな」

「了解です。――撃ち方始め!」


 艦長の号令以下、斜めに傾いている『北辰』の各種砲が攻撃を開始した。

 40.6センチ光弾砲が、全長160メートルほどの輸送船の船体を撃ち抜き、物資を燃やすと共に爆発させる。

 強力な威力を持った光線砲、左舷側上下に二列あるそれらも、白い光線をそれぞれ放った。


 戦艦や巡洋艦を一撃で破壊力を持つ光線は、輸送船の船体を焼き、そして吹き飛ばす。防御障壁があれば、一回や二回は防げた。だが輸送船にそれはなく、命中すれば一撃大破ないし轟沈となる脅威の攻撃であった。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国の船団は、大混乱に陥った。

 突然現れた光弾と光線により、輸送船が次々に破壊されていく。護衛部隊である各駆逐艦は、対空レーダーの反応もない奇襲によって混乱する。

 空中から艦艇レベルの攻撃が降ってくる。しかも相手の姿は見えない――遮蔽で隠れているとあれば、なおのことだ。


「両用砲、光弾砲にて対空戦闘を開始! 正体不明の敵に砲火を集中せよ!」


 護衛部隊司令は、敵の発砲光の元へと攻撃するように命令を飛ばした。遮蔽を使っていようとも、あれだけ派手に撃ちまくっていれば、おおよその場所を露呈している。

 エリヤ級駆逐艦は、片舷にある一門の8センチ光弾砲で、上空の敵へ発砲する。主砲である13センチ単装砲は、平射砲のため、対空戦には向かないのだ。


 一方で、新たな主力艦であるカリュオン級は、五門ある13センチ砲は両用砲のため、対空射撃が可能。8センチ光弾砲も四門あり、片舷に対して二門の同時使用が可能だった。

 しかし、これら光弾砲や高角砲弾を、しこたま撃ち込んでも、見えない敵は火を噴く様子もない。


「……いったい、あれは何だ?」


 護衛部隊司令は、呆れも露わに言った。

「遮蔽している爆撃機ではない。それよりももっと大きい……?」


「火力もまるで戦艦レベルです」


 駆逐艦艦長は双眼鏡を覗き込む。


「航空機ではありません。我が軍のアステール型よりも、さらに強力なのでは――」

「地球側に、アステールに匹敵する空中兵器があるというのか……!」


 信じられないという顔になる護衛部隊司令である。

 アステールでさえ、帝国では試作兵器であり、彼ら護衛部隊将兵には、実物を見た者は限られる。噂でしか知らないそれが、まさか下等な地球人が持っているなど、信じられるはずもなかった。


「しかも二機いるぞ」


 船団の周りをぐるりと旋回しつつ、海上の輸送船を次々に血祭りに上げていく敵飛行物体。


「こちらの攻撃がまるで効かないのか!」

「むっ、司令! 敵の姿が現れます!」

「おおっ……」


 遮蔽から敵が姿を見せた。そしてそれを見る者を驚かせる。


「戦艦が空を飛んでいるのか!? 馬鹿な!」


 戦艦というより巡洋艦や駆逐艦に似たフォルムなのだが、異世界人たちの前に現れた『北辰』、そして『妙見』を止めることは彼らにはできなかった。

・北辰級空中軍艦:『北辰』

基準排水量:2万7000トン

全長:171メートル

全幅:82.5メートル

速力:535キロメートル

兵装:50口径40.6センチ単装三連光弾砲×1 14センチ光弾砲×2

   12.7センチ連装高角砲×3 8センチ光弾砲×8

   回転式光線砲×2(各8門)  底部大出力熱線砲×1

   20ミリ三連装光弾機銃×24

航空兵装:エーワンゲリウム装置(浮遊推進機関)×1

姉妹艦:『妙見』(準姉妹艦)

その他:ムンドゥス帝国の飛行型攻撃要塞アタックフォートレス、アステールを鹵獲した日本軍が、特に損傷の大きかったものを、改装したもの。高威力の武器を搭載しつつ、長時間の戦場での戦闘が可能なよう改装が施されている。オリジナルにはなかった遮蔽装置を搭載。

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