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第七三五話、大艦巨砲の嵐


 米太平洋艦隊は、劣勢だった。

 トーマス・キンケイド中将指揮の戦艦群は、レキシントン級巡洋戦艦に頭を押さえられ、天城型巡洋戦艦、紀伊型戦艦との同航戦を展開。二方向からの砲撃にさらされ、数でもまた不利になるつつあった。


 そこにきて、最後尾の『サウスカロライナ』が装甲を破られ、大破、沈没しつつあった。

 キンケイドが、その報告を受ける間、列の後ろグループである『カンザス』『ミネソタ』の周りにも巨大な水柱が沸き起こった。


「16インチ砲弾じゃない……か?」


 これまでの戦艦のそれとは違う水柱。そしてさらに迫力を増す砲声が木霊する。


「敵同航艦列の向こうに、別の戦艦列!」


 見張り員が報告する。

 それは全長274メートルの細長い艦体を持つ13号艦型巡洋戦艦4隻と、全長308メートルもの巨艦、巡洋戦艦『インコンパラブル』だった。


 前者は八八艦隊計画の最終型、46センチ連装砲四基八門搭載型案の再現であり、後者は第一次世界大戦時にイギリスが計画していた50.8センチ三連装砲三基九門を装備するモンスター巡洋戦艦である。

 これら46センチ砲、そして50.8センチ砲が、対16インチ対応装甲を砕き、『サウスカロライナ』を破壊したのだ。


「畜生、これでは嬲り殺しだぞ」


 キンケイドは呻く。13号艦型、『インコンパラブル』の主砲射撃の間隔は、遅く感じる上に、さほど正確ではなさそうだが、その水柱の迫力は桁違いであり、当たれば轟沈もあり得るのでは、と潜在的なプレッシャーを与えた。


「『ミネソタ』被弾!」


 食らったか――しかしその爆発は思ったより小さい。どうやら46センチ砲弾ではなく、同航している紀伊型の41センチ砲弾だったようだ。

 安堵したのもつかの間、『ミネソタ』の前をいく『カンザス』が重い衝撃音を響かせると共に、艦尾側が跳ねた。爆発、そしてもうもうたる煙を噴き出し、列を外れていく。


「『カンザス』被弾! 戦列を離れる!」

「――っ!」


 キンケイドが呪詛を吐こうとした矢先、旗艦『ニュージャージー』が直撃の振動で揺れた。

 天城型の先頭艦、そしてレキシントン級巡洋戦艦6隻分の集中砲火を浴びているのだ。下手な鉄砲も数打てば、ラッキーヒットもある。


「前方、レキシントン級の後ろに新たな戦艦、続く!」


 T字の頭を押さえていたのは6隻の巡洋戦艦だけではなかったのか。

 見えてきたのは、遠目からでも異形なシルエットだった。あの低めの艦橋、主砲配置の異様さ――


「イギリス戦艦か……!」


 G3級巡洋戦艦。ワシントン軍縮条約によって廃棄となったイギリスの異形。45口径40.6センチ三連装砲を艦首に二基、艦橋後ろに、後ろ向きに一基の計三基九門を装備、以上。

 艦尾に主砲を置かない配置は、ネルソン級を生み出したイギリスらしいといえばらしいが、元々はこれとN3級戦艦を元に、ネルソン級が作られたというべきだろう。


 このG3級は、基準排水量4万8400トンと巡洋戦艦でありながら、アイオワ級とほぼ同等。全長は260メートル、機関出力は16万馬力で速力32ノットの巡洋戦艦である。


 イギリスの巡洋戦艦といえば、装甲が薄いことでつとに有名だが、この異様な砲配置は、バイタルパートを縮め、徹底的な集中防御方式を採用させている。第一次世界大戦で巡洋戦艦の脆さを痛感したイギリスではあるが、この異様配置のせいで、中央主砲の取り回しが非常に悪い。


 だがそれでいい。これ以上はいらない、と米戦艦クルーたちは祈るように願った。

 窮地なのは戦艦部隊だけではない。


 敵巡洋艦や駆逐艦をブロックするボルチモア級重巡や、クリーブランド級軽巡戦隊は、アルザス級戦艦の38.1センチ砲、マッケンゼン級巡洋戦艦の35.6センチ砲、エルザッツ・モナルヒ級戦艦の35センチ砲、オランダの1940年式巡洋戦艦の28センチ砲など、巡洋艦相手には過剰な火力が撃ち込まれた。


『ボルチモア』が大破、漂流。『ボストン』『キャンベラ』が撃沈され、速射を活かして果敢に砲撃をするクリーブランド級も、『デンバー』『ダルース』『ウィルクスバリ』がすでに沈められ、『モントピリア』『デイトン』は洋上のスクラップと化していた。

 頼みの航空戦力も、敵氷山空母と空母群の戦闘機に阻まれ、艦隊攻撃ができずにいた。


 そして、移動要塞島エレウテリアーから、円盤兵器アステールが四機発進。サンディエゴに向かって飛んでいった。

 万事休す。太平洋艦隊こと第5艦隊は、このまま壊滅してしまうのか――


 その時、異変が起きた。

 島が動いたのだ。転移でしか移動できないはずのエレウテリアー島が、その位置をズラしたのだ。

 その結果、凄まじい衝突事故が発生した。


 第二陣として控えていた1920年型サウスダコタ級戦艦6隻、45.7センチ三連装砲三基装備のイギリスのN3級戦艦4隻、リヨン級戦艦4隻、ジル級巡洋戦艦4隻、スターリングラード級大型巡洋艦や、航空巡洋艦部隊が、島の移動場所に重なり、瞬時に衝突、破壊されてしまったのだ。



  ・  ・  ・



 エレウテリアー島の移動は、もちろん異世界帝国側の意図したものではない。外部の力によって移動させられたのだ。


「特務転移艦『瑞穂』の転移照射装置は、転移島の移動に成功したようです」


 T艦隊旗艦、航空戦艦『浅間』で、神明参謀長は、司令長官である栗田中将に言った。


 島の位置をズラしたカラクリは、転移照射装置――異世界帝国の転移装甲艦の装備を日本軍でも流用したそれだ。

 転移ビームを浴びせた対象を、予め設定していた場所に瞬間移動させるというもの。それを実行したのは、インド洋海戦で大破した水上機母艦『瑞穂』の修理、改装艦である。


 水上機母艦の今後の運用についての見直しが海軍内で進められていたが、その中で魔技研は大破した『瑞穂』に目をつけ、転移照射装置を用いた敵を鹵獲する艦として作り直した。

 転移照射装置のほか、遮蔽装置、潜水機能を搭載し、高速輸送艦としても使用できる一方で、水上機運用能力はほぼなくなっている。


『瑞穂』は、現部隊が転移島に乗り込み、転移装置を設置し、持ち駒作戦を実行している間に、異世界帝国艦隊の第二陣戦力の間を遮蔽で突っ込んだ。

 艦隊の中で転移出口を設定したのち、離脱、そして島へ接近。艦内のエネルギーのほぼ全てを消費して、転移照射装置を使用。転移島を動かしたのである。

 これが、エレウテリアー島が、艦隊に突っ込み、轢き殺した真相である。


「効果あり、か。いやはや、島が動くとはね」


 栗田は苦笑するしかない。


「連発はできそうか?」

「……いえ『瑞穂』からは、充電しないと再度の島の移動は無理とのことです」


 さすがにあれだけの質量を持った物を動かすのに、異世界帝国式のものでは多大なエネルギーが必要であった。


「うむ、まあ自由にぶん回せれば、楽だったのだろうが、あの島はイ号で使うからな。ここからはあの島なしでやろう」


 栗田は背筋を伸ばした。


「艦隊へ、攻撃開始! 米軍を支援せよ」

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