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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第七十三話、フィリピン沖、波高し


 サイパン、テニアン、グアム基地、襲撃される!


 ムンドゥス帝国太平洋艦隊司令部、そして東南アジア方面の東洋艦隊司令部に、その報告がなされた。


「来たか!」


 太平洋艦隊司令長官、エアル大将は、報告を受けるとすぐに参謀らを招集した。


「敵はマリアナ諸島攻略に動いた! 後続部隊に備え、トラック駐留艦隊は警戒を厳にせよ! 太平洋艦隊は、マーシャル諸島まで進出する!」


 8月頭、日本軍の動きが活発化し、陸海軍ともに兵力の移動が確認されつつあった。


 海軍だけでなく、陸軍とそれを乗せる船団も準備されているらしいと報告があり、ついに反攻に出るのでは、と、異世界帝国では、その侵攻方向を見定めるべく警戒を強めていた。


 しかし、本土に近づけた潜水艦は、日本海軍の対潜能力が上がったせいか、近頃、ボカスカ沈められており、その索敵能力も機能しているとは言い難い。


 あまつさえ、哨戒線を警戒する潜水艦も消息不明艦が相次いでおり、連絡の不通か、撃沈されたのか、確認に手間取ることもしばしばあった。


 それならばと長距離偵察機を出せば、早いうちに迎撃機が現れたり、誘導飛行兵器――誘導弾が飛んできて撃墜された。


 この哨戒線の穴を突かれて、敵の大部隊が移動しているかもしれない――これは異世界帝国の各方面軍司令部で要警戒とされていた。


 そして、ついにマリアナ諸島で建設中の一大航空要塞が、日本軍の奇襲を受けたのである。


 日本軍は、中部太平洋に反攻しつつあり――異世界帝国太平洋艦隊司令部はそう判断した。


 一方、東洋艦隊司令部では、メトポロン東洋艦隊司令長官と、参謀たちで討議が続けられていた。


「敵の攻勢目的は、マリアナ諸島だろうか?」


 メトポロンは参謀らを見回した。


「そちらは陽動で、本当の目的は、東南アジア方面への攻勢ではないだろうか?」

「そうであるならば、今この瞬間にも、敵の主力がこちらに迫ってきてるということになりますが……」


 ヴェガス参謀長が海図を睨み付けた。


「日本軍も、我が東洋艦隊主力が、マニラに駐留していると知っております。仏印の日本陸軍を海上から支援しようとするならば、我々の存在は連中にとっては目の上の瘤。真っ先に排除せねばならない目標と言えましょう」

「海上哨戒線は?」

「現在のところ、日本軍の艦隊を発見しておりません。というよりも――」


 ヴェガスが、航海参謀を見た。


「先日からの大嵐の影響か、連絡が取れない潜水艦あります。敵に撃沈されていないといいのですが……」


 その時は、哨戒線内に日本軍が侵入している可能性があるということだ。メトポロンは窓の外、降り続く強い雨を睨んだ。


「偵察機は飛ばせんか……」

「飛ばしても、この雨では視界不良で敵の発見どころではないでしょう」


 ヴェガスの言葉に、メトポロンは頷いた。


「雨が上がり次第、偵察航空隊を出せ。近くに敵の艦隊が忍び寄っていれば、我々も危ない。敵空母の艦載機が襲いかかってくるやもしれん」


 フィリピンという地は、東南アジア、南シナ海を見張るための位置として悪くないが、有力な海軍兵力を持つ日本が比較的近いため、ひとたび攻撃目標とされたら予断は許さない。


「艦隊を、軍港から出しますか?」


 参謀長が確認してきた。日本軍が動いている可能性は高い。嵐による天候不順の隙をついて、マニラに近づいてくれば、奇襲を受けかねない。


「艦隊は待機だ」

「よろしいのですか?」

「まずは偵察機を飛ばして、確認してからだ」


 メトポロンは地図を見下ろした。


「敵が本当にマリアナ諸島へ侵攻したなら、我々がキャビテ軍港を出るのは、まったくの無駄になる」


 それに――


「仮に敵が近くにいたとしても、この嵐では空襲はないし、嵐が過ぎ去った後なら飛行場から戦闘機で迎撃させればよい。もしこのマニラに敵水上艦艇が迫っていたなら、軍港を出たあたりで迎え撃ってやってもよい。どこで沈めても同じだ」


 メトポロンは腕を組んだ。


「偵察機で周辺海域を捜索し、敵がいないとわかるまでは、艦隊全クルーに警戒を指示。こちらに敵が来るという心構えでな」

「はっ!」


 参謀たちは背筋を伸ばし、踵を鳴らした。


「……敵がマリアナ襲撃を攻撃正面としているなら、我々も次の手を考えてもいいだろう。台湾か、香港辺りを砲撃するか。……ないとは思うが、太平洋艦隊の支援とか?」


 メトポロンの発言に参謀たちは苦笑した。有力な太平洋艦隊が、まさか日本軍に後れを取るとは思えなかった。


「では、諸君。今日はここまでとしよう」


 会議は終了。メトポロンは自室へ戻る前に、窓の外を見やる。


「忌々しい雨だ」



  ・  ・  ・


「忌々しい雨だ」


 日本海軍第三艦隊旗艦、空母『瑞鶴』の艦橋で、小沢治三郎中将は呟いた。


 フィリピン北方海域を進む第三艦隊は、強い雨と風にさらされていた。波も高く、当然ながら航空機の発艦は無理な状況にあった。


「この雨ならば、敵に発見されないだろうが……」


 フィリピン北部がしばらく雨だった場合、近づくことはできても、その航空隊を飛ばすことができない。


「長官、今夜はもうお休みください」


 参謀長、草鹿龍之介少将は、泰然とした調子で言った。


「作戦は明日、夜明けと共に開始です」

「それはわかっておる」


 小沢はわずかに眉をひそめた。


「しかし、こうも雨が強いとな。……君はまったくもって落ち着いているな」


 このまま航空隊が出撃できなければ、南方作戦の初動で躓く。それは以後の作戦にも大きな影響を与える。キャビテ軍港に駐留する異世界帝国東洋艦隊は、必ず粉砕しなくてはならないのだ。


「天候ですから、致し方ありません」


 そこで草鹿は、より低い声を発した。


「今はただ、その時を待つのみです。この雨もいつかはやみます。その時こそ、乾坤一擲、必殺の一撃で、敵艦隊を撃破するのです」

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