第七三九話、連合艦隊、攻勢に出る
転移島に設置された転移装置は、それぞれ中継する転移ブイに番号がふられていた。
これはリモコンによる自動制御のため、転移地点を選択できず、固定に設定してあるためだ。
これら番号付き転移中継ブイは、第七艦隊の空母から飛び立った彩雲改二が、それぞれ目標に接近して投下した。
その結果が異世界帝国主力艦隊の戦艦・空母の三分の二近くを破壊し、三つあるルベル艦隊の100隻あまりのクルーザーやキャリアーを海の藻屑に変えた。
転移装置による転移は6回。最後が別の場所へとなった時、5回目の転移は、再び主力艦隊――残存した戦艦・空母が集まり、重巡洋艦、軽巡洋艦がその陣形を小さくまとめているところに行われた。
結果、残存していた戦艦18隻、空母14隻は、多数の重巡、軽巡を巻き込み、全滅した。
残るは、ルベル艦隊と、主力から15キロ後方に離れて後続していた輸送船団とその護衛艦隊のみとなった。
そして、連合艦隊の猛攻が始まった。小沢 治三郎中将率いる第一機動艦隊、角田 覚治中将指揮の第二機動艦隊の空母から、それぞれ攻撃隊が発進。半壊状態のルベル艦隊、第一群、第三群へと攻撃隊を差し向けた。
さらに第一艦隊の後方にある海氷飛行場『日高見』、大型海氷空母『大海』『雲海』から第一航空艦隊――基地航空隊が出撃。ルベル艦隊・第二群へ、その攻撃隊を放った。
●第一艦隊:司令長官、山本 五十六大将
独立旗艦:「敷島」
第一戦隊:「播磨」「遠江」「相模」
第五戦隊:「肥前」「周防」「飛騨」「越後」
第十三戦隊:「芦津」「高千穂」「宇賀」「鶴仙」
第十四戦隊:「弥栄」「福知」「名栗」「嵐山」
第十一航空戦隊:「瑞鷹」「海鷹」「黒鷹」「紅鷹」
第十四航空戦隊:「祥鳳」「瑞鳳」
第十四巡洋艦戦隊:「高雄」「愛宕」「摩耶」「鳥海」
第二十二巡洋艦戦隊:「久慈」「天塩」「小矢部」「雲出」
第二十六巡洋艦戦隊:「高瀬」「渡良瀬」「浦野」
第二十七巡洋艦戦隊:「大沼」「神西」「尾瀬」「浜名」
第二十八巡洋艦戦隊:「不動」「宍道」「北竜」「網走」
第三十二巡洋艦戦隊:「宇波」「真室」「早淵」「瀬戸」
第三十五巡洋艦戦隊:「天龍」「龍田」「天神」「物部」
第六十一巡洋艦戦隊:「浦賀」「志発」「宮古」「釣島」
・第十水雷戦隊 :「余市」
第二駆逐隊 :「朝霜」「早霜」「清霜」「秋霜」
第三駆逐隊 :「秋潮」「春潮」「高潮」「若潮」
第六駆逐隊 :「響」「雷」「電」「暁」
・第十三水雷戦隊:「揖斐」
第十三駆逐隊 :「霜風」「沖津風」「初秋」「早春」
第十四駆逐隊 :「陽炎」「秋雲」「谷風」「朝潮」
第二十八駆逐隊 :「海風」「江風」「五月雨」「山風」
第十四潜水戦隊(特設潜水母艦2):にくら丸、ほくろ丸
第六十三潜水隊:呂527、呂528、呂529、呂530、呂531、
呂533、呂534
第六十四潜水隊:呂536、呂537、呂538、呂539、呂540、
呂542、呂543、呂544
付属:海氷空母:「雲海」「大海」、甲型×4
海氷飛行場:「日高見」
連合艦隊旗艦『敷島』。第七艦隊の偵察機による誘導、その後の観測で、異世界帝国艦隊が大打撃を被ったのを確認し、司令部ではどこかホッとした空気が流れていた。
「この戦果は、想像以上です」
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は告げた。
「例の紫の艦隊を含む主力艦隊を全滅させられたのは大きいです。残るルベル艦隊もそれぞれ打撃を受けていますから、第一、第二機動艦隊、そして航空艦隊からの攻撃で撃滅も不可能ではありません」
「さすがに島をぶつけられるとは、敵も思っていなかったでしょうな」
渡辺先任参謀が口元を緩める。
「一大決戦の覚悟で出てきたのに、もう残敵掃討レベルになってしまった感じです」
「犠牲が少ないのはいいことだ」
山本はしみじみと言った。
「それでなくても、我が海軍は多くの者が犠牲になった」
瞑目する山本である。開戦からずっと、連合艦隊を指揮していただけあって、彼の手帳は、すでに何冊目かわからないほど戦死者で溢れていた。
草鹿が泰然と言う。
「このまま損害が少なければ、米英に協力するべく大西洋に向かうことも可能でありましょう」
「うむ。そこでも勝てれば、戦いの潮目が変わるかもしれん」
そう山本が言ったところで、中島情報参謀が、新たな通信を受けてやってきた。
「長官、前線の偵察機より緊急報告です。転移島で異変が――」
「異変……?」
6回目の転移で、別戦線――アマゾン川にあるマナウスにある要塞都市への体当たりに用いられるはずだったエレウテリアー島。そのために、アマゾン流域に、稲妻師団本隊を派遣したのだが――
「何があったのかね?」
「島が分離し、基地施設が浮上を開始したとのことです」
「浮上!?」
首席参謀の高田 利種大佐が驚愕した。
「島が空に浮かんだというのか!? そんな馬鹿な!」
「いえ、あくまで基地の部分のみで、島はそのままのようです」
中島が補足すれば、源田航空参謀は眉をひそめた。
「基地と島が分かれて……どういうことだ?」
連合艦隊司令部に困惑が広がる。しかし続報はすぐにきた。通信長が新たな報告を携えて現れた。
「失礼します。偵察機より続報です。浮上した基地は、島を光線兵器で攻撃、これを破壊いたしました!」