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第七一三話、暁星、輝く


 試製暁星が、南から北へ抜けた時、オリクト級戦艦30隻が大小被害を受けて、うち8隻が撃沈破された。

 振り返り、戦果を確認する須賀大尉は口を開いた。


「お見事! 種田少尉」

「ど、どうも!」


 遮蔽で姿を隠して、ゆったりと、真っ直ぐ飛行した暁星攻撃機だったが、誘導弾を敵艦に転移させる担当だった種田少尉にとっては、目まぐるしく忙しい一航過だった。

 操縦担当の須賀は、ただ真っ直ぐ飛ばすだけでよかったから、周囲の警戒と敵の配置を眺める余裕があった。


 最初こそ、種田は次から次に標的を当てなければと焦っていたようだが、終盤となると狙いをつける場所に合わせる呼吸のようなものを体得したようで、最後の6隻は、ピンポイントで敵戦艦の弾薬庫に転移弾を送り込み、撃沈に追いやっていた。

 5万トン級の異世界帝国主力戦艦が、一列に並び煙を噴いている様は、滅多に見られるものではない。


「一回通り抜けただけで、戦艦30隻か。凄いな、暁星(こいつ)は!」

「今の一撃で、だいたいの軽空母が搭載する魚雷兵装のほとんど使い切りましたよ……」


 種田は苦笑していた。

 空母といえば、艦載機の搭載数が攻撃力に直結していると見られがちだが、実際のところ攻撃に用いる武器、弾薬の存在を忘れてはならない。

 いかに機体が多かろうとも、空母が運ぶ爆弾や魚雷、誘導弾がなければ敵を攻撃できず、また航空機用の燃料も、空母が載せている分がなくなれば、どれだけ艦載機が残っていようとも飛ばすことができなくなる。


 転移爆撃装置やら、収納庫があろうとも、母艦が積んできた爆弾などがなくなれば、攻撃不能になるのである。


「対艦誘導弾は、魚雷並に場所をとるからな」


 その空母の任務によって、爆弾や誘導弾の搭載は変化する。

 たとえば防空戦闘機中心だった「瑞鳳」や「祥鳳」は、攻撃機を積まなかったから魚雷・対艦誘導弾はなく、代わりに戦闘機でも搭載できる小型爆弾やロケット弾を積んでいた。


 通商破壊を行う哨戒空母は、艦載機が15機程度だが、対艦誘導弾もしくは魚雷を40本ほど搭載し、基地や対地攻撃はほぼないだろうから、爆弾などは通常の半分程度となっていた。


 さて、今回の試製暁星の場合、母艦となる哨戒空母『渡島』では、搭載するのは暁星2機と彩雲改二が2機の計4機であり、一方で格納庫内に予備の対艦誘導弾を大量に載せてきた。

 暁星は単機でも、攻撃機会が多くとれるので、2機にも関わらず、用意された弾は遥かに多かった。


 そして、たった一度の攻撃で、試製暁星は、30発の転移誘導弾を消費したのだった。


「本当は空母を攻撃する予定だったのに……」


 種田は首をかしげる。


「いいんですか? 戦艦に転移弾30発も使っちゃって」

「通せんぼしておけば、空母がいくら残っていても、大西洋には出られないから」


 須賀はしれっと言った。


「あの海氷防壁を残しておく方が、俺たちの任務である『嫌がらせ』の効果があると思ったから、まず戦艦から狙ったのさ」


 事前のブリーフィングで、海氷防壁が『使い捨て』の防御障壁を搭載していると聞いていた。1回しか障壁を発動しないエネルギータンク式の障壁発生装置は、須賀たちが駆けつけた時に発動したのを確認している。


 敵はそれを知らないだろうが、熱線砲を使った戦艦が無防備になったところを攻撃すれば、敵もおいそれと熱線砲を使いにくくなるのでは、と須賀は考えた。


 熱線砲を使えば、透明攻撃機が、防御のない戦艦を狙って攻撃してくる――敵がそう思ってくれれば、熱線砲の使用を躊躇い、艦砲射撃や航空攻撃に切り替えて、弾薬を大量に消費してくれるのではないか。


「大丈夫、次は空母を狙う」

「了解。母艦が、誘導弾を大量に持ち込んでくれていて助かりましたね」

「まったくな」


 その分、試製暁星単独で、敵艦隊にアタックを続けなくてはいけないわけだが。


「おっと……!」

「敵艦隊が――!」


 氷壁の前で立ち往生をしている異世界帝国艦隊が、激しい対空砲火を撃ち上げ始めたのだ。

 高角砲の煙、機銃の弾幕、光弾砲による弾が虚空へと上がる。


「バレたんですか!?」

「いや、適当にバラまいているだけだ」


 距離をとれば、全然当たるものではなかった。


「敵さんは、こちらが遮蔽攻撃機だと推理して、弾を撃ちまくっているのさ。当たれば幸い……まあ、狙っても当てるのが難しいのに、標的も定めず撃っても当たらないよな」


 見当違いの方向に飛んでいく機関砲弾や光弾だが、もう少し近くにいたら、かすめていたりしたかもしれない。適当な弾幕も、不運にも巻き込まれることはある。


「対空機銃の無駄撃ちは誘えたな」


 その間に、狙うべき空母への攻撃ルートの選定と、護衛艦艇の位置を確認する。直掩の戦闘機が弾幕の外にいるので、その近くに潜んでもいいかもしれない。



  ・  ・  ・



 第二戦闘軍団司令長官、ピリア・ポイニークン大将にとって、この日は大変腹立たしい一日だった。


 遮蔽装置付きの敵機が、艦隊上空につきまとい、忘れた頃に攻撃を仕掛けてきた。

 ムンドゥス帝国にもシュピーラトと呼ばれる遮蔽装置付き航空機はある。だが、帝国では小型機への遮蔽搭載機は、製造が不可能ではないが難しく、またそれを扱える素養のあるパイロットが少ないため、大量生産はされていない。

 また、その見えない機を発見する方法は、確立されていなかった。


 そんなムンドゥス帝国をあざ笑うように、この見えない敵機は、第二戦闘軍団の上を飛び回り、空母や大型艦艇を攻撃してきた。

 戦闘機を飛ばそうが、牽制の対空弾幕を展開しようが、全て空振りに終わった。さらに防御シールドを張ったリトス級大型空母も、一撃で大破。中型以下は轟沈もありうるほど強力な攻撃を受けた。


「あの見えない敵機を撃ち落とす方法はないのか!」


 ポイニークンはヒステリックに叫んだ。対抗策がないのでは仕方がない、とは参謀たちも言えない。仕方ないで諦められるなら、こうはなっていない。


「……もう敵は離脱した可能性も――」

「そう言って、さっきは戻ってきたではないか!」


 しばし攻撃がなかったから、敵は補給に戻ったのではないか――そう思っていたら、リトス級大型空母がまた1隻、艦尾を吹っ飛ばされて航行不能になっていた。


 忌々しい理由はまだある。損傷した艦艇の修理や補給に用いるはずの軍港、セウタとジブラルタル港が、日本軍の空襲により復旧作業中でほぼ使用不可能。少し遠いトゥーロンもまたやられたので、第二戦闘軍団は無駄な消費を抑えつつも、損傷艦の後退に近隣拠点が使えなかった。


「これも見越して、ジブラルタル周りの軍港も叩いたのか、敵は……!」


 ポイニークンは唸ることしかできなかった。

 そして再び、見えない敵機――暁星艦上攻撃機が、第二戦闘軍団に牙を剥くのであった。

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