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第七一一話、哨戒空母『渡島』


 松島型哨戒空母は、龍飛型哨戒空母の改良型である。

 異世界帝国の軽空母グラウクス級を改装したもので、松島型、龍飛型も同じ艦をベースにしている。


 ただ、試験艦でもある『翔竜』や潜水空母である『鳳翔』で採用された転移格納庫と転移甲板およびエレベーターなど、艦載機の取り回し、運用面で最新のものが採用されており、スペック表に現れないところで改良が施されていた。


 龍飛型は潜水機能を有していたが、松島型は、潜水機能に加えて遮蔽機能も採用しており、敵地侵攻からの偵察活動、通商破壊において、敵を回避するオプションの選択肢が増えていた。


 そんな松島型の一隻『渡島』は、試製『暁星』艦上攻撃機の専用母艦として、指定された。

 機体と共に、専用空母に乗った須賀は、実戦を前に暁星の実機を飛ばして、少しでも勘を掴もうとした。

 なお、1回しか機会は与えられなかった。


「で、どうだった、新型は?」


 暁星の開発者でも坂上 吾郎博士は、須賀に尋ねた。


「機械が故障しない限りは、墜落しないというのは凄いですね」

「――もう少しうれしそうな顔をしてもいいんじゃないかね?」

「……」


 須賀は不満顔である。

 垂直離着陸機能を持つ暁星である。さらに超低速飛行、空中静止機能も持ち合わせているのだが、こと低空で安全装置が働くようにシステムが組み込まれていた。

 いわゆる無人コアが機体に搭載されているのだが、これが超低空になると、機体の墜落と判断し、マ式の垂直離着陸装置を作動させて、それ以上の高度低下を防ぐ。

 この時の挙動が、操縦するパイロットにとってはとても心臓に悪い。


「いきなり機体が乗っ取られたかと思いました」


 操縦桿が手の中で勝手に動くのは、驚きもする。超低速や浮遊飛行という、これまでやったことのない飛行を練習していたのに、ちょくちょく邪魔が入って訓練どころではなかった。


「調整はしてもいいが、今回は諦めてくれ」


 坂上はきっぱり告げた。時間がないというのが本音である。


「そもそも、安全装置が働くような高度で戦わなければいいだけのことだ」

「簡単に言ってくれますね」


 ただ、博士の言うことも一理あるのは認める。初めての機体特性だからといって、結構攻めた乗り方をした須賀にも問題はあった。

 だが、実戦まで1回しか乗れないと言われれば、細かな行程はすっ飛ばして、自分の中の感覚を機体に飲み込ませる必要があった。


 そもそも、今回の相棒である種田少尉曰く、基本的な飛行や機動は、テストパイロットが試験を重ねて、安全性は確保されている……らしい。少なくとも現在、致命的なトラブルや故障は起きていない。


 そのテストパイロットに、実戦をやらせては駄目なのかと聞いたら、実戦経験ゼロだという答え。そんな戦場素人に、敵大艦隊への単機襲撃を任せられますか、と真顔で言われてしまった。


「安全装置は保険だ。そう思って、今回はやってくれ」

「こいつが攻撃機だってことを、つい忘れそうになるんですよね。俺は戦闘機乗りですから」


 超低空の安全装置も、機体墜落を阻止するストッパーだと素直に受け止めよう。


「大体のところは掴めました。着陸の感覚はもう何回かやりたいところですが、安全装置がやってくれちゃいますからね」


 須賀は皮肉ると、暁星を見上げる。烈風や陣風と比べても、単発機ながら大きい。


「やれそうかね?」

「やります」


 断言する須賀だった。哨戒空母『渡島』は、大西洋へと転移する。



  ・  ・  ・



 T艦隊司令部では、神明参謀長が、参謀たちと各作戦の進捗を確認していた。


「――アマゾン川の敵艦隊の移動は、停滞しています」


 白城情報参謀は言った。


「待ち伏せを警戒し、カッターやボートを使って水兵が安全確保している有様です。撃沈した艦が障害物となっていたりと、当面、ここから艦隊が出てくることはないかと」

「少数の妨害部隊だけで、足止めはできそうだな」


 神明は頷いた。藤島航空参謀が頷く。


「動きが止まっているなら、ここらで航空隊で一挙に叩きたいところですな」

「防御障壁を張っているだろう」


 田之上首席参謀が口元を歪めた。


「弾薬だって、制限できるところはしていかないと、在庫なんてすぐになくなってしまうぞ」

「確かに」


 日本海軍の弾薬不足は、全軍に影響したから、ある種のトラウマとなっている。神明はポツリと言う。


「警戒すべきは、ゲートに戻る。あるいは転移艦がきて、大西洋へ移動させることだ。引き続き、監視は必要だ」

「はい」


 参謀たちは頷いた。


「黒海の方は、敵艦隊はオデッサに撤退。こちらも再編しないと、動けないほどの痛手を被っています。『富士』を動かしても問題ないかと」

「……ここも少数の妨害部隊で事足りそうだな」


 神明は腕を組んだ。白城は続ける。


「地中海は、スエズが完全封鎖。敵大艦隊はジブラルタル方面へ移動し、間もなく海氷防壁に到着する頃合いです」


 海氷防壁――仮の名前だが、ジブラルタル海峡を封鎖する異世界氷の塊である。田之上は視線を動かす。


「敵さんは、どう動かしますかね?」

「破壊するか、あるいは転移か」

「地中海の敵艦隊に対して、間もなく、特殊攻撃機『暁星』による攻撃が行われる予定です」

「新型かぁ」


 藤島はニヤリとした。


「敵の透明戦闘機には散々でしたから。こちらもようやくお返しができますな」


 東南アジアや、第二機動艦隊の空母群が、透明戦闘機シュピーラトにやられている。だが日本海軍も、奇襲攻撃隊が異世界帝国艦隊を散々叩きまくっている。

 どちらかといえば日本側がやりまくっているのだが、人間、悪いことの方が記憶に残りやすいのである。


「問題は、バルト海か」


 地図を切り替える。地中海よりさらに北。北海の東にあるバルト海。ここに異世界帝国は規模の大きい艦隊を留めているが。


「レニングラードのバルト海第二艦隊の出港が確認されています」


 白城は、航空写真を広げた。


「さらにドイツ駐留のバルト海第一艦隊も、出撃の準備を整えています。いよいよ――」

「バ号作戦の発動か」


 田之上、藤島ら参謀が、神明へと視線を向けた。

 バルト海封鎖作戦の時、迫る――

・松島型哨戒空母:「松島」

基準排水量:1万2600トン

全長:198メートル

全幅:32メートル

出力:10万馬力

速力:29ノット

兵装:8センチ光弾砲×5 20ミリ機銃×12 対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:カタパルト×2 艦載機17機(最大32機)

姉妹艦:「三浦」「知多」「丹後」「志摩」「伊豆」「国東」「渡島」

その他:改龍飛型哨戒空母。グラウクス級軽空母の改装だが、魔法装甲甲板で装甲を強化しつつ、転移格納庫、転移エレベーターで艦載機運用面が向上している。

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