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第七五五話、砲撃のち空襲


 それは海上に光を刻み、異様なる艦影を浮かべた。

 パコヴノン級大型双胴空母。それが五隻。

 そしてこれを、索敵哨戒中の彩雲偵察機が発見した。


「くそっ、あいつら、また現れやがった!」


時任(ときとう) 甚助(じんすけ)中尉は叫んだ。

 第二機動艦隊の水上打撃部隊を襲撃し、角田 覚治中将の旗艦『伊予』を沈めた。その空母機動部隊が、転移によって現れたのだ。

 操縦する牧島が声を上げる。


「船団から……さっきと同じ距離くらいのところだったようですが……?」

「そうだ。西にズレてはいるが……輸送船団が移動した分、転移ゲートもピッタリ動いてますってか? 気持ち悪い!」


 これはどういうことだろう――時任は考えかけ、頭を振る。


「田原、緊急電だ! 敵大型空母5、船団より南東23キロ海上に出現! 艦載機展開中!」


 今は敵発見の報告が最優先だ。船団との相互の位置関係が同じことについては、報告の後に考えればいい。

 三座である彩雲の最後尾、通信担当の田原が敵発見の通報をする。前任者である徳田は、遮蔽に隠れている彩雲を攻撃してくるという異常な敵機の銃撃で戦死した。

 あれ以来、遮蔽中に狙われることはなかったが、時任はより緊張感をもって任務にあたっている。


「畜生……。敵機が飛び立ってしまった」


 双胴空母の飛行甲板に乗っていた敵機が、ふわりと浮かび上がる。マ式エンジンを活用した垂直離着陸機能だ。艦載機の展開速度は、日本軍のマ式レールカタパルトの連続射出よりも早い。


「第一艦隊が危ないんじゃないか」


 敵空母の第一陣が、角田長官の艦隊を叩いた。指揮を引き継いだ第二戦隊の宇垣 纏中将が、残存艦をまとめて、第一艦隊の方へと向かっているが、そちらが狙われるかもしれない。


「中尉!」


 通信機に取り付いている田原が声を張り上げた。


「ト連送を受信! これは――」


 全軍突撃せよ。


 空母攻撃隊の攻撃の合図。時任は引きつった笑みを浮かべた。


「これは遅かったのか、それとも早かったのか。……どうなんだい、山口さん」



  ・  ・  ・



 突撃を合図したのは、第二機動艦隊、空母部隊が放った攻撃隊であった。

 輸送船団に攻撃隊を送った後、敵双胴空母部隊が現れ、あまつさえ角田の水上打撃部隊がやられたと聞いた山口 多聞中将の怒りは凄まじかった


 ただちに敵空母撃滅のための攻撃隊の編成にかかり、攻撃の後、敵空母が転移で消えたと聞いても、山口は攻撃隊を送り出した。


「展開した航空機を収容するのに、また現れるだろう。それがなくとも、宇垣の部隊や、山本長官の艦隊を攻撃すべく、次の準備をしているかもしれん」


 味方艦隊の近くで飛ばしておけば、敵が急に出てきても発進の妨害や攻撃はできる。ほぼ見切り発車に近い形で、山口は攻撃隊を派遣したが、それは図に当たった。

 遮蔽に隠れ、他の航空隊とぶつからないよう、敵補給船団周りを周回していた流星改二部隊は、次々に敵空母群に向かうと1000キロ対艦誘導弾を発射した。


 これらの一番早い攻撃は、双胴空母が艦載機の展開を終えた直後に放たれた。攻撃隊を見送り、転移ゲートを用いて後方へ退避しようと指揮官が命じようとした矢先、誘導弾接近の報が入った。


「アルファ・5に通信! 転移ゲートを発動させろ!」


 パコヴノン戦隊司令官ヒュース少将が、すぐさま通信を送るよう指示を飛ばす。

 しかし、テシス大将の『ギガーコス』と違い、パコヴノン級双胴空母に転移ゲート装置は装備されていない。


 キュクロス級転移ゲート巡洋艦のゲートを開いてもらわなければ転移できないのだ。そしてこの通信による命令のラグの間に、誘導弾が空母群に殺到した。

 防御シールドを展開するも、それを折り込み済みの転移誘導弾。シールドをすり抜けて対艦誘導弾は、双胴空母に牙を突き立てた。


 片舷の喫水線近くに着弾、浸水するもの、飛行甲板を貫き爆発するもの、あるいは艦橋に直撃するもの――怒りに燃える二機艦の流星艦攻の攻撃が、四方八方から飛んできたのだった。



  ・  ・  ・



 一方で、パコヴノン戦隊の放った第二次攻撃隊は、第一艦隊の播磨型戦艦群と、二機艦の戦艦部隊――宇垣隊へ迫っていた。

 もちろん、日本海軍もまた、敵の航空攻撃に備えて、戦闘機隊を待機させていた。


 戦艦『大和』ら宇垣隊の上空には、敵輸送船団攻撃隊に同行していた戦闘機隊が、一部残っていたし、再度の空母出現を警戒していた攻撃隊の護衛戦闘機隊も、同じく遮蔽にて待ち構えていた。

 結果的に、奇襲のつもりだったパコヴノン戦隊第二次攻撃隊は、数度の紫電改二編隊の襲撃を受ける形となる。宇垣隊に向かった攻撃隊は、それでほぼ編隊を崩され、攻撃は頓挫した。


 だが、問題は、播磨型戦艦群の方へ向かった敵攻撃隊である。

 第一艦隊も空母部隊をもっていて、烈風戦闘機による直掩の傘を持っていた。しかし、彼らは、山本 五十六大将の座乗する『敷島』率いる部隊の上空警備を重視していて、さらに紫星艦隊主力が転移で、その背後をとって攻撃してきたことにすっかり動転してしまったのである。


 播磨隊の守りは少数であり、烈風は、護衛のエントマⅡに阻まれた。ミガ、ランビリスといった攻撃機は、紫星艦隊主力との砲撃戦で傷ついている播磨型戦艦群へロケット弾、もしくは雷撃を仕掛けたのである。


 ヘビー級同士の砲撃戦で、障壁の隙間をつかれて損傷していたとはいえ、バイタルパートを抜かれることなく、見た目よりも健在であった『播磨』『遠江』『相模』『肥前』『周防』『飛騨』『越後』だったが、被弾のダメージはあって、高角砲など上部構造物が損傷している艦が多かった。


 そこへ敵攻撃機が向かってきた。高角砲や機銃を振り向ける艦もあれば、防御障壁を展開し、守りを選ぶ艦もあった。

 随伴していた第十一水雷戦隊の駆逐艦も、弾幕を展開するが、無数に飛来する敵機を阻止できない。

 そして低空に降りた円盤――ランビリス攻撃機が、シールド貫通魚雷を投下した。狙われたのは、皮肉にも、障壁を張って防御を選択した艦であった。


 高角砲で一式障壁弾を盛んに撃つ艦艇には、近づく前にバタバタと航空機が撃墜されていったが、迎撃してこない艦には射点まで近づくのは難しくなかったのだ。

 新型魚雷は、『遠江』、『飛騨』に数本の直撃の水柱を上げさせ、防ぎきれないために障壁を展開した『相模』『肥前』に一、二本の直撃を与えた。7万トン近くの巨艦が震え、被害の大きかった『遠江』『飛騨』が傾く。


 51センチ砲戦艦に、少なくない被害を与えた異世界帝国攻撃機隊。第一艦隊の戦力はまたも減少した。

 一気呵成に攻め立てる紫星艦隊主力。連合艦隊旗艦『敷島』も大破し、このまま押し切るかに見えた戦いは、そうはならなかった。


 播磨型戦艦群が、砲撃戦から外れたことで航空攻撃の標的となったのと同じように、紫星艦隊主力戦艦部隊も、日本側からの砲撃から逃れていた。


 その結果、輸送船団周りを周回していた第二機動艦隊攻撃隊の一部――護衛の紫電改二、流星改二攻撃機の編隊が、『ギガーコス』以下、紫星艦隊戦艦群へ迫り、突如として噛みついたのである。

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