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第七一七話、バルト海、炎上す


 コペンハーゲン、カストルプ飛行場の上空に突然現れたのは、日本海軍の暴風戦闘機隊。

 それらは、遮蔽装置で姿を隠して、飛行場上空に飛んでいた火山重爆撃機のプロトタイプ――白鯨号の転移中継装置を用いて、飛んできた。


 運河と軍港を攻撃すると思わせるフェイント。第一次攻撃隊は、カストルプ飛行場へ、ロケット弾攻撃を敢行した。


 滑走路としても用いられる広大な牧草地は、直掩のヴォンヴィクス戦闘機が並んでいたが、地面から浮かび上がった瞬間、ロケット弾が連続して降り注ぎ、直後開いた光の壁に激突した。

 5インチロケット弾改――障壁弾弾頭付きロケット弾は、頭上で傘をさすように広がった結果、ヴォンヴィクス戦闘機の発進を阻止したのだ。


 一方、垂直離着陸機能のない鹵獲レシプロ機であるBf109メッサーシュミット戦闘機が、緊急発進の準備にかかる。だが、降下してきた暴風の機銃掃射を受けて、地上撃破させる。

 緊急対応はヴォンヴィクスが担い、それが防空戦闘をしている間に、レシプロ戦闘機隊が上がるという手順だから、先制防衛に失敗した以上、メッサーシュミットが空に上がる時間は稼げなかった。


 1939年に完成した新ターミナルを含め、飛行場は一方的に破壊され、地域のエアカバーを不可能なものにした。

 たとえ、新たなヴォンヴィクス戦闘機が牧草地に降りようとも、燃料補給や整備施設がない。

 この襲撃を受けて、キール運河や軍港防衛に出撃した戦闘機隊は、ターンしてキール湾上空で待機した。


 コペンハーゲン、カストルプ飛行場はキール軍港に比較的近く、日本海軍機の長大な航続距離ならば、もしかしたら逆方向から軍港を目指す可能性があったからだ。

 敵が転移を用いた以上、カストルプ飛行場は陽動で、実はキール軍港を攻撃しようというしているのでは、と軍港司令部は考えたのだ。


 湾内にいたバルト海艦隊にも、出撃と防空戦闘態勢が命令された。敵が来るまで待つことはない。

 迎撃態勢を整えるキール軍港防衛部隊だが、カストルプ飛行場を叩いた敵は転移で姿を消し、以後現れなかった。


 隙を窺っているのでは、と戦闘機隊は、しばし空中警戒を続けた、だが、やがて運河航空隊機から燃料が不足しはじめ、所属飛行場へ戻り始める。

 軍港防空の戦闘機隊も、ぼちぼち燃料が心配になる。軍港司令、アツィル少将は、いつ敵が飛来してもおかしくないとヒヤヒヤしていた。戦闘機を補給に降ろした直後、仕掛けてくるのではないか、と。

 だが、次に日本海軍機が現れたのは、キールではなかった。


「ハンブルクだと!?」

「はっ、敵は日本軍機です。現在、ハンブルク飛行場と港湾施設が空爆を受けています!」


 ハンブルクはドイツ第二の都市であり、キールの南に位置する。キール運河の出入り口は、エルベ川に近く、そのエルベ川の流れの途中にハンブルクがある。


「何故、ハンブルクなのだ……?」


 アツィルは理解に苦しむが、何にせよ警戒していた敵がキール軍港ではなく、ハンブルクだったのは戦闘機隊の補給の好機であった。


「防空戦闘機を降ろし、燃料補給を急がせろ。次はこっちかもしれないからな」

「はっ!」


 キール軍港上空のヴォンヴィクス戦闘機が、キール飛行場やその近辺の駐機場へ降下する。

 着陸位置へと誘導員が誘導棒を振る一方で、滑走路から、控えの戦闘機としてフォッケウルフFw190ヴュルガーが、直掩の穴を埋めるべく出撃しようとしていた。


 だがその間隙を、日本海軍は見逃さなかった。

 降下、着陸するヴォンヴィクス戦闘機に混じり、零戦五三型、九九式艦上爆撃機が現れると、それぞれ急降下を開始した。

 零戦は20ミリ機銃で、ヴォンヴィクスを上方背後から撃ち抜き、九九式艦爆は、すでに着陸した機や、基地施設へ250キロ爆弾やロケット弾を投下した。


 それはキール湾のバルト海艦隊も同様だった。突然現れた九七式艦上攻撃機が、空母『グラーフ・ツェッペリン』に、800キロ誘導爆弾を落とした。

 水平爆撃ではあるが、誘導爆弾はある程度の誤差修正が可能だ。その対艦誘導爆弾は、全長262メートル、幅31.5メートルののっぺりした飛行甲板に吸い込まれ、そして爆発した。


 奇しくも、『グラーフ・ツェッペリン』は、軍港戦闘機隊が補給すると聞いて、上空直掩の増強のために戦闘機を発艦させようとしてタイミングだった。

 直撃した爆弾は2発。それらは甲板を突き破ると上部格納庫で吹き飛んだ。格納庫内の艦載機を炎が飲み込み、また飛行甲板がめくれ上がった。


 そして同様の光景が、軽空母『ヴェーザー』の身にも起きていた。全長は217メートルながら、全幅は32メートルとグラーフ・ツェッペリンに匹敵する1万8000トンのこの空母は、元はアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦として建造されていたものを、空母に転用したものだ。艦戦と艦爆の計20機を搭載する『ヴェーザー』もまた、九七式艦攻の水平爆撃にやられ、火山の噴火にも等しい大爆発を起こした。


 キール軍港司令部の窓より、アツィル少将とアグラー大佐ら幹部は、キール湾のバルト海艦隊が爆撃を受けるさまを目の当たりにした。


「くそっ、何ということだ!」


 戦闘機が補給中の時に、日本軍は襲っていた。わずかに空中にあった戦闘機も、日本海軍の零戦五三型に追い回され、撃ち落とされた。キールの空は、日の丸の航空機に支配されたのだ。


 アツィルらは知るよしもないが、キール軍港の上空には第三航空艦隊の彩雲改二が4機張り付いていて、そこから転移爆撃装置の転移機能を用いて、三航艦の攻撃隊を呼び込み、襲撃を仕掛けたのだった。

 だから機体は、零戦や九九式艦爆、九七式艦攻といった旧式機ばかりであり、そしてまた九六式陸上攻撃機改まで現れると、軍港に爆弾の雨を降らせた。


「おのれ……。日本軍め……!」


 ただの奇襲攻撃だったなら、まだマシな数の戦闘機が迎撃することができたはずだった。しかし燃料補給が必要な状態で、即時反撃ができないタイミングの襲撃は、本来参加できるはずの数を出すことができず、より一方的な状況へ追い込まれたのだった。


 わずかな高射砲や対空銃座が反撃するが、焼け石に水であった。キール軍港は爆撃により半壊し、湾のバルト海艦隊もまた空母、巡洋艦が軒並み被弾し、大破炎上。その戦闘力は期待できない状態となった。

 日本軍は引き上げる際に、キール運河にスクラップの山を複数落としていき、その撤去が済むまで、船舶の通行が不可能な状態にしていった。



  ・  ・  ・



 T艦隊司令部で、栗田中将と神明参謀長は、第三航空艦隊が任務を果たしたと報告を受けた。

 すなわち、キール軍港と駐留艦隊の破壊と、運河を通行不能にしたのである。


「三航艦がやってくれたか」


 栗田は腕を組む。神明は口を開いた。


「有馬少将の航空戦隊も、カストルプ飛行場とハンブルクを叩きました。後は封鎖戦隊が、残るバルト海第二艦隊を、妨害するだけです」

「バルト海第二艦隊……編成がソ連だと、ロシアとは違うがバルチック艦隊の方がわかりやすいかもしれないな」

「では、以後は、そう呼称しましょう」


 もっとも、ドイツ艦中心のバルト海艦隊はたった今、壊滅したが。


「キール運河は通行止めだ。そうなると――」

「はい。北海に出るためには、デンマーク、スウェーデンの間のエーレスンド海峡か、フィン島とシェラン島の間の大ベルト海峡。やや可能性は低いですが、フィン島とユトランド半島の小ベルト海峡を通るルートしかありません」


 いずれのルートを通ろうとも、転移中継ブイにより、確実な待ち伏せが可能である。果たして、バルチック艦隊のどれだけの艦が、北海に抜けることができるだろうか。

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