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第七四六話、暗躍する紫星艦隊


 ドイツ艦隊の戦艦戦隊と、プロトボロス級航空戦艦戦隊が、砲撃戦を展開する。

 ムンドゥス帝国のヴォルク・テシス大将は、輸送船団を日本海軍の水上打撃艦隊が攻撃した時のために、いつでも襲撃できるように準備をしていた。

 だが――


「ドイツ海軍が食いつくのは、さすがに予想できなかった」


 地中海でドイツ艦隊が現れたらしい、という報告は小耳に挟んではいた。しかしそれでも、出てきたとしても大西洋だろうと考え、インド洋にやってくるなど思いもしなかった。

 ジョグ・ネオン参謀長は、相変わらず背筋をピンと伸ばし、ゆったりと言った。


「予言者でもなければ、ドイツ艦隊が現れるなど予想はできないでしょう」

「日本海軍ではなかったから、主力ではなく、航空戦艦戦隊を送るしかなかった」


 本来なら、プロトボロス級を含めて、旗艦『ギガーコス』を中心とした紫星艦隊本隊が移動し、日本艦隊と戦う予定だった。

 せっかくダミーシップを用意し、紫星艦隊を撃破したと思わせたところを不意打ちするはずだったのに、その新鮮味が薄れてしまった。

 隊を分けたことで、まだ待ち伏せ襲撃は可能だが、初回ほどのインパクトはない。


「ルベル艦隊を一掃すれば、日本海軍はドイツ艦隊の救援に動くだろう」


 彼らにとっては、輸送船団を叩かない限り、東南アジアの防衛に成功したとはいえない。だから必ず船団撃滅にやってくる。

 遮蔽空母群で、スマトラとジャワを空襲したとして、日本軍はいくらか戦力を振り向けるだろうが、船団に手を出さないという選択肢はない。


「そちらはしばし様子を見よう。遮蔽攻撃機の方はどうなっているか?」


 テシスが確認をすれば、報告を受けたフィネーフィカ・スイィ首席参謀が、表情を曇らせてやってきた。


「敵機動部隊と、主力艦隊は、転移により位置を変更しました。遮蔽機隊は、さほど時間を置かず、これを発見。攻撃を仕掛けたのですが……」

「ですが?」

「敵は転移によって魚雷を回避する策に出た模様です。先の6隻を脱落させて以降、敵空母に損害なしです」

「……転移で退避か。新型魚雷を食らうよりマシと判断したか」

「思い切りがよいですな」

「想定より早い対応だ。まったく、日本人の適応力は高いな……」


 これには呆れるテシスである。


「遮蔽攻撃隊には、敵航空機の収容もしくは発艦時を狙うように指示を出せ」

「通信士官!」


 スイィ首席参謀の指示を受け、さっそく司令長官の命令が伝えられる。


「そういえば、エレウテリアーはどうなった?」


 島から分離した空中要塞エレウテリアー。確か、日本軍の航空隊が向かっていたはずだが――



  ・  ・  ・



 第一航空艦隊、ならびに第一機動艦隊から放たれた空中要塞への攻撃隊は、思わぬ苦戦を強いられた。


 海上から上昇を始めたこの浮遊物体は、その高度を上げ続け、攻撃隊が到着する頃には高度1万メートルに達していた。

 一式陸攻、銀河陸上爆撃機ではすでに、その高度に達することができず、業風戦闘機、烈風戦闘機、流星もまた高度1万メートルは息をついた。


 これらの航空機は空冷レシプロ機。誉発動機を中心としたそれらは、高高度性能に圧倒的に不足。そもそも出撃時のエレウテリアーの高度は5000メートルもなかった。

 ようやく目視できる範囲にきても、要塞は日本機よりもさらに高かった。

 さらに最悪なのは、空中要塞から、無数の戦闘機が迎撃に出てきたことだ。


 ヴォンヴィクスにエントマ、異世界帝国戦闘機の主力であるそれらは、魔力式エンジンにより空気の希薄な高高度も関係がない。上方から攻め立てられ、日本軍攻撃隊は退却するしかなかった。


 これが5、6000メートル程度までであれば、烈風戦闘機で互角以上に渡り合えたのだが、空母航空隊の戦闘機に、高高度性能は基本求められないものだ。これは米軍のF6Fなど艦上機もそうだ。高高度の性能向上型のテストはあれど、量産型にはその性能はオミットされた。

 閑話休題。


 攻撃失敗の報告は、第一航空艦隊の拠点である海氷空母『日高見』はもちろん、連合艦隊司令部と、第一機動艦隊にも届いた。


「まさか、高度1万メートルに達してしまうとは……」


 第一機動艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は渋い顔になった。


「神明。攻撃できるとすれば何がある?」

「マ式発動機を搭載した爆撃機――火山重爆撃機であれば、高度1万メートル以上も飛行できます」


 もともと、異世界帝国の重爆を鹵獲したものを改修して使っているのが火山重爆である。マ式エンジンを搭載し、高高度での高速性能にも優れる。


「戦闘機としては、高高度迎撃機の白電や震電。あと機動艦隊には少数ですが青電があるくらいでしょうか」


 他にもマ式搭載機はあるが、たとえば虚空特殊偵察機を除けば、少数機であり、まとまった数が必要な状況では、勘定に入れにくい。


「すると、一機艦では手が出しようがないな」


 小沢は腕を組んだ。


「日高見の一航艦に委ねるしかない、か」

「航空機にこだわらなければ、艦艇から重爆撃機迎撃用の高高度誘導弾を撃つ手もあります」


 神明が言うが、小沢は首をかしげる。


「あの要塞の真下に移動するのは、あまりいい案とはいえないな」

「同感です。転移島を破壊したという特大の光線砲があるようですから」


 一機艦司令部に沈黙が下りる。だが小沢はさっぱりしていた。


「日高見の航空隊があるんだ。彼らに任せて、我々は目の前の敵に対処しよう」


 できないものに背伸びしても仕方がない。できることをやっていくのみである。青木航空参謀が、伝令から何事か報告を受けた後、小沢と神明参謀長に向き直った。


「第二次攻撃隊、帰投してきました。本来なら収容作業を行いたいところですが……」

「うむ、敵の遮蔽機が飛び回っている可能性がある」


 小沢は眉間にしわを寄せた。


「短距離転移で魚雷を躱して以来、被害は出ておらんが、敵も確実に当てられる機会を窺っているに違いない」

「艦載機収容中に雷撃があれば、即転移しますが、着艦中の機体がそのまま海に落ちる可能性があります」


 青木が危惧する。神明は発言した。


「ここは思い切って、距離を取るのも手だろう。敵が遮蔽航空機を飛ばしているといっても、広大なインド洋全体に展開させているわけではない」

「そうだな」


 小沢は頷いた。


「敵機も母艦から飛び立っている以上、展開できる数に限度はある。必ず偵察機が飛んでいない場所はある。セオリーから外れるが、一度、航空機の航続距離外に空母を移動させて、そこで収容作業を行おう」


 第一機動艦隊の艦載機の収容作業の方針が決まった。潜んでいる敵に狙われないよう、一機艦の空母群は、第一防空戦隊の護衛のもと一度、艦隊を離れるのだった。

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