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第七七八話、一機艦の襲撃


 スパガイ中将の前衛艦隊・第五群が奇襲を受けていた頃、そこより北北東およそ200キロの海上にあった前衛・第四群もまた、敵艦隊への対応中であった。

 アメリカはジョージア州サバナを上陸地点と定め、進軍していた第四群だが、その進路上に、日本海軍の戦艦を含む大艦隊が布陣していた。

 これを破らねば、アメリカの東海岸は拝めない。


 通報してきた偵察機は撃墜されたため、日本艦隊に空母がどれほどあるかは不明。再度、向かわせた偵察機の続報を待つ間も、わからないなりに攻撃隊の準備は進めていた。


 どのみち、日本軍との衝突は不可避なのだ。空母が少なかろうと、全力を叩きつけ、残りは戦艦などの水上打撃部隊でトドメを刺す算段である。

 戦艦戦力は、隻数の上では互角である。第四群司令長官であるウォークス中将も、噂の日本海軍相手に、よき海戦ができると闘志を漲らせていた。


『攻撃隊、出撃準備、完了!』

「ようし、攻撃隊、発艦!」


 果敢な指揮官であるウォークスに、淀みはない。追加で送り出した偵察機からの報告はまだだが、もし敵が予想される針路からズレなどがあれば、その報告で、攻撃隊を誘導すればよいと考えていた。


 リトス級大型空母5隻から、戦闘機24個中隊288機、攻撃機18個中隊216機。アルクトス級中型高速空母5隻から、戦闘機10個中隊120機、攻撃機10個中隊120機を出す。

 合計744機の攻撃隊が、西の空へと消えていく。それを見送ったウォークスと第四群司令部だったが、すぐにレーダー室が騒がしくなる。


『艦隊より南、約2万に、航空機らしき反応が出現。複数、なおも増加中』

『対水上レーダーにも反応。対空レーダー観測の同位置に、大型艦艇の反応、およそ15、他小型の反応十数。艦隊です!』

「なにっ!?」


 ウォークスは耳を疑った。艦橋要員が素早く艦隊の南、つまりは左舷側に視線を向ける。


『戦艦3、空母らしきもの10……12、ほか、巡洋艦! 距離2万!』


 見張り所から切羽詰まった通報が届く。敵とおぼしき空母から連続して航空機が発艦し、そのまま、第五群へ向かってくる。


「全艦、戦闘配置! 対空、対艦戦闘ぉーっ! 敵だぁっ!」


 ウォークスは声を張り上げた。

 戦艦部隊は、艦首をこちらに向ける敵艦隊に対して、頭を取るように舵を取る。左舷側外周の駆逐艦は、距離が近いこともあり、一斉に反転。突撃に移る。


 だが、そうこうしているうちに、空母から放たれた航空機――流星艦上攻撃機が、対艦誘導弾を発射。それらは突撃のために反転した駆逐艦に正面からぶつかり、あっという間に一個駆逐戦隊を全滅させた。

 さらに飛来する誘導弾は、退避を始めた揚陸艦部隊へと迫り、炸裂した。


 艦橋にいたウォークスは頭に手を当てる。


「おい、ふざけるな! そっちじゃないだろう! 直掩機! 敵機を撃ち落とせっ!」


 艦隊防空のヴォンヴィクス戦闘機が、四機ずつの小隊ごとに飛んでいく。


『敵艦隊、ロスト! 転移した模様!』


 新たな報告に、ウォークスは視線を水平線に向けた。先ほどまで見えた戦艦3隻と空母ほかの姿がどこにもなかった。



  ・  ・  ・



 第一機動艦隊を率いる小沢 治三郎中将は、T艦隊お得意の、空母肉薄による奇襲攻撃を実行した。

 マ式レールカタパルトによる連続射出が可能な日本空母の艦載機展開能力は高い。

 第二機動艦隊の奇襲攻撃隊と違い、レーダーによる探知で発見される一機艦の艦載機隊だが、発見されても対応される前に、攻撃を開始できるならば関係ない。


 もちろん、これは諸刃の剣だ。

 敵の不意を衝いたからこその手であり、異世界帝国の駆逐艦の主砲の届かない距離に転移したとはいえ、戦艦では余裕の射程内であり、巡洋艦の砲撃でも届く位置だ。

 もしこれが転移奇襲を念頭に入れていた紫星艦隊だったならば、艦載機が展開し終わる前に砲撃を行っていたかもしれない。


 転移奇襲はあるかもと話を聞いていても、いざそれをいきなり体験しては、思った通りの対応はできないことは間々ある。


 だが、小沢は実施した。まだ、敵が慣れていないから。この大西洋での戦いで、二度目は通用しない可能性は高いが、まだ一度目だからやったのである。



●第一機動艦隊:司令長官、小沢 治三郎中将


第一航空戦隊:「大鶴」「紅鶴」「蒼鶴」

第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「飛鶴」

第五航空戦隊:「大鳳」「瑞鶴」「飛隼」

第七航空戦隊:「赤城」「飛龍」「蒼龍」


第六戦隊:「出雲」「伊勢」「日向」


第十八巡洋艦戦隊:「利根」「筑摩」

第二十一巡洋艦戦隊:「黒部」「遠賀」

第三十一巡洋艦戦隊:「鶴見」「馬淵」「石狩」「十勝」

第三十二巡洋艦戦隊:「宇波」「真室」「早淵」「瀬戸」

第三十三巡洋艦戦隊:「米代」「木戸」「岩見」「宇治」

第三十四巡洋艦戦隊:「六角」「中津」「真野」「小貝」


第六十二巡洋艦戦隊:「勇留」「鳴門」「豊予」「本渡」


・第一防空戦隊:「大淀」

第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」

第六十二駆逐隊:「新月」「若月」「霜月」「冬月」

第六十三駆逐隊:「春月」「宵月」「夏月」「満月」

第六十六駆逐隊:「青雲」「天雲」「冬雲」「雪雲」



 インド洋決戦で、第一艦隊と第二機動艦隊水上打撃部隊に大きな被害を受けたことで、一機艦の編成も変更されている。

 一番大きな変更点は、戦艦、巡洋艦などの砲撃戦力がごっそり引き抜かれたことだ。


 旗艦である『出雲』ほか、護衛に戦艦『伊勢』『日向』、重巡洋艦『利根』『筑摩』、軽巡洋艦『黒部』『遠賀』を除けば、ほぼ防空艦艇が中心であり、砲戦は心もとない。


 それが、空母肉薄による攻撃の後、早々に転移離脱した理由である。水上部隊が充実していたなら、そのまま砲撃戦という展開もあったかもしれない。

 しかし、まだ戦闘は序の口である。以前の一機艦の戦艦戦力では、不意打ちから互角の戦いを挑めても、時間経過と共に損害も大きくなるのは予想できた。

 だから、今は深追いをせず、一つ一つ敵の戦力を削ぐやり方に徹するのである。


 奇襲は図に当たり、ムンドゥス帝国前衛艦隊・第四群は、空母は無傷だったものの、揚陸艦を一機艦の流星艦攻によって撃沈され、その上陸戦力を消失したのであった。

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