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第七一五話、バ号作戦に向けて


 神明T艦隊参謀長は、連合艦隊司令部に行き、チ号部隊への増援の手配を整えると、柳本少将の指摘である、敵後方補給部隊の襲撃を行うべきであると進言した。

 T艦隊自体は、これから敵バルト海艦隊を対処する作戦があるので、そちらを優先する。故に、地中海の敵大艦隊の補給線への攻撃は、連合艦隊の方でやってもらうつもりだった。


「投入戦力は?」


 連合艦隊参謀長、草鹿 龍之介中将が確認してきたので、神明は第六艦隊に任せては、と告げた。


「水中用の防御障壁装置の搭載は済んでいるはずなので、本番前の勘を戻すのにちょうどよいのでは」


 異世界帝国の潜水艦隊が投入した雷魚対策に、日本海軍の潜水艦にも防御障壁を搭載する工事が順次進められていた。そろそろ第六艦隊も、全力出撃が可能になっている頃合いだろう。


「わかった。こちらからも第六艦隊に話を持っていく。……これからバルト海か?」

「はい」


 神明は首肯した。


「レニングラードの艦隊が動き出しました」


 いよいよバルト海封鎖作戦の発動である。


「例の封鎖艦隊は、間に合いそうか?」

「間に合わせました。……もちろん、正規の配置ではないですが」


 魔技研の技術や、学生(能力者)の力も使って、である。急な作戦ゆえ、人員を集め、しっかりと訓練をする間がほとんどない。


「行き当たりばったり、とまでは言わないが、急場凌ぎじみた作戦がここまで上手くいっているのは、何気に凄いことだと思う」


 草鹿がそんなことを言った。神明はかすかに肩をすくめる。


「急なのは認めます。ですが計画自体は、前々から考えていたものばかりですから、完全にその場の思いつきではありません」

「だから、急な動員でも上手くやれているわけだな。多少無茶はあるが、それをフォローできる範囲に収めているのは大したものだ。……私はどちらかと言えば受け身だから、相手が動いてから考える傾向にある。君は、敵が動く前から、もう考えているんだろうな」

「新兵器や新戦術までは予想は難しいですが、そこに艦隊や基地があって、どういう動きができるかは、ある程度想像できますからね」


 それでは、と神明が敬礼をすれば、草鹿も背筋を伸ばして答礼した。


「健闘を祈る」



  ・  ・  ・



 神明が連合艦隊司令部から、T艦隊司令部に戻り、栗田 健男中将に報告する。


「いよいよ、バ号作戦の開始です」


 バルト海封鎖作戦、通称『バ号作戦』。欧州含めたバルト海の地図を広げ、司令長官を始め、T艦隊各戦隊司令と参謀たちが集まる。


「まず第一段階として、キール運河を封鎖します」


 神明は、ドイツ北部、バルト海に面している都市キールから、シュレスヴィッヒホルシュタイン州を横断する川を指示棒でなぞった。


 パナマ、スエズに並ぶ世界三大運河の一つとされる北海バルト海運河こと、キール運河は、ドイツ海軍にとっての重要拠点であり、北海に出るため、ユトランド半島を回り道せずに通行できる交通の要衝でもあった。


「当然のことながら、異世界帝国は、運河への警戒、警備を強めています。ジブラルタル海峡、スエズ運河、さらに黒海に通じるボスボラス海峡でも我が軍が封鎖したので、キール運河もまた狙われていると」

「つまり――」


 T艦隊航空戦隊司令官の有馬 正文少将が口を開いた。


「これまでの奇襲と比べても、敵の警戒は強力であると?」

「はい。彼らも我々が攻撃してくると考えて、備えています」


 神明が、白城情報参謀に合図すると、偵察機が撮影した航空写真が提示された。


「近傍の基地の他、敵は垂直離着陸機を、運河近くにも駐機させており、どの位置からも防空戦闘機を飛ばす準備を整えています」


 同様に、キール軍港にも、バルト海第一艦隊の他、直掩の他、緊急発進が可能な機が待機している。


「キール湾に転移突入して、艦載機の急展開攻撃を仕掛けても、多数の戦闘機が上がってくるのは避けられない、というわけですね」


 有馬が言えば、神明は頷いた。


「奇襲ではありますが、実質強襲になると見ていいでしょう」


 異世界帝国も、日本海軍航空隊の奇襲攻撃には散々やられている。その対策として、戦闘機の緊急展開について、より研究を進めていた。

 いつまでも一方的にやられているわけではない、というのは、最近の奇襲攻撃に対応して上がってくる敵機の数が増えているのを見ればわかる。


 先の、他の海峡での封鎖活動もあって、日本軍が仕掛けてくるだろう場所の筆頭として、キール近傍の異世界帝国は、より警戒しているだろう。


「がっつり組んでの力戦となる。……戦闘機の比率を上げたほうがよさそうですね」

「消耗は極力避けたいところです。何せ我々が全力を尽くすことになる戦いが、後に控えていますからね」


 バルト海封鎖が本命でなければ、アフリカゲートから出てきた敵大艦隊の迎撃。今のところ米英がこれを迎え撃つになるだろうが、日本にも援軍要請があって、それに答えるとなると、独立遊撃部隊であるT艦隊にお鉢が回ってくる可能性は大いにあった。


「キール運河の通行を不能にするのと同時あるいは直後、我々はキール軍港に攻撃をかけ、バルト海第一艦隊を撃滅します」


 便宜上で付けた名前ではあるが、バルト海第一艦隊の主力は鹵獲ドイツ艦隊である。空母『グラーフ・ツェッペリン』『ヴェーザー』を主力とする巡洋艦中心の戦力だ。


「艦隊を叩き、軍港施設を叩けば、T艦隊主力としての出番は終了です。レニングラードを出たバルト海第二艦隊は、キール軍港を利用できず、ユトランド半島を迂回せざるを得なくなります」


 そうなれば、デンマークとスウェーデンの間の狭い海峡を通過する他なくなる。


「そこを、海防戦艦改装の封鎖艦隊が待ち伏せ、叩く」


 異世界帝国北欧艦隊が改装した海防戦艦群に、さらに手を加えて修復、改装した封鎖艦戦隊。連合艦隊参謀長の草鹿が間に合うのかと確認し、このバ号作戦に間に合えばよいと言っていた神明の用意したそれが、北海へ出ようとするバルト海第二艦隊を襲撃するのである。


 各戦隊司令や参謀たちが、作戦を確認し、より細部を明らかにしていく。聞き役に徹していた栗田が口を開く。


「やはり運河と軍港攻撃が、もっとも反撃を受けやすいだろう。航空隊の被害は極力抑えたい」


 いくらレンドリースで航空機が補充されるとはいえ、大きな戦いが控え、かつそれがアメリカへの攻撃ともなれば楽観はできない。物資の供給源が絶たれるようなことになれば、今ある戦力も大事に使っていかなければならない。


 ただ、この場でそこまで考えていた者は、栗田の他、極少数だった。負けた時のことを考えるのは少々後ろ向き過ぎるのではないか、というものだ。だがこうした危機察知に対して栗田は独自の嗅覚を備えている。決して馬鹿にしたものではない。


「そうなれば、ここは樋端の航空戦術に倣うのがよいでしょう」


 神明は告げた。樋端ターン――敵戦闘機の燃料切れを狙い、戦わずに目標を叩く、その戦法を応用するのだ。

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