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第七五九話、空中要塞と水上都市


 エレウテリアー司令のグラペー中将が、それに気づくことはなかった。

 突然大地震に見舞われたような衝撃で、強く椅子の背もたれに体を叩きつけられ、周りにあったものが吹っ飛ばされたのが、彼の見た最期の景色だった。


 現部隊が密かに仕掛けた転移装置により、空中要塞エレウテリアー島は転移した。南米ブラジル、アマゾン川に面する都市マナウスのすぐそばにある、ムンドゥス帝国の水上都市要塞デュカイオシュネーに仕掛けられた転移装置まで。


 その瞬間、両者は激突し、エレウテリアーの大動力炉が潰れ、そのエネルギーが暴発した。外装島があったなら、水上都市要塞の方を潰し半壊させ、エレウテリアーの施設にも少々のダメージが出ただろう。


 が、防壁でもあった島部分がなくなったことで、その耐久力は低下し、接触の衝撃に耐えられなかった。

 そして起きたことは、エレウテリアー全体を覆うほどの大爆発。それは接触ですでに半壊していたデュカイオシュネーをも飲み込み、さらに近隣のマナウスやアマゾンの熱帯雨林にも衝撃波をぶち当てた。


「……あー、これは酷い」


 特殊戦闘団こと、稲妻師団、第192海軍航空隊所属の彩雲改二偵察機で観測していた土屋中尉は思わず呟いた。


 持ち駒作戦の最終段階――転移島と水上都市要塞をぶつけて、双方を半壊させたところを、稲妻師団の戦闘大隊が上陸し、双方を占領する。

 エレウテリアー島で、赤の艦隊をなぎ倒した後、最後の転移で南米の敵拠点にぶつけて、あわよくばゲートごと制圧しようという作戦であった。


 が、これは占領どころではなかった。

 転移島は、外装を失ったことで巨大な爆弾と化し、水上都市もろとも吹き飛んでしまったのである。


「これは……どうなるんだろうな」


 当初の作戦では、洋上に待機している特務艦『鰤谷丸』『牛谷丸』から、稲妻師団兵を載せた虚空輸送機の編隊がやってきて、都市への強襲上陸を行うはずだった。

 しかし制圧すべき都市は、半壊どころか全壊に等しいありさまである。


 ――しかし報告はしなくてはならない……。


 作戦が予定通りにいかないのは、いつものことだ。そもそも島が転移する予定だった時間をかなりオーバーした結果、待機していた虚空輸送機部隊が、一度母艦に帰投していた。だから、すぐに降下上陸できる状態ではなかったのだが……。


「降りる必要もないかもしれないな」


 つい本音を呟く土屋であった。



  ・  ・  ・



 インド洋での大海戦は終わった。……ように見えて、細かなところでまだ続いていた。

 紫星艦隊主力が逃走した後、連合艦隊は第一艦隊、第二機動艦隊水上打撃部隊で集結を図った。


 だがそこに、異世界帝国の遮蔽航空機もまた、血に誘われた鮫のように集まってきた。

 輸送船団とルベル艦隊の索敵範囲の外に展開していたポタモス級、ならびに改メラン級潜水航空巡洋艦が搭載していたディアヴァル遮蔽攻撃機、シュピーラト遮蔽偵察戦闘機を送り込んでいたのだ。


 ムンドゥス帝国のヴォルク・テシス大将は、主力同士の戦闘終了後の、艦隊集結や状況確認の時間にも、攻撃を仕掛けられるよう、置き土産を残していたのである。

 宿敵である紫の艦隊を撃退した、と気が抜けた日本兵が多い中、遮蔽航空機は襲いかかった。


 味方との衝突を極力減らすべく、集団ではなく、単機での奇襲。直掩戦闘機の収容中だった空母や、被弾跡の残る巡洋艦、漂流者救助のために停船している駆逐艦など、どういう基準かはわからないが、攻撃が行われた。

 これを受けて、連合艦隊司令部は、空母と艦載機の収容作業を別海域で行うよう転移させ、主要艦艇の転移退避を命じた。


 が、それで全ての艦が、離脱できる状況ではなかった。

 生存者の救助のため、カッターなどを繰り出していた艦艇は、送り出した乗組員と救助者を収容せずに離脱などできなかったのである。

 もちろん、異世界人がこちらの都合などお構いなしである。


 だが、日本軍もただやられていたわけではなかった。

 姿の見えない遮蔽航空機が、どこからか飛来した空対空誘導弾が当たって、突然弾け飛んだ。

 それを目撃した日本海軍の水兵たちは呆然とし、落ちたのが見たこともない敵機とわかると歓声を上げた。


 一機だけではない。突然、何もない空から誘導弾が飛び出し、それがまた見えない敵機にぶつかり、火の玉と化す。見えないもの同士が戦っている――否、一方的に誘導弾が撃ち落としている……?



  ・  ・  ・



 須賀 義二郎大尉は、試製暁星艦上攻撃機の誘導担当席にいた。

 そう、後座である。パイロットである彼は、今、その役割を暁星のテストパイロットだったという風見少尉に任せ、空対空誘導弾で『見えない』敵機を見て、撃墜していた。


「――少尉、そのまま真っ直ぐ飛べ」

「了解」


 須賀は慣れない後座で、誘導照準器を覗き込む。能力者としてその力を開拓しつつある須賀は、遮蔽に隠れた敵機の姿を捉える。


「少尉、誘導弾――撃て!」


 暁星の転移爆撃装置から、空対空誘導弾が放たれる。それをマ式誘導にて『見えている』須賀が導く。

 何故、このような状況になったのかと言えば、T艦隊参謀長である神明の遣いと称する第七艦隊の航空参謀がやってきて、須賀に言ったのである。


『申し訳ないが、大尉。今行われているインド洋の決戦で、異世界人は複数の遮蔽航空機を投入しているのだ。これが数が多く、無視するのは危険だ。故に、遮蔽を見破れる大尉の力を貸してくれ』


 チ号作戦のため、大西洋、ジブラルタル海峡にいた須賀は、T艦隊からの許可を得ているという話を受けて、哨戒空母『渡島』と共に、インド洋へ転移移動。機体の面倒を見ている坂上博士から、暁星で行けと言われ、今に至る。


『前々から、空対空にも使えないかと考えていたんだ。須賀大尉、君が誘導弾を誘導する係をやれば、暁星一機で、かなりの敵機を撃墜できるんじゃないか……?』


 という、ありがたい――もちろん皮肉だ――助言を受け、自身で操縦しない攻撃機に乗るという貴重な体験をしていたのである。


「敵機、また1機撃墜! 大尉、次は――!?」


 新人である風見少尉が声を上ずらせる。暁星の扱いには慣れていても、実戦経験がないというテストパイロットが彼である。

 須賀は機械のように淡々と返す。


「敵は、どうやら俺たちを警戒して、艦隊上空から距離をとって様子見に移ったようだ」

「諦めたんですか?」

「いや、何故、味方が落とされているのかわからないから、何とかこちらを探そうとしているんだろう」


 母艦にある誘導弾が尽きるまで、暁星は攻撃が可能だ。元々、機銃を使ったドッグファイトをするような戦闘機でない。だから空中戦素人の風見が操る機体でも、誘導弾で敵機を撃墜できた。


 だから敵も困惑するだろう。いったい何機の日本機が遮蔽で隠れているのか、と。普通であれば、とっくに弾切れしてもおかしくないくらいの異世界帝国機を撃墜しているのだから。


 かくて、テシス大将の仕掛けた遮蔽航空機による攻撃策も、日本海軍航空隊のエースの乗る機体の参戦で、それ以上の戦果拡大を阻まれるのであった。

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