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第七四七話、張り付く敵機


 小沢機動艦隊が、一時距離をとって攻撃隊の収容作業を行っている頃、連合艦隊司令部は、高高度にある空中要塞エレウテリアーを撃墜するための策を講じていた。


 一機艦でも話し合われた通り、高度1万メートルを飛行可能な重爆による誘導弾攻撃が最善と判断した連合艦隊司令部は、改めて第一航空艦隊に空中要塞攻撃を命じた。


 陸上基地航空隊である一航艦は、海氷飛行場である日高見を拠点にしており、先に攻撃隊を出していた。

 だが、エレウテリアーの高度1万メートルに対応できず、多数の迎撃機に阻まれて、撃退されていた。


 次の攻撃は、火山重爆撃機部隊に、高高度迎撃機である白電、震電戦闘機を護衛につける。

 日高見の長大な海氷滑走路に、米軍のB29に匹敵する重爆撃機が並び、出撃の準備にかかる。


 大海氷空母『雲海』『大海』からは、白電、震電がマ式発動機を唸らせ、滑走路を滑り出そうとしていた。

 日高見の司令塔から、日の丸をつけた巨人機を見やり、一航艦司令長官の福留 繁中将は、思わず言った。


「しかし高高度か。……局地戦闘機は用意したが、そういえば高高度の敵に対する兵器なぞ、ほとんどなかったな」

「まさに」


 三和参謀長が首肯した。


「高高度飛行が可能なマ式発動機があれば、高度1万メートルも恐るるに足らずですが、迎え撃つ、あるいは撃ち下ろすばかりで、同じ高高度の、しかも大型の飛行物に対する兵器は考えもしませんでした」

「例の円盤兵器でも、デカいと思っていたが……まさか、あれが序の口だったとは」

「異世界人、恐るべし、ですね」


 同意する三和。福留は言った。


「対重爆用に、誘導弾などはあるが……。空中要塞、仕留められると思うか?」

「やるしかないでしょう。他に妙案があれば別ですが」


 三和は視線を上げる。


「幸い、障壁貫通弾があるので対抗はできると思いますが……。気掛かりは、数が少ないということ」


 不安を口にする参謀長に、福留も改めて火山重爆撃機を見やる。その数21機。その護衛につく戦闘機も、手持ちは40機ほど。

 今回の戦いは艦隊決戦であるから、普通ならば高高度機が必要になることはあり得なかった。


 しかし過去の戦訓から、敵が重爆を差し向けた場合に備えて、最低限用意はしていた。残念ながら、今回の事態は想定外であるが。


「敵は多数の戦闘機を擁しているようです。果たして攻撃は成功するのか――」


 三和が言いかけた時、それが起こった。

 滑走路の方で、光りが瞬き、爆発が起きた。福留と三和、一航艦幕僚はもちろん、日高見要員もまた目を見開く。


「何だ? 火山重爆が爆発したぞ!」

『敵襲! 敵の攻撃!』


 スピーカーから通報。直後、また滑走路脇の重爆が火を噴いて吹き飛んだ。


「くそっ……! 敵はいったい――」


 どこから攻撃されたのか、まったくわからなかった。出撃間近だった火山重爆が、離陸前に一方的に攻撃を受けて、炎上している。


「対空見張り! 敵はまだ見つからんのか!?」


 日高見司令――艦ではないが艦長に位置する瀬川 滝造大佐が隊内電話に怒鳴っている。しかし電探も見張り員も、敵の正体が掴めない。


「まさか……!」


 思わず声に出す福留。三和は言った。


「遮蔽航空機による奇襲!」



  ・  ・  ・



 日高見、敵遮蔽機の攻撃にて、攻撃隊発進できず。

 その報告が、連合艦隊司令部である航空戦艦『敷島』に届いた時、山本 五十六長官は口の中に苦いものが込み上げるのを感じた。


「第一艦隊や一機艦だけでなかったのだな、敵遮蔽機は」


 空母を狙った敵遮蔽航空機による奇襲攻撃。防御障壁を貫通してくる新型魚雷への対策に手間取らされたが、どうやら後方の『日高見』も敵に発見され、目をつけられていたようだった。

 中島情報参謀が報告する。


「日高見は、敵機を振り切るべく、さらに後方へ転移退避しました。しかし重爆数機が地上撃破されたため、出撃にはしばらく時間がかかるとのことです」

「つまり、我々はあの空中要塞をしばし放置せねばならぬということか」


 山本の視線が、航空参謀の源田に向く。その源田は顎に手を当てて思考を巡らせていた。


「現状、あれを攻撃できる手は限られています。そもそも高度1万メートル以上に上がって、大型誘導弾を使える機体が、重爆以外にない……」


 通常のレシプロ機では、とても護衛戦闘機をかいぐぐって、空中要塞を攻撃するのは無理だろう。

 マ式エンジンを搭載した、高高度でも問題なく戦える機体。戦闘機の白電や震電に、大型誘導弾は搭載できない。

 稲妻師団が使っている彗星は、あれもスピードは充分だが、如何せん数が少ない。それに稲妻師団は、別の任務に使われていて――


「そうか!」


 源田は閃いた。


「長官。当初の予定通りやりましょう」


 虚空特殊輸送機に、転移装置を積んで、それを空中要塞に設置。本来の計画だった南米の敵拠点に転移島をぶつける作戦の続きを実行するのだ。

 司令部が急遽計画を練っていると、新たな凶報が飛び込んだ。


「南西方面艦隊より、緊急報告です! スマトラ、ジャワ島の各油田、精油施設に敵機大編隊が襲来! 攻撃を受けたとのこと」

「なんだと!?」


 首席参謀の高田 利種大佐が叫んだ。山本も源田も声を失う。

 敵に東南アジアの石油施設を攻撃させないために、前に出てインド洋で迎え撃つ。それがイ号作戦であった。

 しかしその目論見は、もろくも崩れ去った。


「敵の大編隊だと!? 未発見の空母機動部隊がいたのか!?」


 異世界帝国の動きは、出撃の時から多数の彩雲偵察機によって逐次捕捉され続けていた。見逃しがあるはずがない。それが連合艦隊司令部の答えであり、インド洋での戦いを飛び越して、スマトラ島とジャワ島が攻撃されるなど有り得ないことだった。


「敵は、我々が思っていたより前から、空母部隊を進発させていたのか……!」


 源田は歯嚙みする。情報にない敵がいて、それに好き勝手やらせてしまった。今更言っても仕方のないことだが、それでも悔いは残る。


「第一機動艦隊に命令」


 山本が真っ直ぐに見据えた。


「ただちにスマトラ、ジャワに現れた敵空母部隊を捕捉、撃滅せよ」


 中島が一礼して司令部付き通信班のもとへ急ぐ。草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は、山本を見た。


「よろしいのですか? 主力の一隊を前線から外しても」

「南方資源帯をやられれば、イ号作戦の意味がない」


 山本は拗ねたように唇を歪めた。


「それにこちらに残っているのは、あとは赤の艦隊の少数の残党と、敵船団と護衛部隊のみ。第一艦隊と二機艦で充分だ。……そうだ、レーダー元帥のドイツ艦隊も敵船団を攻撃中だ。我が第一艦隊も急行し、これを助けよう」


 第一艦隊は動き出す。

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