表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
752/1108

第七五二話、指揮権継承


 第二機動艦隊の空母部隊は、輸送船団掃討の支援のため、攻撃隊を出撃させていた。それらが、二機艦の水上打撃部隊のいる海域に到達した時、海上は目を覆いたくなるような有様だった。


「畜生、なんてこった……!」


 紫電改二を操る宮内 桜大尉は操縦桿を握る右手に自然と力が入った。

 15隻いた戦艦――正確には大和型3隻が別に動いているので12隻だが、そのうち洋上に確認できるのは7隻で、うち2隻が不自然に停止している。見えない戦艦は転移離脱したか、あるいは撃沈されたのか。うち1隻が転覆しているのが見え、これは撃沈されたとみていい。

 大型巡洋艦や重巡洋艦も、数が減っている。そして特に損傷していると艦艇に、敵機が光弾砲による掃射をかけて、あるいは離脱と攻撃を繰り返している。


「クソッタレがーっ!」


 二機艦の戦闘機隊が、これら不埒なハゲタカに斬りかかるように飛び込む。誉エンジンの唸りが、そのまま風を切るように錯覚させる。

 紫電改二はダイブし、敵攻撃機――いつものミガ攻撃機に、空を飛ぶ皿、円盤型のランビリス攻撃機に20ミリ光弾機銃を雨霰と撃ち込んだ。


 照準器の中心にほぼ直進する光弾によって撃ち抜かれた敵機は、次々にその胴体をズタズタに引き裂かれて爆発、または墜落していく。

 少数の敵戦闘機――ヴォンヴィクスが反撃してくるが、駆けつけた紫電改二の方が数で勝っていた。こうなっては攻撃機は逃げるしかない。


 だが復讐に燃える二機艦の戦闘機隊は、執拗に追い掛け、これを叩き落としていった。


 一方、船団攻撃のために飛んできた流星改二攻撃隊は、敵航空機の母艦も確認できず、また砲撃戦を演じる第一艦隊と紫星艦隊の間に割り込むこともできないため、仕方なく当初の予定どおり、敵輸送船への攻撃を開始した。

 1門の備砲ないし数丁の機銃を振り向けようとも、高速で飛行する流星を捉えるのは困難だ。


 光弾機銃、ロケット弾や250キロ爆弾などを叩きつけられ、敵輸送船は次々に炎上していく。船団の上空にはドイツ艦載機であるフォッケウルフが、敵小型戦闘機と交戦していて、二機艦の紫電改二もそれに加わる。

 艦攻乗りたちは、この手で二機艦の敵討ちができず悔しがったが、任務は着実にこなした。


 その頃、二機艦から離れて行動していた第二戦隊では、ドイツ戦艦部隊と交戦していたプロトボロス級2隻に対して砲撃を行っていた。

『大和』『武蔵』『信濃』の46センチ砲は、相変わらずの射撃精度を見せて、ドイツ戦艦戦隊を苦戦させた大型航空戦艦を血祭りに上げた。


「統制射撃。目標を健在の敵二番艦に向けよ」


 第二戦隊司令官、宇垣 纏中将の指示を受けて、『大和』の砲術を預かる正木 初子大尉は自艦のほか、僚艦の『武蔵』『信濃』の砲弾誘導も行い、その攻撃を集中させた。


 敵プロトボロス級は、大和型と互角の攻防性能を持つが、大和型3隻の計27発の46センチ砲弾を集められれば、さすがに耐えきれず大破してしまう。


 恐るべきは弾道誘導。砲弾が狭い場所――つまりは艦体中央のX字型飛行甲板に集中すれば、そのまま砲弾の集中によってその艦内を破られ、割られ沈んでいく。


『敵航空戦艦、撃破』

「よろしい。これでドイツ戦艦は守られたな」


 宇垣は頷く。プロトボロス級と撃ち合い、ドイツ戦艦も少なくない被害を出していた。ドイツのウルリヒ・フォン・フッテン級が42センチ砲を積んでいるが、46センチ砲級航空戦艦の相手はさすがに荷が重かったか。8隻の戦艦はほぼ半減してしまったようだ。


「よし、ではここはドイツ艦隊に任せて二戦隊は、二機艦本隊と合流する!」


 宇垣の指示を受け、森下 信衛艦長は、面舵を命じて『大和』の針路を変更する。


「二機艦司令部は、どうなっている?」


 宇垣が問うと、先任参謀の野田 六郎中佐は肩を落とした。


「はっ、先ほど古村参謀長が収容されたとの報告がありました」

「角田長官は?」

「まだ……」


 水上打撃部隊の旗艦『伊予』は、敵攻撃機の新型魚雷を三本受けて中破のち、大量の浸水により転覆。艦の乗員に脱出の命令が出る間もない沈没だったという。参謀長の古村 啓蔵少将は、運良く海に投げ出され救出されたが、角田 覚治第二機動艦隊司令長官はまだ不明のままだった。


「転移で離脱していれば、あるいは――」

「おいそれと旗艦が転移離脱などできるか、馬鹿者」


 宇垣は声に怒気を含ませていた。


「艦隊の士気に関わる。……角田さんは武人として、敵に背を向けない方だ」


 見つかって欲しいと心より思う。今の日本には、彼のような不屈の闘志を持つ者が必要だ。

 ともあれ、二機艦の指揮権は次席である宇垣に移った。空母部隊は同期の山口 多聞に任せるが、水上打撃部隊は宇垣がまとめねばならない。


「駆逐艦による長官の捜索、漂流者の救出を続けよ。それ以外の健在艦は、第一艦隊の援護に向かえ」


 二機艦水上打撃部隊は、敵航空隊の大群によって大きな被害を被った。そのダメージがほぼ新型の魚雷によってもたらされたものというのだから、異世界人の兵器恐るべし、である。


 戦艦は第二戦隊の大和型3隻に、第八戦隊『出羽』『美作』、第九戦隊『越前』、第十戦隊『美濃』『和泉』『伊豆』『岩代』の7隻を加えて、10隻。沈んだのは2隻で、3隻が転移離脱している。


 大型巡洋艦は5隻が健在。こちらも3隻が離脱し、沈没はなし。

 重巡洋艦は7隻残存。3隻が離脱、沈没6隻となる。重巡洋艦には、敵の新型魚雷の一発は強力過ぎたのだ。

 軽巡洋艦も10隻中、2隻を失った。


「しかし如何に、敵機の魚雷が強力であろうとも、直掩の紫電が上空にいる限りは、これ以上はやらせん」


 宇垣は、遠方で断続的に響く砲声の方へと視線を向ける。第一艦隊と紫星艦隊の激闘がそこでは繰り広げられているのだ。



  ・  ・  ・



 所変わって、スマトラ島沖の転移中継ブイへ移動した第一機動艦隊。

 ダバオを中心に東南アジア一帯に展開する第二航空艦隊と連絡を取り、スマトラ島、ジャワ島を攻撃した敵について情報を集めた。

 旗艦、航空戦艦『出雲』にて、小沢 治三郎中将は、参謀一同を見回した。


「敵は、こちらの油田、そして飛行場を襲撃した。ほぼ同時に行われた攻撃で、数隻の敵空母が展開しているのは間違いない」

「敵を中型高速空母と仮定した場合、空母はおそらく10隻。大型空母の場合では7隻……その混合かもしれませんし、あるいはもう少し少ないかもしれませんが」


 神明参謀長は告げた。一同は東南アジア周辺の地図を見下ろす。襲撃された場所、そして敵攻撃隊の移動ルートと退避方向から推測されるルートが記される。

 大前 敏一首席参謀が口を開いた。


「現地の証言によれば、敵は遮蔽機体ではなく、通常の戦闘機と攻撃機の混成部隊だったとのことです。しかし、こちらの哨戒機は、敵の空母を事前に発見できなかった……。複数隻の空母が動いていて、そのうちの1隻も」

「遮蔽空母でしょうか?」


 青木 武航空参謀は言った。その可能性が高いとは聞いていたが、あくまで可能性の話であった。だが、現地の報告を聞けば、確度は上がっていく。


「だとすれば見つけるのは困難だ」


 小沢は地図の上、敵航空隊の退避方向を指でなぞった。


「海から来て、海へ戻っていった。この通りであるならば、スマトラ島の南西と南の方向に集中していることになるが……」

「問題は敵の次の行動です」


 神明は眉をひそめた。


「敵がさらなる攻勢を目論んでいるのか。……あるいは、我々のような有力な部隊をスマトラ島沖に、留める陽動なのか」


 そもそも、インド洋で日本海軍とムンドゥス帝国の主力同士がぶつかっている。この状況で、敵も遮蔽空母という伏兵向き戦力を遊ばせておくとは思えない。

 その行動には、必ず何か重要な意図があるはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ