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第七二一話、チ号作戦、続行中


 クレタ島の地中海ゲートから、大西洋に出ようとしたムンドゥス帝国第二戦闘軍団。しかしこの大艦隊のジブラルタル通過を阻んだのが氷山の壁であった。


 幅14キロ。海峡の一番狭い場所にぴったり収まる巨大な異世界氷の壁が、第二戦闘軍団を地中海に閉じ込めたのだ。

 足踏みを強いられている間に、日本軍は遮蔽機能を持った攻撃機による、ゲリラ的襲撃を繰り返し、戦闘軍団の戦艦や空母に少なからず打撃を与えた。


 これに対して第二戦闘軍団司令長官である、ピリア・ポイニークン大将は決断した。


「戦艦群による熱線砲を一点集中。巨大氷山の一点を破壊し、回廊を作れ!」


 転移照射装置を持つ艦艇の到着を待つつもりはなかった。小賢しい日本軍の羽虫による被害拡大も望まない。

 だが地中海ゲートに戻り、他ゲートからの出直しでは、消費される日数を考えれば、北米侵攻作戦のスケジュールを大いに遅らせてしまう。

 だから、ここは中央突破しかなかった。


 オリクトⅡ級戦艦50隻が、戦隊単位で代わる代わる熱線砲を、氷山の壁へと放つ。最初は防御シールドで弾かれたが、今回はそれもなく、巨大氷山を溶かし、爆発。その氷の壁を削り取っていく。

 イコノモス参謀長が口を開いた。


「はじめは難儀な要塞かと思いましたが、蓋を開けてみれば案外ハッタリで固めた壁でしたな」

「シールドも、一度きりの使い捨てだったのだろうな。目障りな羽虫も、それを悟らせるのを遅らせるための小細工だったというわけだ」


 だがひとたび、氷山砕きとなれば、この圧倒的な第二戦闘軍団を止めることは不可能である。

 しかし、馬鹿正直に氷山の完全破壊はしない。というより、それで時間を浪費するわけにはいかない。通り道さえ作ってしまえば、敵が苦労して作った大氷山の壁も、無意味なものと化す。


 さっさと道を作って、大西洋に出る。氷山の壁の向こうに敵はいないのは、偵察機によりわかっている。通過中は、空母群の航空隊が睨みを利かす。

 もやは敵に妨害する手はない。


 完璧だ――ポイニークン大将は不敵な笑みを浮かべ、前衛戦艦群の熱線砲が氷山を破砕する様を眺めるのだった。



  ・  ・  ・



 異世界帝国の大艦隊は、海氷防壁を力技でこじ開ける策に出た。

 しかし、神明に言わせれば、転移を使わないのであれば当然の策であると予測していた。敵が、海氷防壁の中央に回廊を作ろうとしているのを聞き、まったく想定した通りの行動であると、むしろほくそ笑んだ。


「これは狭い海峡を通過するのと変わらないわけだ」


 黒海封鎖やバルト海封鎖作戦の時と同様の手が使えることを意味する。


「それはそれとして、柳本さんの提案どおり、敵の後方をかき回してやろう」


 地中海ゲートから出て、敵大艦隊の後ろについている大輸送船団、およそ1000隻。大西洋に出たなら、おそらく狙いは北米大陸だろうと予想できるが、そのために活用する戦力の他、艦隊の行動を支えるタンカーや物資輸送艦もあるだろう。

 その襲撃について、神明は連合艦隊司令部に打診し、第六艦隊――潜水艦隊の投入を薦めた。


 各潜水艦は、防御障壁を搭載する改装工事のため、実戦を遠ざかっていた艦も少なくないから、復帰戦としてちょうどよいのでは、と考えたのだ。

 連合艦隊もそれには前向きに検討し、第六艦隊を使うと返答があったが、T艦隊に対して、一つの相談が持ち込まれた。

 やってきた草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は言った。


「君たちの艦隊に、転移ゲート機能を持つ輸送艦があっただろう?」

「『新洋丸』と『天風丸』ですか?」


 防空補給艦という、一見すると秋月型のような高角砲を甲板に配置した輸送船に見える船である。

 二隻で一セット。その転移機能は、転移装置を持たない異世界帰還者たちを載せた軽空母を転移させた。


「一応、特設補給艦である『辺戸』と『波戸』にもゲート機能がありますが」

「二隻あればいいと思う。それを使わせてもらいたい」


 草鹿の言う意味を、神明は考える。わざわざ転移中継装置などを使わず、ゲート方式の転移を使おうというのは、そうした転移装備を持たない何かを移動させるつもりなのだろう。

 日本海軍の軍艦ではない。どの艦も、中継装置やブイを用いれば転移が利用できるのだから。

 つまり……そういうことなのか。


「T艦隊で、付き添いがいりそうですね」

「そうしてもらえると、こちらとしても助かる」


 草鹿は頷いた。


「彼らも、実戦慣れをしておきたいと言うのでね」



  ・  ・  ・



 連合艦隊は、転移中継ブイを用いて、第六艦隊を、地中海に派遣した。

 その編成は以下の通り。



●第六艦隊:司令長官、三輪 茂義中将


 ・艦隊旗艦:(大型巡洋艦):『塩見』

 ・軽巡洋艦:『香取』

   第七潜水隊:伊1、伊3、伊4


 ・第二潜水戦隊:伊201、伊202、伊203、伊204、伊205

         伊206、伊207、伊208、伊209、伊210

 ・第四潜水戦隊:伊152、伊153、伊154、伊155

         伊156、伊157、伊158、伊159

 ・第六潜水戦隊:伊161、伊164、伊167、伊170、伊172

         伊173、伊183、伊184、伊185、



 その主力は、海大型と潜高型を主力とする艦隊攻撃型を中心とし、転移中継装置持ちの艦艇がサポートにつく。

 もちろん、目的は敵後方の輸送船団だが、その護衛戦力にも積極的に仕掛けていく布陣である。

 しかし、今回に限れば、攻撃の主役は第六艦隊ではなかった。


 T艦隊に所属する防空補給艦『新洋丸』と『天風丸』が、地中海に転移してくると、その両艦の転移ゲートを通り、とある艦隊がその姿を現したのだった。

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