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第七二三話、多重トラップ


 異世界帝国第二戦闘軍団が海氷防壁に回廊をこじ開けた直後、増強されたチ号作戦部隊は、攻撃に出た。


 まず第一の手は、深山Ⅱによる1460キロ対障壁貫通爆弾による高空爆撃だった。遮蔽に隠れ、たとえ雲の下にいようとも命中させる高尾 鹿子大尉の照準誘導により、障壁があろうがなかろうが構わず、空母へのピンポイント爆撃を行った。


 さらに暁星遮蔽攻撃機が、低高度で、敵の駆逐艦を狙ったロケット弾攻撃を見舞った。防御障壁を抜ける転移弾の在庫はなくとも、無誘導の小型爆弾だったり、ロケット弾はある。障壁を装備していない小型艦への攻撃を仕掛け、その戦力を少しでも削るのだ。


 この深山Ⅱと試製暁星の合わせ技は、異世界帝国側を惑わせた。これまで散々、暁星から襲撃を受けていたから、この攻撃もそれと判断し、高高度の深山Ⅱへの注意、対応を遅れさせた。


 敵にとって二つの対処を必要とする行動を強いる。片方を推理できても、もう片方の行動が、本当にその推理が正しいのかと疑心暗鬼にさせる。何てことはない。答えは一つではなく、はじめから二つあったのだ。


 そこでさらに、異世界帝国指揮官――ポイニークン大将とその幕僚たちに考えを絞らせないよう、チ号作戦部隊は、さらに仕掛けた。

 それは回廊に潜ませている部隊の行動だ。


 霧――マ式濃霧散布装置を使い、敵の視界を奪う中、出口に超大型封鎖戦艦『富士』が潜んでいた。

 黒海封鎖作戦の完了をみて、ジブラルタルに移動してきた『富士』は、遮蔽装置を発動して、海氷防壁の裏に待ち構えていたのである。


 霧の中から40.6センチ三連光弾弾を、反対側の敵艦に命中させたのは遮蔽偵察機『彩雲』の観測支援の成せる業だ。


 この攻撃で、異世界人たちは、海氷防壁の向こうに、戦艦をも一撃で大破させる火力を持つ存在がいると認識しただろう。

 一発を撃った後、『富士』は転移装置で離脱できるように待機した。敵が霧の中の敵にとりあえず砲撃をしておけ、となった時に備えてだ。


 敵は、潜んでいる部隊(・・)の編成を知らない。……そう、部隊である。裏で待ち構えているのは、『富士』だけではない。


 ハルゼー率いる義勇軍艦隊が、ギニア・アフリカゲートに攻め込もうとした時、日本海軍の支援部隊がついた。

 そこに同行する予定だった特殊輸送船『六石丸』と『三富丸』が、今回T艦隊に徴用され、回廊出口の両端に遮蔽で潜伏していた。


 この2隻は、ゲート式転移装置の搭載船であり、転移中継装置を利用できない義勇軍艦隊の転移離脱をサポートするために用意されていた。


 が、その任務は突入断念によって流れ、九頭島に戻っていた特殊輸送船は、いまジブラルタル海峡にいる。海氷防壁をこじ開け、その狭い通路を通ってくるであろう敵艦を、2隻のゲートで転移させるために。


 これが、ポイニークン大将ら第二戦闘軍団司令部を混乱させた、第八戦艦群消失の真相である。

 霧の中、知らず知らずのうちにゲートを通過したオリクトⅡ級戦艦の隊列は、かつてジブラルタル海峡を通った時に転移照射ビームにより、陸地に叩きつけられた英鹵獲艦艇と同じ運命を辿った。


 地表めがけて落ちるよう、わざわざ高所に出口のゲートを設置した。山のゲートから崖下に落ち、艦艇は大破、そして乗員が衝撃でやられるように。

 深山Ⅱと暁星の攻撃と同様、日本海軍は、回廊出口にも二種類の仕掛けを施していた。封鎖戦艦を排除しただけでクリアとはならず、ゲート船を排除しただけでは通れない――その両方に対処してはじめて通過できる。


 この罠の嫌らしいところは、遮蔽とマ式濃霧散布装置による霧の合わせ技で、より見破りにくくなっているところであろう。

 空からの偵察では、ゲートを潜っている瞬間は見えず、何故、突入した艦艇が消えているのかわからない。近づこうにも霧の中が不明のため、迂闊に飛び込めない。何かに衝突して果てるのは、航空機乗りも嫌としか言いようがない。


 こうして、海氷防壁の前で、第二戦闘軍団は足止めを食らい、さらに被害が拡大していた。

 遮蔽航空機をあぶり出すため、戦闘機を大挙して飛ばすが、駆逐艦を破壊している透明機を追えば、大型爆弾で空母が次々と損傷、撃沈されていく。


 敵機を追っていたら、別方向の艦がやられ、異世界帝国戦闘機隊は完全に戸惑う。敵機が見えないのも大きいが、その機動はまさに異次元。航空機にこんな動きができるのかと(おのの)いた。

 ……複数の敵機がいる、という考えに行き着くまでに、かなりの空母と駆逐艦がやられた。


 これまではずっと単機だった、だから今回もそうだろうという思い込みが、彼らの視野を狭くしていたのだ。


 ようやく高高度にも敵がいると判断し、迎撃機を向かわせるも、遮蔽に隠れている深山Ⅱを見つけ出すのは至難の業だった。何せ爆弾が落ちていくタイミングなどわからず、手掛かりは、空母がやられたら、その上空付近にいるとしかわからない。

 しかも投弾後だから、すでに位置を移動している。それでも高高度に上がる機体数が増えれば、投弾直後を視認できる可能性も上がる……。


 だがそれで答えを出す頃には、深山Ⅱも暁星も所定の爆弾を使い切り、それぞれ退却していた。

 異世界帝国戦闘機隊は完全に翻弄され、空母15隻の大破、沈没を許し、空母内の航空燃料の浪費に貢献した。


 第二戦闘軍団は、今回の爆撃で、当初連れてきた空母のおよそ半数を失った。暁星の襲撃でこれまでも空母をやられていたが、北米侵攻という本命の前に、空母が半減したことは痛手としかいいようがなかった。


 ムンドゥス帝国のポイニークン大将にとっては踏んだり蹴ったり、しかもまだ回廊通過の正解すら見つけていない有様だった。

 だが、悲報はさらに続く。


「閣下、本隊後方の輸送船団より、緊急通信です! 現在、戦艦3隻を含む水上艦隊の襲撃を受け、大至急救援を求める、とのことです」

「戦艦? 例の日本軍というやつか?」


 欧州戦線で暴れまわっている日本軍の奇襲艦隊。地中海の軍港やブレスト、トロンハイムを襲ったという話は、地中海艦隊から聞いている。


「いえ、それが日本軍ではないようです」

「日本軍ではない、だと?」


 では何者か。日本以外では、アメリカが有力な艦隊を有しているが、彼らが地中海にまで出しゃばってきたことはないという。

 イギリスもまた同様。フランスとイタリアとかいう国は、すでに占領し、その戦力は残党レベルでも存在しないと聞いていたが…… 


「ならば一体、どこの軍隊だ?」



  ・  ・  ・



 ドイツ海軍だった。


 日本海軍の用意した転移ゲート艦を利用し、O級巡洋戦艦、P1級装甲艦を中心とする通商破壊部隊が、殴り込みをかけてきたのである。

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