第七四一話、先制攻撃
空中要塞エレウテリアーに向かって、第一航空艦隊が攻撃隊を発進させている頃、小沢 治三郎中将率いる第一機動艦隊でも、各空母から攻撃隊が発艦作業にかかっていた。
「さすがに島から基地が分離するなど、神明にだって見抜けないだろうよ」
小沢中将は皮肉げに言えば、大前 敏一首席参謀が宙を睨んだ。
「鎮守府が地面から引っこ抜かれて、空を飛ぶようなものですから。……いや無理でしょう」
「円盤兵器ですら巨大だと思っておったからな。半分くらいの大きさになったが、島が飛んでいようなものだ」
「異世界人の脅威の技術力ですね」
大前が首肯する。
「ともあれ、あの転移島のおかげで、ルベル艦隊の一群は半壊。こちらの放った第一次攻撃隊で、トドメといければよいのですが」
すでに第一機動艦隊は、島の転移をぶつけられたルベル艦隊へ第一次攻撃隊を放っている。一群270隻前後の赤の艦隊は、約100隻を衝突で失ったが、まだまだかなりの規模が健在だ。
「さすがにそう都合よく第一次攻撃隊だけで、やっつけられないだろう」
小沢はさっぱりとした顔で告げた。
「だが、こちらは空母だけでなく、水上打撃部隊がある。討ち漏らしを蹴散らすことも造作もあるまい」
何せ、一番の懸念であった紫の艦隊を含む、戦艦、空母の主力艦隊は、転移島の二度の転移衝突で壊滅したのだ。
赤の艦隊の主力である巡洋艦は、一機艦の戦艦14、大型巡洋艦8、重巡洋艦16で対応できる。
●第一機動艦隊:司令長官、小沢 治三郎中将
第一航空戦隊:「大鶴」「紅鶴」「蒼鶴」「翠鶴」
第三航空戦隊:「翠鷹」「蒼鷹」「白鶴」「飛鶴」
第五航空戦隊:「大鳳」「翔鶴」「瑞鶴」「飛隼」
第七航空戦隊:「赤城」「飛龍」「蒼龍」
第三戦隊:「土佐」「天城」「紀伊」「尾張」
第四戦隊:「長門」「陸奥」「薩摩」
第六戦隊:「出雲」「伊勢」「日向」
第七戦隊:「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」
第一巡洋艦戦隊:「雲仙」「剱」「乗鞍」「白根」
第七巡洋艦戦隊:「九重」「那須」「六甲」「蔵王」
第十一巡洋艦戦隊:「伊吹」「鞍馬」
第十二巡洋艦戦隊:「阿蘇」「笠置」「葛城」「身延」
第十五巡洋艦戦隊:「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」
第十七巡洋艦戦隊:「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」
第十八巡洋艦戦隊:「利根」「筑摩」
第二十一巡洋艦戦隊:「黒部」「遠賀」
第三十一巡洋艦戦隊:「鶴見」「馬淵」「石狩」「十勝」
第三十三巡洋艦戦隊:「米代」「木戸」「岩見」「宇治」
第三十四巡洋艦戦隊:「六角」「中津」「真野」「小貝」
第六十二巡洋艦戦隊:「勇留」「鳴門」「豊予」「本渡」
・第一水雷戦隊:「青葉」
第七駆逐隊 :「曙」「潮」「不知火」「朝雲」
第十七駆逐隊 :「磯風」「浜風」「浦風」「雪風」
第二十一駆逐隊:「初霜」「若葉」「初春」「子日」
第二十七駆逐隊:「白露」「時雨」「村雨」「海風」
・第三水雷戦隊:「衣笠」
第四駆逐隊 :「野分」「萩風」「霞」「嵐」
第十二駆逐隊 :「夕雲」「風雲」「長波」「高波」
第十五駆逐隊 :「朝靄」「夕靄」「雨靄」「薄靄」
第三十一駆逐隊:「巻波」「大波」「涼波」「親潮」
・第一防空戦隊:「大淀」
第六十一駆逐隊:「秋月」「照月」「涼月」「初月」
第六十二駆逐隊:「新月」「若月」「霜月」「冬月」
第六十三駆逐隊:「春月」「宵月」「夏月」「満月」
第六十六駆逐隊:「青雲」「天雲」「冬雲」「雪雲」
「そうなると、やはり次の懸念は、空を飛ぶ基地のほうだ」
小沢は眉をひそめる。
「あれの砲は、島の部分を一撃で破壊したそうじゃないか。あれで艦隊を撃たれたら、直撃しなくても衝撃で吹き飛ばされてしまうのではないか?」
「防御障壁がどこまで耐えられるか、ですが……」
そう言いかけ、大前は首を横に振る。
「空母が射程に入る前に、転移で退避しましょうよ」
「そういうことだな」
小沢も笑った。
「しかし、そうなると、戦艦で下から砲撃にもいかんだろうな。ここはやはり、航空攻撃が一番だろう」
そこへ青木 武航空参謀が報告にきた。
「第二次攻撃隊、全機、発艦完了しました」
「おう」
小沢は、旗艦である航空戦艦『出雲』から、上空を飛び抜ける烈風、流星といった大攻撃隊を見上げる。
それら攻撃隊が、ごま粒のように小さくなり、やがて見えなくなると、小沢は振り返った。
「第一次攻撃隊の戦果次第では、艦隊の針路も変わるが――」
その時、遠雷のような音――爆発音が聞こえた。小沢と参謀たちは顔を見合わせる。聞き違いではなさそうだった。
「三航戦、『白鶴』が被雷!」
リトス級大型空母改装の大鶴型、さらにその改型である巨艦がまさかの攻撃を受ける。
「被雷!? 潜水艦か!?」
小沢は眉間にしわを寄せ、大前は「馬鹿な」と言った。
「我が軍の対潜警戒網を抜けたというのか!?」
マ式ソナーにより、日本海軍の潜水艦探知能力は格段に向上。対潜魚雷により、敵潜水艦に攻撃させず、早期攻撃を可能としているが……。
「いや待て。魚雷が当たっただと? 防御障壁を張っていなかったのか?」
小沢は指摘した。日本海軍の空母部隊は、敵の遮蔽機からの奇襲攻撃にやられた手痛い戦訓から、戦闘海域航行中は、障壁を稼働させている。
にもかかわらず、攻撃を受けたということは――