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第七七五話、英国は各員がその義務を尽くすことを期待する


 イギリス艦隊は、ニューヨーク方面を目指している異世界帝国艦隊前衛・第一群に対する迎撃ルートに乗っていた。

 その戦力は、戦艦7、空母2、護衛空母6、重巡洋艦10、軽巡洋艦6、防空巡洋艦8、駆逐艦31であった……のだが、直前である9月1日に、日本から兵力の増援を受け取った。


 それらを加えた編成は以下の通り。



●イギリス残存艦隊:司令長官、ブルース・フレーザー大将(本国艦隊司令長官)


戦艦:「ライオン」「テメレーア」「サンダラー」「コンカラー」「モナーク」

  :「ヴァンガード」「エジンコート」「エリン」「センチュリオン」


空母:「インプラカブル」「ユニコーン」「アークロイヤルⅡ」「イーグルⅡ」

  :「グローリー」「パーシューズ」「トライアンフ」「ヴェンジャンス」


護衛空母:「アクティヴィティ」「チェイサー」「フェンサー」

    :「スリンガー」「アミール」「ベガム」


重巡洋艦:「ケント」「ベリック」「カンバーランド」「サフォーク」

    :「ロンドン」「サセックス」

    :「コーンウォール」「ドーセットシャー」「ノーフォーク」

    :「デフォンシャー」


軽巡洋艦:「ベルファスト」「ジャマイカ」「ケニア」「セイロン」

    :「ニューファンドランド」「モーリシャス」

防空巡洋艦:「ダイドー」「ユーライアラス」「シリアス」「アルゴノート」

     :「シラ」「ベローナ」「スパルタン」「ロイヤリスト」

     :「ダナイー」「ドラゴン」「ダーバン」

駆逐艦:31


○カナダ海軍:


護衛空母:「エンプレス」「ケディーヴ」「スピーカー」「ネイボブ」

    :「プレミア」「シャー」「パトローラー」「ラーニー」

    :「セイン」「クイーン」「ルーラー」「アービター」


軽巡洋艦:『ケベック』『オンタリオ』『エメラルド』『エンタープライズ』

駆逐艦 :17



 戦艦は『ヴァンガード』『センチュリオン』が加わり9隻。

 キング・ジョージⅤ世級戦艦を40.6センチ砲搭載に改装、生まれ変わったライオン級5隻。日本海軍から返還されたクイーン・エリザベス級戦艦改の2隻。そして先日、異世界帝国より鹵獲、修理した新戦艦の『ヴァンガード』、旧式の『センチュリオン』がその顔ぶれである。


 増強著しいのは、空母である。イギリス本土で建造していたそれらは異世界帝国によって鹵獲されていたが、日本海軍が奪回し、イギリスに返還された新鋭空母群6隻を加えて、8隻となる。


『アークロイヤルⅡ』『イーグルⅡ』は、1942年戦時建造計画で作られた。イラストリアス級の拡大型である3万7000トンに迫る空母であり、その艦載機は英軍には珍しく78機を搭載する。

 残る『グローリー』『パーシューズ』『トライアンフ』『ヴェンジャンス』は、戦時建造の軽空母であり、1万3000トン級。その搭載数は、このサイズにしては多い方の48機。


 艦載機は、米国レンドリースのF6Fヘルキャット戦闘機と、TBMアベンジャー雷撃機――イギリス海軍名『ターポン』で構成される。

 本来なら『インプラカブル』と『ユニコーン』のように、イギリス製のスーパーマリン・シーファイア艦上戦闘機と、フェアリー・バラクーダ雷撃機を載せたいところであった。

 しかし、6空母の到着がギリギリ過ぎて、練成中のイギリス海軍航空隊の配置が間に合わず、日本海軍が用意した無人航空機がそのまま投入された。


 実のところ日本向けにリペイントしていた機を流用したため、日の丸をイギリスのラウンデルに塗装した以外は、一部迷彩柄にした機を除けば、濃緑色ペイントであった。

 しかしそれでも6隻の追加で308機の航空機が、イギリス艦隊に追加され、もとより手薄な艦隊航空戦力の増強となった。

 他の艦隊の増強は、重巡洋艦4、軽巡洋艦1、防空巡洋艦3が、日本海軍から新たに返還された。


「まったく、日本人には足を向けて寝られんな」


 イギリス艦隊を率いるブルース・フレーザー大将は、その角張った顎に手を当てる。髭を剃っていることもあって、ジェントルらしく清潔感がある。

 本国艦隊の司令長官になり、イギリス海軍のカナダ脱出を指揮。敵の追撃を躱して最小の被害で任務をやり遂げ、今年2月に大将に進級。今回の敵の北米侵攻でも、イギリス艦隊を率いることとなった。


「英日同盟、再び、ですな」


 参謀長が言うので、フレーザーは心持ち眉をひそめる。


「忘れたわけではあるまい。今次大戦では、我が大英帝国は、日本と一触即発のところまで関係が冷え込んでいた。……当時、私は第三海軍卿だったが、まあヒヤヒヤさせられたものだ」

「あの頃は、ドイツとの戦いが激化しておりましたから」

「いつアメリカ人は参戦するのか。上のほうではそういう話ばかりだった」


 皮肉なものだな、とフレーザーは呟いた。


「今はその仇敵だったドイツとも、同じ側で戦っている」


 異世界人の侵略を前に、連合も枢軸もない。日本は積極的に英米を支援し、インド洋で大海戦をした直後にもかかわらず、艦隊を派遣し、防衛戦に参加する。


「しかし、我々は勝てるのでしょうか」


 参謀長は懸念する。


「増援が間にあったといえば聞こえはいいですが、艦隊共同での航行調整すらしている余裕もありませんでした」

「今やっているよ」


 フレーザーは散歩するように言った。即席の艦隊行動は、実戦においては難しい。特にそれは艦隊運動で差が出る。それはもちろん、この司令長官にもわかっている。


「ロイヤル・ネイビーは、前に進む。それさえわかれば充分だ」


 フレーザーは双眼鏡を手に取ると、水平線を覗き込んだ。

 見敵必戦は、イギリス海軍の伝統であり、フレーザーはその中でも、艦隊を積極的に動かすタイプの指揮官であった。


「不安はわかる。こちらが数で劣勢であることも、無論、承知している」


 フレーザーは穏やかに笑みを浮かべた。


「ここは、過去に倣い、信号旗で各艦に通達しよう。『英国は各員がその義務を尽くすことを期待する』」

「!」


 参謀長ならびに、旗艦『ライオン』の艦橋にいた者全員の表情が引き締まった。


 かつてのナポレオン戦争の中、ホレーショ・ネルソン提督が率いたイギリス艦隊が、フランス・スペイン連合艦隊を撃破したトラファルガー海戦において、提督が旗艦に掲げさせた信号文である。


 大英帝国軍人で、ネルソンを知らない者はいない。そしてその信号の内容文も。かの東洋のネルソンと言われた東郷 平八郎のZ旗の源流は、ネルソンの信号文からという話もある。つまりはそういうことだ。ネルソンの信号文は、日本海軍軍人にとってのZ旗に等しい戦意高揚効果がある。


「勝って、凱旋しましょう」


 参謀長は力強く言った。


「そしてイングランドを取り戻し、妻や子供たちと共に過ごせるように」

「……」


 フレーザーは、ただニコニコとした表情を浮かべていた。ブルース・フレーザー、56歳。独身。彼は生涯、独り身を貫いたという。

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