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第七五三話、遮蔽空母を追え


「さらなる攻勢か、我々を引きつける陽動か」


 第一機動艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は呟いた。神明参謀長は続ける。


「敵は、スマトラ島、ジャワ島の油田施設と、近隣飛行場を叩きました。ただこれは不自然な行動です」

「不自然、とは……どういうことです?」


 青木 武航空参謀が尋ねる。


「敵はインド洋を横断して、東南アジアに攻め込もうとしているんでしょう? ならば事前に我が軍の飛行場を空爆するのは自然だと思いますが」

「飛行場や軍事施設にならな。だが油田や関連施設を真っ先に叩く必要があるか?」

「……」

「後回しにしてもいいですね」


 大前 敏一首席参謀が言った。


「それらの施設は、上陸部隊に攻撃してきませんし、占領の暁には石油を得ることができる。むしろ破壊など論外です」

「そう考えるならば――」


 小沢はその双眸を鋭くさせた。


「敵は我々のような有力な空母部隊を、こちらに引き寄せるのが目的か」

「日本にとって、東南アジアの石油はアキレス腱と言えます」


 神明は、スマトラ、ジャワ島から、北東にあるボルネオ島へ視線を向けた。


「スマトラ、ジャワに続き、ボルネオの油田もやられたら、我が軍の艦艇の活動が大幅に抑えられることを意味します。海軍としても内地にとっても、それは是が非でも回避しなくてはならない」

「では、ボルネオ島の防衛に――」

「馬鹿。それは敵の思う壺だ」


 小沢がたしなめる。


「敵は遮蔽空母だ。姿を隠し続けることで、こちらを東南アジア防衛から動けなくするのが目的だ。……そうだな、神明?」

「はい。であるなら、敵空母部隊は、さっさとこの海域から去り、転移が可能ならば、現在、連合艦隊と交戦している部隊と合流し、その戦いに加勢するのがより貢献できるでしょう」


 そこで神明は、地図上に丸を二つ描いた。参謀たちが首を傾げる。


「これは?」

「敵空母の集結地点の予想される場所だ」

「!」


 敵攻撃隊はバラバラに仕掛けてきたが、その逃走方向から推測させる敵空母の位置を割り出すと、ある程度それぞれの距離が近くなる場所が二カ所あった。


「敵空母は、それぞれの目標に向かって分散していたが、この帰還ルートが擬装でなければ、再び集まろうとしている」

「何故ですか? 各個に逃げた方が、行方をくらましやすくなるのに……」

「おそらく転移を使って移動するためだろう」


 敵にとっても、まだまだ貴重な様子の転移照射装置装備の装甲艦を待機させていると思われる。


「だが数が少ないから、各空母に1隻ずつ転移装甲艦をつけることができないのだろう。だから集合して、そこから移動するつもりなのだ」

「それで二隻、ですか」


 大前は言ったが、首をかしげた。


「だとしても、その転移艦も遮蔽で隠れていますよね? 見つけられなくては、本当に敵が転移で離脱したかもわかりませんが」

「いや……。手はある」


 神明は答えた。


「遮蔽技術は、敵はおろか味方も見えない。そんな状態で、分かれていた味方と合流する際に遮蔽で隠れたままでは、いつまでたっても合流できない」

「つまり、合流中は、敵の転移艦も空母も遮蔽を解いている」


 小沢がニヤリとすれば、青木も頷いた。


「遮蔽を使っていないならば、偵察機でも目視できます!」

「ようし、航空参謀。各空母より彩雲改二を出せ。この敵の集結予定地点とおぼしき二カ所を重点的に索敵させるんだ」

「はっ!」


 青木はすぐさま行動に移った。旗艦『出雲』から、一機艦の各空母から彩雲偵察機が発艦。敵を求めて、南を中心にした索敵線を辿った。



  ・  ・  ・



 波が砕ける。

 51センチの巨弾が砲口より飛び出し、噴煙を撒き散らす。距離2万という戦艦の砲戦としては短めのそれは、水柱に交じり、命中の爆発と煙を噴き上げた。


 かたや日本海軍第一艦隊。51センチ砲搭載の播磨型、改播磨型の7隻の超戦艦。対するムンドゥス帝国紫星艦隊、超戦艦『ギガーコス』と、改メギストス級超戦艦の8隻。

 スーパーヘビー級同士の殴り合いは、双方ともに安全距離の内側ということもあり、被弾すれば、その装甲とて無事では済まない。


 が、直撃弾が幾つもありながら、いまだ脱落や大破した艦はない。何故ならば、砲撃と防御障壁の展開を交互に繰り返し、直接のダメージを躱しているからだ。


 日本海軍第一艦隊の播磨型の乗員は、経験豊富な砲術戦の熟練者たちが集まる。その艦隊砲撃戦における攻防の切り替えもよどみなく進める。

 一方の紫星艦隊も、皇帝親衛隊という精鋭中の精鋭。その練度は凄まじい。本来なら被弾上等の砲撃戦でありながら、いまだどの戦艦も健在であった。


 だが超戦艦同士が互角に渡り合っている一方、その足元の戦いは様相が異なる。

 プラクスⅡ級重巡洋艦10、メテオーラⅣ級軽巡洋艦10が、播磨型戦艦の列に迫っていた。これに対抗する護衛は、高雄型重巡洋艦4隻と久慈型軽巡洋艦4隻。


 高雄型は20.3センチ連装砲を五基搭載していたものを、改装で四基八門としたが、自動装填砲となったことでその発砲速度は2倍となっている。

 久慈型は、英サウサンプトン級の改装艦で、15.2センチ三連装砲四基十二門の砲撃型軽巡洋艦である。

 戦艦戦隊の護衛巡洋艦としては充分な火力を持つ。


 しかし紫星艦隊のプラクスⅡ級は、1万7000トンの大型重巡で、50口径20.3センチ三連装砲六基十八門の、砲撃お化けである。もっとも主砲配置の都合上、最大でも五基十五門が限界ではあるが。

 また軽巡のメテオーラⅣ級も、15.2センチ三連装砲四基十二門と、米クリーブランド級、英サウサンプトン級に匹敵する砲撃型となっている。


 それがそれぞれ4対10では、火力で押されるのも無理もなかった。

 第十水雷戦隊が突撃を敢行するが、余裕のあるメテオーラⅣ級の砲撃を撃ち込まれ 手詰まりとなりつつあった。


 じりじりと押し込まれつつある中、これまで砲戦を続けていた播磨型戦艦群が、突然変針した。護衛の巡洋艦、十水戦もまたそれに従う。同航戦を演じていた紫星艦隊戦艦群も、その変針に付き合い砲撃を継続する。


 その結果、双方の艦隊は、山本 五十六大将率いるもう一つの艦隊の正面に出たのである。

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