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第七一〇話、暁星


「また、試作機ですか……」


 須賀 義二郎大尉は、露骨に嫌そうな顔をした。

 武本重工業、第三航空工場に召喚された須賀に、坂上 吾郎博士は心外だという顔をする。


「パイロットというのは、新しい機体と聞いたらワクワクするものではないのか?」

「……搭乗員にも、色々いますから」


 ちら、と、須賀は坂上の傍らに立つ神明少将を一瞥する。まるで諸悪の根源とでも言わんばかりだが、この手の須賀に対する呼び出しは、大抵この男が絡んでいるので、まんざら的外れというわけではない。

 その試作機のテストパイロットはどうしたのか。ぶっつけ本番の初心者を連れて来るより遥かに有効だろうに――何かあったから、呼ばれたのだろう、と須賀は諦める。


 改めて機体を眺める。

 レシプロ機ではない。プロペラがないマ式エンジンの戦闘機のように見える。

 しかし最近一部の機で採用されているマ式ジェットではなく、音が小さく、燃費のいい従来のマ式のようだった。


 ――単座、ではなく複座か。


 底面には爆弾倉があり、その大きさから対艦誘導弾にも対応しているのだろう。戦闘攻撃機といった雰囲気だ。


「で、今回はコレで何をするんですか?」

「パイロットは話が早くて助かるよ」


 坂上はそう皮肉ると、機体に向き直った。


「試作艦上攻撃機、暁星(ぎょうせい)。……明け方の空に残る星。いや、名前についてはこちらが勝手につけたもので、正規の命名ではないが」

「なるほど。攻撃機なら、星ではなく、山がつく命名ですからね」

「流星艦攻の後だから……まあそれはいいか。こいつは次世代の新型だ。これまで雑多に散らばった技術を一つに統合した機と言うか――」


 どこかもったいぶった言い方の坂上に対し、神明は須賀を見た。


「異世界帝国の幽霊戦闘機があるだろう? あれのコンセプトを強化した機体だ。そしてお前にはそれをやってもらう」

「あー……」


 敵の幽霊戦闘機――シュピーラト偵察戦闘機は、遮蔽に隠れて、上空警戒や襲撃を行う。機体特性から、偵察にも活用されていると日本軍では推測されている機である。

 その対艦能力はさほど高いとは言えないが、一度、第二機動艦隊が艦載機の発進直前を狙われ、大きな打撃を受けた。


 端的に解説した神明に、坂上は眉をひそめたが、須賀としては理解しやすく助かった。


「あっちは戦闘機。こっちは攻撃機ということは、対艦性能に重点を置いた機体ということですか?」

「そうだ。基本は単機乃至、少数機での運用が基本となる。基本は遮蔽に隠れたまま運用する。……そこは敵の幽霊戦闘機と同じだな」

「その上で、攻撃機ということは……」


 須賀は考えて、そこでふと、マ式エンジンを搭載した遮蔽艦上爆撃機があるのを思い出した。


「彗星でも同じことができると思うのですが、敢えて別機体にした意図は何です?」


 稲妻師団が採用した単発爆撃機である彗星は、遮蔽装置あり、マ式収納庫ありと、奇襲攻撃に打ってつけの機体である。

 対艦を重視した新型を作らずとも、彗星を使えばいいのではないか?


「暁星は、垂直離着陸機能を持っている、そう言ったら?」

「!」


 虚空輸送機は、マ式エンジンによる垂直離着陸機能を持ち、特殊部隊員を滑走路のない場所でも乗り降りさせることができる特殊機である。

 しかし、日本海軍機で、他に垂直離着陸機能を持った機種は存在していなかった。当然、現状では彗星には不可能だ。


「もしかして、帝都を襲った円盤兵器の技術ですか?」

「いや、あれはまだ小型機に載せられるような代物ではない」


 神明は首を横に振る。


「敵の空母用戦闘機の新型は、この垂直離着陸型が主流になっているのだがな。こちらももっと早くやっておくべきだった」


 参考にしたのはむしろそっちだ、と神明は語った。


「注目すべきは空中静止能力の方、というべきかな。普通なら失速する速度ですら墜落しなくなった機体が、遮蔽で姿を隠し、敵の隙をついて攻撃する。しかもその機体は、転移爆撃装置を搭載し、予備を用意しておけば、実質それを全て使い切るまで攻撃できる」

「……!」

「ハワイ沖海戦で、異世界帝国の遮蔽戦艦『アルパガス』が単艦で、我が戦艦群を翻弄してみせた。あれと同じことが、この暁星1機でできてしまうわけだ」


 大型戦艦でやったことが、攻撃機単独でできてしまう。その破壊力たるや凄まじい。


「速度も変幻自在であるなら、攻撃しやすい位置にポジショニングもより自由にできる。その点は、同じ遮蔽機能を持つ彗星や彩雲、流星改二などより優れている」


 航空機は低速でも飛べるが、一定速度以上は常に出さねば墜落してしまう。故に、敵への攻撃アプローチの際も、攻撃可能な時間というものがある。その時間以内に攻撃できなければ、離脱ないし旋回して、再び攻撃可能な位置への機動を強いられる。


 だが、失速しない、垂直離着陸機能を応用した空中制止を使うならば、敵を追い越すことなく、攻撃し続けることができる。

 弾については転移爆撃装置で攻撃回数は、用意された弾が尽きるまで可能。遮蔽装置で敵からは見えないため、空中で止まっているところを狙われることもない。


 ――これ、本当にやりようによっては、単機で艦隊一つ、潰せるんじゃないか……?


 須賀は考え込む。それは限りなくワクワクすることではあった。本来は戦闘機乗りだが、一式水上戦闘機に始まり、烈風改などでも爆撃や誘導弾攻撃などで、攻撃機乗りと同じ任務もこなしてきたから余計にそれがわかるのである。


 まだ試作機ということだが、これがもし成功作となり、量産されることになれば、確かに新世代の攻撃機となるだろう。戦いのあり方を変えてしまう可能性を秘めている。

 複座機である以上、操縦担当と索敵や誘導弾の誘導担当が乗ることになるだろう。相棒である正木 妙子は別任務に借り出されたしまったので、今の須賀は一人だ。


「やることはわかりました」


 この暁星攻撃機で、どこぞの敵を叩いてこいということだろう。


「それで、戦場はどこです? あと、俺と一緒に飛ぶ相棒は誰になりますか?」



  ・  ・  ・



「種田 沙智子少尉です。よろしくお願いします、須賀大尉」


 暁星攻撃機を与えられた須賀は、今回の任務で一緒に飛ぶことになる相棒を紹介された。


 九頭島海軍魔法学校卒の女性で、相棒である正木 妙子の一期上の先輩であるらしい。聞けば、開戦時から艦上攻撃機の搭乗員であり、T艦隊の航空参謀を務める藤島中佐の相棒だった頃もあったらしい。ベテランである。


「暁星は、わたしも開発にかかわっているので、何か質問があればいつでもどうぞ」

「それは頼もしい」


 何せ、いきなりマニュアルだけ渡されて飛ばせ、というのが割とある須賀である。ふと気になったことをすぐに確認できるのは、実にありがたい。

 そのマニュアルを早速読むのだが……。


「これは攻撃機と聞いていたんだが、普通に空中戦ができそうだな」


 機首に30ミリ光弾機銃を四門を備えていて、プロペラがない機体ゆえ、その命中精度が高く、戦闘機だけでなく重爆相手にも通用するだろう。……むしろ後者向けかもしれない。


「運動性は、零戦や烈風には及ばないですけどね。格闘戦はあまりお勧めしません」


 種田は苦笑する。須賀も小さく首を縦に振った。


「攻撃機だもんな、こいつは」

「武器を積んだ専用母艦に乗って、いざ地中海へ、です」


 快活な士官である。行き先がチ号作戦遂行中の地中海なのはいいとして、専用母艦と言ったか? どういうことだ、と須賀は首を捻るのであった。

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