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第七三八話、エレウテリアー島の中と外


 T艦隊が、サンディエゴの戦いに介入した直後、正確には、移動要塞島エレウテリアーが消えた時、インド洋で、イ号作戦による日本海軍の攻撃が始まった。


 赤の艦隊を前衛に三群、そして後方に紫の艦隊を含む主力艦隊と大船団。

 その主力部隊の中央――紫艦隊の旗艦を含む超戦艦のいる艦隊の中央近くに、直径8.5キロメートルの島が突如出現した。


 米ハワイ艦隊、そしてゲラーン艦隊の一部を、その巨大なる塊が一瞬で潰したように、異世界帝国主力艦隊の中心、戦艦、空母の横列を、消滅させた。


 横列に10隻ずつ。縦に戦艦、空母が交互に並んでいたそれらは、前から六列、その端の数隻を除き破壊。後ろの横列三列のうち、先頭の戦艦列が目の前に現れた島を回避しようとして、避けきれずさらに5隻が衝突、大破。


 転移島から難を逃れた戦艦は18隻、空母は14隻。紫の艦隊の旗艦を含む33隻の戦艦、空母空母26隻が、ほんの数秒で失われた。

 ムンドゥス帝国移動要塞島エレウテリアー司令部で、グラペー中将は、周囲の景色が変わったことに驚いた。


「何だ? 何かあったのか?」


 音もなく転移したことで、グラペー中将以下、エレウテリアーにいた者たちは、誰ひとりそれに気づけなかった。

 爆発音が聞こえた気がし、少し揺れたような気がした。だが劇的におかしいと思わせたのは、アメリカ西海岸が消え、全方位を海に囲まれていること。

 司令部スタッフたちの動き、いやざわめきと動揺が大きくなる。


「周囲に艦艇あり! 友軍ですが、ゲラーン閣下の艦隊ではありません!」

「どこの艦隊だ? 確認を――」


 グラペーが言い終わる前に、一瞬周囲がブレたようだった。またも爆発音のようなものが聞こえた気がした。


「おい、施設に異常はないんだな?」

「はっ、アラートなし。どこも正常のようですが――」

『司令部へ、こちら東観測所。ルベル・クルーザーを多数確認!』


 四方にある観測所からの報告が相次ぐ。先ほどまで見えた友軍艦隊とは別の赤の艦隊が、島の周りを取り囲んでいるという。否、取り囲んでいるというより、艦隊の真ん中に島が突っ込んだような。

 グラペーは冷や汗が止まらなくなる。


「ゲ、ゲラーン閣下はどうされた?  通信! 急いで確認を!」


 スタッフらの動揺は、これ以上ないほど大きくなる。

 彼らが状況把握を急ぐが、すでにインド洋の主力艦隊のみならず、一番北に展開していたルベル艦隊・第一群に、島は飛び込み、ルベル・キャリアーやクルーザーを挽き潰していた。


「『クレマンソー』確認できず! 応答ありません!」

「くっ……」


 グラペーが呻いた時、三度目の爆発音が連続した。今度はルベル艦隊・第二群のど真ん中にエレウテリアー島は転移で送り込まれたのだ。



  ・  ・  ・



「どうやら始まったようだ」


 エレウテリアー島に上陸している日本海軍特殊部隊『(うつつ)』部隊、遠木中佐は、周囲の地形が変わったという虚空特殊輸送機からの無線を受け、部下たちに声をかけた。


 島の中央、正確には中ほどにある1500メートル滑走路の端に駐機されている円盤兵器――アステールの前まで来ていた。

 150メートルもの大型円盤。出撃待機中なのか、昇降口は閉じられていて、整備員たちも周りにはいない。いつ飛び立ってもおかしくない状態だ。

 サンディエゴ攻撃には参加していない機体だが、飛び立った機体が戻ってきたら交代で出撃する予定だったのかもしれない。


「中佐、やはりこのデカブツを短時間に乗っ取るのは難しいですぜ」


 隊員が言い、遠木も頷いた。


「そうだな。この分だと、円盤を制圧する前に、最終衝突がきてしまうかもしれない。乗っ取りはなしだ。転送札を貼り付けろ」


 アステールの機体に、使い捨て転移の札――いわゆる魔法の品を部下の一人が貼る。


「中佐!」

「よし、撤収! 虚空まで戻れ! 時間がないぞ」


 現部隊員は、乗ってきた輸送機へと急いで戻る。今、転移装置を使って、この島を敵艦隊の間に突っ込ませて、破壊の限りを尽くしている。

 しかし、この転移装置は、魔力ポッドと呼ばれる能力者の代わりに発動の魔力を装置に送り込む機構が取り付けられている。


 艦艇に搭載されている転移装置は、能力者や魔力持ちが発動させている。一方こちらはリモコンのスイッチを押せば、ポッドが装置に魔力を注入し転移するという仕掛けとなっていた。

 だがこの魔力ポッド任せの転移は、回数制限があり、一つの装置につき二回しか使用できない。


 能力者や魔力持ちが、装置と居れば回数の問題はクリアされる。だが、持ち駒作戦におけるこの転移島の最終到達点での使用法が、そこにいると命の保証はできないとされたから、遠隔操作式になっていたのだ。

 現部隊は、転移装置の設置と、できれば円盤兵器を鹵獲ということになっていたが、稲妻師団の全体の任務からすると、途中退場という形になる。


 日本海軍特殊師団の、持ち駒作戦、その真の任務は、この転移島の制圧である。

 イ号作戦において、敵艦隊を島の体当たりで半壊させた後、とある場所に転移させて、そこで稲妻師団本隊が上陸することになっていた。


 何せこの島を浮かせている仕組みや、異世界帝国の転移装置など、解析したい技術の宝庫である。日本海軍としても、このエレウテリアー島は手に入れたい。

 そのためには、乗っている敵兵が邪魔である。あからさまなアヴラタワーは確認できていないが、あの指揮所を兼ねていると思われる塔がそれかもしれない。


 が、とりあえずわからないので、異世界にとっての生命維持装置は、侵入後に破壊することになっている。その間、邪魔な敵クルーを極力、戦闘不能にするべく、転移の最後には、とある場所にぶつけることになっている。


 本来は装置が壊れる危険性のあることは避けたいが、イ号作戦との兼ね合いもあり、充分な準備期間と訓練がとれなかった分、多少壊してもいいとされた。

 それで、その最後の転移が、島にいると下手したら死ぬレベルで危ない衝撃となるため、転移装置はリモコン式、そして現部隊はその前に撤収ということになっていた。


「円盤、転移札で転移!」


 仕掛けた転移札が発動して、確保目的だったアステールを内地の無人島へ飛ばす。これまた転移座標が崖となっており、転移と共に衝突、中の乗員を無警告衝撃で重傷ないし激突死させるのである。


「何もかも上手くいかないものだが……まあ、最低限だな」


 遠木は、分隊と共に、虚空特殊輸送機の後部ハッチに辿り着いた。遮蔽で隠れているが目印があるので、迷わなかった。

 機長から無線が入る。


『中佐、どうやら後退しているところを見られたようですよ! 施設の方から敵兵、およそ1個小隊が出てきました』

「いま着いた。転移は何回目だ?」

『こっちにきて、おそらく四回目です。見逃してなければ、ですが――』

「大丈夫、もう全員乗った!」


 カーゴブロックに隊員が全員いるのを確認し、遠木は叫んだ。


「いいぞ、出してくれ!」


 後部ハッチがしまり、虚空輸送機はマ式エンジンを噴かして、ふわりと浮かび上がる。そして急いでエレウテリアー島から離脱した。

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