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第七七七話、前衛・第五群の災難


 異世界帝国、前衛艦隊・第二群が、米軍と交戦に入った時、各前衛艦隊は、なお進撃を続けていた。

 その一番南に配置されていた前衛第五群は、フロリダ州ジャクソンビルを目指している。前衛隊の前には、潜水艦の哨戒のほか、偵察機が飛び立ち、障害となるものが存在しないか探っていた。


 極めて慎重。作戦行動中において、何ら落ち度はない。ムンドゥス帝国軍人として、忠実に任務を果たしている。

 そんな前衛・第五群の旗艦『ルートラ』に、前衛・第四群の発した通信が傍受された。


『第四群の正面海域に、戦艦20隻を含む大艦隊を発見! 艦型、日本海軍と思われる。艦隊より西、およそ240キロ』

「日本艦隊」


 第五群司令長官のスパガイ中将は、眉間にしわが寄った。


「現れるはずもない奴らが現れたぞ」


 地球世界にきて日が浅いスパガイら、第一戦闘軍団の将兵たち。今回の北米侵攻作戦においても、地球征服軍がやたら警戒していたのが日本という国の海軍だった。

 インド洋、そして太平洋で牽制し、大西洋には現れないのではなかったのか。


「何にでも想定外の事態は起こるものです」


 グイ参謀長が、悲しげに嘆息する。スパガイは肩が凝っているのか首をしきりに傾ける。


「戦艦を20隻も繰り出してくるとは、有力な艦隊なのだろうな」


 前衛一個艦隊に等しい数だ。しかし、偵察機の第一報は、情報が不足している。


「空母はどれくらいいるのだろうな?」


 インド洋方面の戦いで、日本軍がどれほどの損害を受けたのか、その情報は知らされていない。故に、敵がどれほどの航空機を有しているのか予想が困難だ。


「我々は、第四群の南南西、およそ200キロの海上にあります」


 グイは海図を睨んだ。


「敵が有力な空母機動艦隊であるならば、こちらも防空網を強化する必要がありますし、必要ならば第四群を支援、もしくは共闘して日本海軍と叩くべきかと」

「うむ……。とりあえず、空母群に対艦装備の攻撃隊の準備をさせろ。飛行甲板には、戦闘機を並べて、いつでも出せるようにしておくんだ」


 攻撃隊の直援にも、第四群の救援、どちらにでも使えるように。

 第五群が警戒を強め、準備をする間、その第四群から通信が発せられた。敵艦隊に対して、攻撃隊の準備が完了次第、攻撃を開始する、と。

 正面に敵がいる以上、第四群はなにがなくとも、これとの戦いは避けられない。極めて妥当なところである。


「通信参謀。第四群に打電。『我が隊の支援は必要か』」


 幸い、第五群の周りに敵は確認されていない。事前の偵察でも、米、英艦隊は、北方に配置されているため、当初より第五群は邪魔にあう可能性が少ない部隊であるとされていた。

 その時、対空レーダーに反応が現れた。


『スコープに異常反応! レーダーが一部、索敵不能! スクリーンのようです!』


 電波かく乱。いわゆるチャフが展開され、レーダーによる判別異常を引き起こしているのだ。


『無数の高速移動体が出現! スクリーンの中から現れました。ミサイル兵器の模様!」

「敵襲だ!」


 スパガイが叫ぶのと、警報が鳴るのはほぼ同時だった。全艦、対空戦闘が発令された。すでに戦闘配置についている高角砲要員、機銃要員は、それぞれ敵機に備えるが。


『ミサイル群、揚陸艦部隊へ――着弾します!』


 遠雷のような爆発音が連続した。現れた敵は、艦隊後方の揚陸艦・補給艦を狙って、その奇襲攻撃を成功させたのだ。


「直掩機! 敵を撃墜せよ! 空母群は、追加の戦闘機を出せ!」


 スパガイは喚いた。上陸部隊を載せた揚陸艦部隊がやられてしまえば、北米侵攻作戦は滞る。前衛艦隊・第五群の存在する意味がなくなってしまうのだ。


「敵は、どれほどの規模だ? レーダー、どうなっているか?」

「スクリーンの影響で、まだ役には立たんでしょう」


 グイは指摘した。


「見張り所から報告させるべきかと」

「ううむ……」


 スパガイは腕を組む。

 司令長官の命令を受けた第五群の空母――リトス級大型空母5隻、アルクトス級中型空母5隻が、シールドを解除し、飛行甲板上のヴォンヴィクス戦闘機の発艦にかかる。

 そこへ第二の刺客が襲いかかった。



  ・  ・  ・



 第五群の上空にあって、遮蔽を解除した紫電改二は、空母の甲板めがけて、ロケット弾と20ミリ光弾機銃の雨を降らせた。

 それらは発艦直前の、異世界帝国戦闘機を甲板上で撃ち抜き、破壊する。それは防御シールドの解除されたわずかな間だった。


 高速の対艦誘導弾といえど、距離があっては着弾までにシールドを再度展開される可能性はある。

 だが空母の上空で遮蔽から出てきた時に攻撃を開始している戦闘爆撃機には、対空砲を振り向ける余裕もなかった。また仮に対空レーダーがそれを捉えた時も、すでに手遅れであった。


 たちまち10隻の空母は、飛行甲板が炎に包まれた。戦闘機が破壊され、燃料が誘爆。さらに空母の艦橋にもロケット弾を打ち込まれてしまえば、再度のシールド展開どころか、命令系統の混乱が起きる。

 立ち直る余裕がないまま、流星改二が、今度こそ1000キロ対艦誘導弾を投下する。


 かくて、空母二個戦隊は、あっという間に壊滅。また艦隊が守っていた大型揚陸艦80隻も大破、沈没が相次ぎ、上陸戦力である陸上兵器群が失われた。


 この襲撃を行ったのは、第二機動艦隊――山口 多聞中将が指揮する空母16隻による奇襲攻撃隊だ。

 インド洋決戦で艦載機が多少減っているが、空母自体は16隻すべてが健在である。そしてその艦載航空隊を率いるベテラン組は、これまで多くの戦場でそうであったように、的確に空母と、目標である揚陸艦部隊を壊滅し、つむじ風の如く去ったのである。


 戦艦『ルートラ』のスパガイ中将は、苦虫を噛み潰したような顔である。先ほどまでと、状況が一変してしまい、その感情の吐き出しどころを探していた。

 だが神経を逆なでにすることは重なる。


『第四群より通信。「我、敵艦載機の襲撃を受ける。至急、航空支援を求む」』

「遅い!」


 スパガイは怒鳴った。

 もはや稼働空母はなく、自力の艦隊防空能力さえ怪しい第五群である。航空機がないのに、味方の航空支援など不可能であった。

 グイ参謀長は口を開いた。


「航空機はありませんが、まだ艦隊は残っております。上陸部隊がない今、ここは第四群と合流するのも手かと」

「……それに何か意味があるのか?」


 スパガイは、コキコキと自身の首を鳴らした。


「しかし、そうだな。第一戦闘軍団司令部に、上陸部隊全滅により、当初作戦の続行は不可能と通信しておけ。第五群は、第四群に合流する」


 それで司令部から下がれと言われれば下がるし、何もなければ第四群のもとへ向かう。スパガイは終始、不機嫌であった。

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