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第七二四話、通商破壊部隊、突入す


「突撃! 敵船団を攻撃せよ!」


 ドイツ海軍(ツェット)艦隊前衛部隊司令官のエーリヒ・バイ少将は、冷静に命令を下した。

 開戦時から、駆逐艦部隊を率いて戦ってきた歴戦の指揮官である。何気に強運の持ち主であり、ドイツ本国が陥落した時も生き残った将官だ。


 彼が座乗するは、計画名O級巡洋戦艦――デアフリンガー級巡洋戦艦『デアフリンガー』。


 基準排水量3万8540トン、全長248メートル、全幅30メートルの艦体を持つデアフリンガー級は、機関総出力で18万7000馬力、最高速度33.5ノットを発揮する高速艦である。


 そのシルエットは、シャルンホルスト級戦艦によく似ており、主砲配置も同じ。ただパッと見で両者を簡単に区別するとすれば、煙突の数である。シャルンホルスト級が煙突が1本なのに対して、より速度を重視したデアフリンガー級は2本煙突である。


 しかし、その攻撃力は、シャルンホルスト級をも凌駕する。何せ三基ある主砲は、28センチ砲ではなく、ビスマルク級戦艦と同じ38センチ連装砲だ。


『デアフリンガー』『モルトケ』『ゲーベン』の三隻は、単縦陣を形成し、最高速度ではなく30ノットの速力で海原を駆ける。……最高速度での主砲斉射は、細身のデアフリンガー級にとって、射撃精度を落とす原因になるのだ。もっとも巡航速度で28ノットを出す化け物である同級は、足の速さは特長の一つであった。


 主砲発砲!

 戦艦相手でも充分な威力の砲弾が、異世界帝国大輸送船団、その護衛のルベル・クルーザーの周りに大きな水柱を上げる。


 巡洋戦艦戦隊が、船団に砲弾を撃ち込む頃、装甲艦、巡洋艦戦隊が距離を詰める。

 計画名P1級装甲艦、アドミラル・シェーア級は、ポケット戦艦ことドイッチュラント級を純粋に強化したような艦だ。


 条約に縛られ、無理に1万トンで作り――結果的にオーバーしていた前級と異なり、相応の装甲を持った高速艦として設計された。

 その全長は、前級の186メートルを大幅に伸びて、シャルンホルスト級に匹敵する223メートル、全幅は27メートルと、同級より細身だが、ドイッチュラント級よりも増している。


 基準排水量2万3700トンは、弩級戦艦並みであり、機関16万5000馬力で33ノットを発揮する。

 主砲は、シャルンホルスト級戦艦が装備していた54.5口径28センチ三連装砲を二基六門を装備。この配置は、ドイッチュラント級と同じだが、主砲の後ろに副砲を配置していること、ビスマルク級に似た艦橋に、2本煙突が見分けのポイントになる。


 巡洋艦相手には火力充分な28センチ砲を撃ちながら、アドミラル・シェーア級『アドミラル・シェーア』『アドミラル・グラーフ・シュペー』『アドミラル・ヒッパー』『リュッツオウ』の4隻は前進する。なお、名前は、すべてこの大戦でドイツ海軍が使っていた重巡洋艦の命名からの流用である。


 その主砲は、ルベル・クルーザーを一撃で大きな損傷を与える一方で、55口径15センチ連装砲もまた発砲する。すでに副砲の射程内での交戦である。


 ルベル・クルーザーの他、異世界帝国駆逐艦は、ドイツ艦隊の猛射を前に圧倒される。その防衛態勢は、対潜・対空を中心にしていたので、水上艦部隊からの突入には、充分な反撃火力を確保できなかったのだ。

 独駆逐艦部隊の突撃、それを支援をするのはM級軽巡洋艦――マクデブルク級『マクデブルク』『ヴィースバーデン』『ロストック』の3隻である。


 第二次世界大戦の開始によって6隻全艦の建造が取りやめられたが、魔核と魔法技術によって、新たに作り直された。


 排水量7800トン。全長183メートル、全幅17メートル。機関出力11万6500馬力。速力35ノット。55口径15センチ連装砲四基八門を主武装とする。

 軽巡洋艦としては可もなく不可もない、平凡な設計は、革新さより堅実さを重視した結果だ。


 ドイツ艦隊が、敵の防衛網を抜き、輸送船に次々と攻撃を仕掛ける。ほぼ停船状態の輸送船など、ただの的も同然である。

 タンカーは爆発炎上し、弾薬を吹き飛ばされた輸送船は、近隣の船を巻き込む。


 ルベル・キャリアーが無人戦闘機を緊急射出したが、そこへ日本海軍の暴風戦闘機が飛来し、ドイツ艦隊の上空を守る。

 ここまでドイツ艦を導いた転移ゲート船と、その護衛であるT艦隊、その空母戦隊の放った直掩部隊である。


「上空援護があるのは、いいものだ」


 エーリヒ・バイは『デアフリンガー』の艦橋から戦場を俯瞰しつつ呟いた。


 かつてのZ計画には空母の建造があったが、ドイツ海軍において、航空隊は非常に少なかった。

 すべては空軍の存在のせい、と独海軍軍人は恨み節になるのだが、予算やら規模を考えれば、海軍独自の艦載機を設計する余裕はなく、空軍機を空母機に改装して使うことになっていた。


 空母艦載機についてはその体たらくであり、普段の海軍の作戦においても、その支援に空軍の協力を仰がねばならなかった。にも関わらず、必ずしも空軍が協力してくれるとは限らず、実に歯痒い思いを強いられてきた。


 が、日本軍に空軍はなく、海軍は自前の、充実した航空隊を保有していた。今回の船団襲撃も、日本海軍の空母航空隊が万全の支援を約束してくれた。


「その好意に甘えていられる身分でいられるためにも、我々はしっかり役割を果たさねばならない」


 以前のドイツ海軍と比べても、全体の戦力は充実しているが、実のところZ艦隊は、大規模な実戦は今回が初だった。

 熟練の水兵も多くを失い、生き延びた者たちの他は、ファウスト博士の自動人形で補っている。

 その性能が実戦でどこまで通用するか。それを確かめる意味でも今回、エーリヒ・レーダー海軍元帥より、ドイツ艦隊に出撃命令が下った。


 日本海軍の軍令部、そして連合艦隊司令長官の山本 五十六大将は、ドイツ海軍の申し出を快諾し、ここに日独共同での作戦となったのである。


「さあ、通商破壊部隊としてデアフリンガー級、アドミラル・シェーア級の性能を遺憾なく発揮する場面だ。敵輸送船を狩りつくせ!」


 バイは発破をかけ、ドイツ艦隊は地中海を突き進む。輸送船団は逃げようとするも、船が多すぎて、上手くいかない。


 本来なら、ここまで接近される前に退避行動を取るものだ。出現から襲撃までの時間は短く、分散退避の準備が整う前にドイツ艦隊が距離を詰めてきたために、輸送船側にはほとんど余裕がなかった。

 結果、一方的な蹂躙が始まった。護衛のルベル巡洋艦は、デアフリンガー級巡洋戦艦、アドミラル・シェーア級装甲艦の火力に耐えられるものではなく、蹴散らされていく。


 もちろん、反撃により、前進した装甲艦や軽巡『ロストック』に損害を与え、『デアフリンガー』『ゲーベン』に18センチ砲弾を数発命中させたものの、巡洋戦艦の装甲を破ることはできなかった。


 ほぼ一方的に船団を叩き、一群を壊滅させたが、バイ少将は深追いはせず、退避行動に移った。

 同じく輸送船団の一群を襲撃したT艦隊経由で、異世界帝国の第二戦闘軍団の空母から少なくない航空部隊の出撃が報告されたからだ。


 敵正規艦隊の航空攻撃が直撃すれば、さすがの前衛部隊も損害は不可避。当初の打ち合わせ通り、T艦隊の用意した『新洋丸』と『天風丸』の転移ゲートの間をくぐって、ドイツ艦隊は撤退した。


 地中海には、まだ異世界帝国艦隊を支援する輸送船団が残っているが、それらは第六艦隊――潜水艦隊が牙を立てるべく、機会を覗うのであった。

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