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第七八〇話、作戦は続行される


 嫌な予感はしていたんだ。

 ムンドゥス帝国第一戦闘軍団は、主力艦隊を率いる司令長官パーン・パニスヒロス大将は、自らの突き出た腹を軍服ごしに掻いた。


 前衛艦隊の五人の中将と、通信席ごしに通信をしている。青いホログラフィック状に表示されている各指揮官だが、特に三人の表情は優れない。

 第二群、第四群、第五群の司令官たちだ。パニスヒロスは口元を歪める。


「要するに、君たちのところの上陸船団は全滅してしまったと」

『いえ、全滅したわけでは――』


 第二群の指揮官、アール・モナホス中将が口を開いた。


『船団の損害は五割と、被害は大きいですが、まだ上陸作戦が実施できないわけでは……』

「それ、陸軍の偉い人に言えるかい?」


 パニスヒロスの一言に、モナホスは黙った。

 五つの上陸部隊、さらに後続が控える作戦である。その中の一つがやられたというのは、大したことがないようにも聞こえる。


 だが、裏を返すと、これから侵攻する北米は、それだけの戦力の投入を必要としていると、いうことでもある。しかもその先鋒の戦力が不充分というのは、橋頭堡を確保する意味でも非常によろしくないのではないか。


「僕は、陸戦については素人だけどね、さすがに戦力半減はまずいと思うんだ」


 パニスヒロスは、どこか他人事のような調子だった。


「君の第二群の行き先は、ノーフォークというんだろう? あそこはアメリカ海軍の大西洋での本拠地というじゃないか。……上陸部隊が半分で大丈夫?」

『……』


 答えられないモナホスである。彼も海軍軍人であり、陸軍のことは門外漢である。


「今のところ無事なのは、第一群と第三群か」


 総大将の発言に、第四群のウォークス中将、第五群のスパガイ中将は、幾分か顔が青ざめた……ように見えた。ホログラフィック自体が青なので、気のせいかもしれないが。


「第四群と第五群は、上陸船団が全滅したんだよねぇ。……で、第四群は空母が残っていて、第五群は空母も残っていないと」


 パニスヒロスは今後は髪を掻く。


「とりあえず船団がないんじゃ、しょうがない。スパガイ君、君はウォークス君の部隊と合流したまえ。目の前のニホン艦隊を片付けた後、第三群に合流だ」

『はっ!』


 二人のホログラフィックが応じた。パニスヒロスは目を細くする。


「それで、ウォークス君。君の艦隊はニホン艦隊と交戦中だったはずだが、どうなっているね? 航空隊を放ったのだろう?」

『それが……。申し訳ありません。攻撃隊は、敵艦隊を発見できず――』

「空振ったのかい? おやまあ……」

『申し訳ありません!』


 頭を下げるウォークスだが、パニスヒロスは見ていなかった。


「やはり、一筋縄ではいかないか、ニホン軍は。まあいい。とりあえず、目の前のニホン艦隊を叩いて、帳尻は合わせてくれ」

『ははっ! 必ずや』

「頼むよ。それで、第三群はともかくとして、第一群だが」


 パニスヒロスの目尻が緩む。


「カログリア君、君たちの前にも、敵艦隊がいたようだが」

『はい、閣下。識別の結果、イギリス海軍のようです』


 第一群司令長官、メリサ・カログリア中将は応じた。


『敵は先手をうってきましたが、敵航空隊は撃退しました。艦隊に被害はありません。もちろん、上陸船団にも、です』


 その言い方に、他の指揮官たちは一様に顔をしかめた。カログリアは続ける。


『敵の航空戦力は貧弱の様子。攻撃隊で削った後、本隊で残敵掃討の予定です』

「結構、作戦通りに進めてくれたまえ。くれぐれも用心するように。第三群もな」

『はっ!』

「以上、交信終わり」


 パニスヒロスは通信を切ると、脱力したように背もたれにもたれかかった。精一杯、背筋を伸ばしてみたものの、もう限界だった。


「まずいなぁ……。まずいよー」


 パニスヒロスは、視線をニキティス参謀長に向けた。


「ニホン艦隊、現れたね」

「はい」

「艦隊が半壊したなら、まあいいんだ。ただ陸軍さんに迷惑をかけるのはよろしくない。わかるね?」

「申し訳ありません」


 美貌の参謀長は頭を下げた。パニスヒロスは手を振る。


「賭けは僕の勝ちだね。……当たってほしくはなかったけど。ムシャクシャしてきたから、君の裸踊りで慰めることにする」

「精一杯、踊らせていただきます」


 うむ、とパニスヒロスは、視線を北米大陸の地図へと向ける。

 ニキティスは見た目も麗しいが、身内にダンサーがいるらしく、踊りがとても上手い。賭けとか罰とか関係なく、普通に鑑賞に値する。見ると元気が出てくる、ありがたい代物である。


「この北米侵攻作戦、海軍において、僕が主役だと思っていたんだけどね」


 パニスヒロスは、ぼやくように言った。第一戦闘軍団は主力。第二、第三戦闘軍団も参加する大規模作戦であるが、それらは遅れに遅れ、戦端が開かれた今、戦場に間に合わなかった。


「この分だと、僕は脇役になりそうだ」


 前路掃討、あるいは囮。淡々と、粛々と。パニスヒロスは地図を見つめた。



  ・  ・  ・



 第四群司令長官、ウォークス中将は荒れていた。

 発見された日本艦隊に攻撃隊を放ったが、目標を見失ってしまい、攻撃は失敗に終わった。

 上陸船団がやられた後にもたらされただけに、ウォークスの落胆もまた大きかった。


「攻撃隊、帰投しました」

「……」


 航空参謀が声をかけたが、ウォークスは返事をしなかった。

 戻ってきた航空隊を収容すべく、艦隊の10隻の空母が隊列から出た。

 マ式の垂直離着陸機能を持つ艦載機は、着艦速度は気にならないものの、横風が強いと着陸が難しくなるため、注意しなくてはならない。


 また現在、空母は、戦艦戦隊とサンドイッチされる形で航行しているため、アプローチの際、戦艦の艦上構造物が目障りとなる。そのため、空母が隊列から離れるのである。


 敵潜水艦の襲撃を警戒し、駆逐艦が周りを固める中、10隻の空母にヴォンヴィクス、エントマ、そしてミガ攻撃機が着艦していく。

 それらは何事もなく、終わると思われた。各艦の対空担当の兵は、日本軍の奇襲に備え、目を皿のようにして空からの敵に見張っていた。


 そして、それは起きた。

 リトス級大型空母が1隻、突然大爆発を起こしたのだ。

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