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第七二七話、謎の島


 最初にそれを発見したのは、オーストラリア方面を監視する南東方面艦隊の彩雲偵察機だった。

 何やら基地のような施設のある小島があって、しかもそれは地図に記載のないものであった。


 異世界帝国の監視所か? しかし報告によれば、レーダー施設と呼ぶには大きく、航空機の滑走路や待機所も複数あり、一大飛行場の可能性もあった。


 地図にもない島が突然現れるというのも妙な話である。南東方面艦隊参謀長の富岡少将は、調査を進言し、草鹿 任一中将もそれを認めた。

 しかし、二度目に偵察機を出した時、その小島は影も形もなくなっていた。これはどういうことか?


 位置報告が間違っていたのではないか? 幻を見たのでは、などと言われる中、南東方面艦隊の偵察飛行隊は捜索を行ったが、やはり見つけることができなかった。

 そして、悲劇は起こった。


 突然、ラバウルに、異世界帝国の円盤兵器アステールが数機、襲来したのである。

 飛行場は電探により、戦闘機が緊急発進できる態勢が整えられていたが、アステールが出現した時に即応できる状態ではなかった。


 専用転移弾の調定をしている間に、敵機は飛行場に襲来。直掩機が向かうも、対応兵器を搭載していない戦闘機では阻止することはできず、ラバウルの各飛行場は火の海と化した。

 南東方面艦隊のラバウル展開航空隊は、壊滅的打撃を被ったが、哨戒活動中の瑞雲水上偵察機が、遮蔽で敵円盤を追跡し、その出所を探った。


 結果、アステールは、地図に乗っていない小島の基地に着陸するのを観測した。

 またも謎の小島である。


 海氷飛行場『日高見』の第一航空艦隊は、ただちにラバウルの仇とばかりに反撃行動に出たが、敵基地を擁する小島は、忽然と姿を消した。

 南東方面艦隊司令部では、この不可解な状況に頭を悩ます。


「遮蔽で隠れているのか?」

「最初の第一報と、今回のラバウルを攻撃した敵が、同一の存在だとしたら――?」


 富岡参謀長は言った。


「転移で移動しているかもしれません」

「馬鹿な。島だぞ? ――いや、しかし」

「そうです。我々も、この日高見という海氷飛行場を転移で移動させていますから、異世界人が、島を転移させるということもあり得ない話ではないかもしれません」


 そう富岡は、草鹿中将に告げたが、彼自身、疑いの気持ちを拭えずにいた。

 海氷飛行場は海に浮いている。島のように巨大でも、海底と繋がってはいない。しかし島ともなれば、普通は海底と繋がっているもので、地殻の動きで年に数センチ動いたり、盛り上がったり、逆に沈んだりはする。


 だが、移動はできないはずである。その島に見えるものは、海氷のように海に浮かんでいるのならば、あり得るが、そもそも島は浮かない。

 草鹿は顔をしかめる。


「ラバウルをやったヤツが、浮かぶ島という非常識な代物だったとして、次はどこを襲うと思う?」

「近場で考えるならば、トラック、マーシャル諸島」


 富岡は地図を睨む。


「転移で移動していると考えれば、マリアナ、そして小笠原、内地という可能性も」

「インド洋で敵が動きつつあるという状況なのに」


 ただでさえ、面倒な時期に現れたものである。


「面倒な時、だからこそかもしれません。連合艦隊をインド洋へ向かわせない、あるいは迅速な反撃を妨げる要素として牽制している可能性もあります」

「各基地に、円盤兵器への対策を徹底を通達するしかあるまい。今度、電探に引っかかったら、即迎撃できるようにするのだ」


 草鹿はそう指示し、内地にも同様の警告を送った。

 だが、しばらく小島と円盤兵器に関する報告は、日本軍の間ではあがらなかった。

 次に現れたのは、日本軍のテリトリーではなかったのだ。



  ・  ・  ・



「ジョンストン島だと?」


 連合艦隊司令長官、山本 五十六大将は、海軍省からの報告に耳を疑った。

 円盤兵器の飛行場らしい小島が、アメリカ合衆国が管理するジョンストン島近海に現れ、これを襲撃したという。


「すると、敵はハワイを狙っているのか?」

「その可能性は、すこぶる高くあります」


 中島情報参謀は、海軍省からの報告から目を離した。


「米国は、ハワイ駐留艦隊を出撃させたようですが、正直、複数の円盤を撃墜できる自信はないようで、日本軍に円盤撃墜の助力を乞うてきています」

「あの円盤兵器を撃墜したのは、我が国だけだからな……」


 襲われた国も、日本とアメリカだけではあるが、アメリカは迎撃に失敗し、ホワイトハウスを吹き飛ばされている。


「海軍省はどう言ってきた?」


 支援に戦力を送れ、と言っているのか、それとも今はアメリカのことは二の次と捨て置くのか。


 ――いや、こちらに話がきたということは、送れということか?


「軍令部と協議しているそうですが、今のところは何も。仮に、ハワイがやられたとして、謎の島の進路について不透明ですから」


 ハワイから、アメリカ西海岸へ襲来するなら、日本には来ないから、薄情だが無視もできる。しかし、ハワイの後、ミッドウェー方面から内地へ向かってきたならば、遅かれ早かれ撃破しなくてはならない敵ということになる。


「ふむ……」


 日本としては、東南アジア防衛、インド洋の敵艦隊撃滅に注力したいところである。面倒なことになった、と山本は目を伏せた。



  ・  ・  ・



 ハワイ、真珠湾基地は、米海軍が異世界帝国より奪回した後、施設の修復を経て、拠点としての機能を取り戻した。

 しかし、かつての一大軍港も完全復旧には遠く、何より太平洋艦隊がその母港をサンディエゴに定めたままなので、外地の拠点の一つ程度に過ぎない。

 駐留する艦隊も、かつてのアジア艦隊よろしく、一地方艦隊レベルである。


 異世界帝国からの鹵獲重巡洋艦『ラハイナ』を旗艦とするハワイ艦隊は、敵の襲来に備えて真珠湾を出た。

 トーマス・L・スプレイグ少将は、旗艦にいて、重いため息をついた。


 重巡洋艦1、護衛空母4、駆逐艦16隻の弱小艦隊である。旗艦もそうだが、駆逐艦の8隻は、異世界帝国の鹵獲艦からなっている。……最近、米軍で研究されている自動艦隊構想の実験部隊だったりする。


「ホワイトハウスを叩いた円盤がきたら、こんな艦隊は簡単に消し飛んでしまうのではないか」


 艦隊の航空戦力は、カサブランカ級護衛空母4隻で、戦闘機の数は合わせても100機に届かない。これでどうしろというのだ、というのがスプレイグ少将の本音であった。


 だが、スプレイグと、ハワイ艦隊の将兵は、その瞬間、あっという間にその人生の幕が下りた。

 何が起こったかわからないまま、ハワイ艦隊21隻は全滅したのだ。


 そこにあったのは、艦隊ではなく、謎の小島――

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