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第七二九話、鍵は、転移島にあり


 連合艦隊旗艦『敷島』に戻った源田 実中佐は、長官公室にやってくると、山本 五十六連合艦隊司令長官のもとへ足早に歩み寄った。

 山本は、渡辺先任参謀と将棋を指していた。


「長官、事態を解決する妙案を持って参りました!」

「ほう……」


 渡辺の番というところで、山本は顔をあげる。源田が寄越した作戦案と書かれた紙切れを受け取る。


「この書式は、神明君だな」


 案の定、立案者に神明 龍造と記載があった。このいかにも即席で書き上げたそれは、見覚えがある。

 肝心の作戦案に目を通す。すぐに山本の目は真剣さを帯びる。


「長官の番ですぞ」


 渡辺が声をかけたが、山本は無反応だった。食い入るように案を見返し、そして口を開いた。


「源田君、神明君は何か言っていたかね?」

「はっ。移動する島は、最大の障害であるが、連合艦隊の救世主になりえる、と」

「……確かに」


 連合艦隊司令部が、その動向で大きく振り回されることになるだろう転移島について、それを真っ先に排除し、あまつさえそれを利用しようというのだから、間違ってはいない。


「しかし……これは……」


 山本は口元に手を当てる。その下で、笑い出したい衝動を堪える。


「これは、可能なのか?」

「神明少将は、可能だと」

「……だよな。彼は、できないことは言わない」


 山本は、紙を渡辺へと渡した。受け取った先任参謀は「えっ!?」と声を上げる。


「よくもまあ、こんなことを思いつくものだ」

「はっ、神明さんは、手頃な物体を探していて、これはそれにピッタリだと言っておりました」

「なるほど……」


 そう言えば、海氷爆弾とか、とにかく大きな代物を作戦に用いるところが、神明にあった。チ号作戦において、ジブラルタル海峡を封鎖した海氷防壁などなど……。


「関係各所に通達して、この作戦のための準備と動員をかけてくれ、源田君」

「はっ」


 源田は一礼すると、長官公室を後にした。渡辺は作戦案を返しながら言う。


「よろしいのですか? 司令部で検討しなくて」

「これからやる。だがこれ以上に、状況を変える方法を思いつくとは思えないけどね」



  ・  ・  ・



 作戦の再検討が行われた。

 神明が提出した作戦案を元にし、東南アジア防衛戦――敵を引き込んでの漸減作戦ではなく、インド洋にいるうちに敵艦隊との決戦を挑み、油田地帯の防衛も行う。

 その作戦は、軍令部の承認のもと、イ号作戦と呼称され、連合艦隊は動き出した。


 第一、第二機動艦隊ならびに第一艦隊が、各々出航の準備を開始。いつでもインド洋へ出撃できる態勢を整えた。


 一方、それに先んじて稲妻師団から、選抜された特殊部隊が、とある任務を命じられた。

 ハワイに展開する異世界帝国軍の移動する島――日本海軍呼称『転移島』への潜入上陸任務である。

 軽空母『龍驤』の飛行甲板に載せた虚空特殊輸送機は三機。これらは遮蔽装置を使って姿を隠し、転移島へ向かう。


「俺たちの任務は、簡単だ。異世界人の作った人工の島に乗り込み、旗を立てる」


 稲妻師団、『(うつつ)』部隊の遠木 迅中佐は、部下たちに説明する。古参の兵である藤林中尉は口元を歪めた。


「旗って言うには、随分とぶっといですな!」


 歴戦の部下たちから、漣のように笑い声が広がった。遠木中佐は首をわずかに傾ける。


「なあに、この島は俺たちのものだ、と宣言するんだから、旗というのもまんざら間違ってはいないさ」


 三機の虚空特殊輸送機は、三方向からそれぞれ島に接近、その端に着陸する。


「端っこなんですか?」

「敵は施設周りに防御障壁を張っているかもしれない。上陸前に衝突死は嫌だろう?」


 島の中央には艦艇の上部構造物のような建物があり、艦橋のような塔が立っている。通信やレーダーほか、障壁の発生装置、果てはアヴラタワーの可能性もあった。

 中央から外側に向けて、舗装路が八方向に伸びており、施設のほか、円盤兵器アステールが1機ずつ、計8機駐機されている。

 そこから島の端まで平坦な芝が広がっていて、いくつか対空用の銃座が配置されている以外は、特に障害物はなかった。


「我らが神明少将によれば、円盤兵器のある辺りまでは防御障壁が展開されている可能性が高いが、そこより外は少々の被弾で崩れるようなものではないので、障壁はないだろうとのことだ」


 同様に島を取り囲むようにある壁にも、特に防御はないという話だった。そこに防御障壁を使うのは、はっきり言ってエネルギーの無駄。土砂や岩がそのまま防御の層となるのだ。


「そいつはありがたいことで」

「あの人は、俺たちに嘘はついたことはないからな。……間違えることはあるかもしれないが」


 遠木中佐は冗談めかした。


「それで、俺たちは三つの旗を立てる。これが最低限の任務だ。これだけは必ずやり遂げる。日本の未来がかかっていると言っても過言ではない」


 失敗は許されない――その言葉に、隊員たちは表情を引き締めた。


「最低限の仕事をこなし、余力がある場合は、さらに潜入を続ける。ここからは難しくなるぞ。敵の円盤兵器を奪取する」

「!」


 せっかく島に潜り込んだのだから、無傷のアステールを奪うチャンスである。日本に襲来した円盤兵器は撃破後、回収され分析に回されているが、欲をいえば無傷の機体を手に入れたい。


「もちろん、こいつはおまけだ。不可能なら、さっさと旗だけ立てて撤退する」

「島を占領しないのですか?」


 そう言ったのは部隊に配属されて半年の真嶌(まじま)少尉だった。遠木は自身の腰に手を当てた。


「そいつは余所の仕事で、俺たちは施設の中には入らない」


 何せ、転移島のことは表面で見える部分の情報しかない。中がどうなっているのか、どんな設備、そして戦闘要員がどれくらいいるのか、まったくわからなかった。


「占領できるなら、色々収穫はあるだろうが、それを解析するだけの余裕もなく、使う予定だからな。まあ、あれだ。二兎を追う者は一兎をも得ず、というやつだ」

「もう二兎を追っている気がしますがね……」


 真嶌は苦笑した。藤林が口を挟んだ。


「最優先目標を重視しろってことだ。欲を出して死ぬのも馬鹿らしい。我らが神明少将は、そういう無駄死にを嫌う人だからな」

「前から思っていたんですが、何でもかんでも神明少将のせいにしてません?」

「わかるか? そう思っていたほうが気分が楽になるってことだ」


 前線のガス抜きには、適度に上官の悪口や文句を言うのがちょうどいい。もちろん度を超したものは罰せられるから、直接の上司がお目こぼしする程度に収めるのが望ましい。

 遠木は咳払いした。


「円盤兵器の構造資料がある。強奪に備えて、頭に叩き込んでおけ。最低限の仕事は当然として、追加のオーダーに答えられてこその、俺たち『現』部隊だ」


 そこらの部隊と違うというところを見せないといけない。特殊部隊の名に賭けて。

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