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第七〇四話、マ号作戦、発動


 南米大陸、広大なるアマゾン川を進むムンドゥス帝国艦隊。地球征服軍が求めた増援軍――第三戦闘軍団である。


 マナウスに隣接する円形都市のゲートから、こちらの世界にきた艦艇は、一路大西洋を目指し、さままな色合いの川を、低速、あるいは巡航速度で航行していた。

 それはさながら蟻の行列だった。幅に余裕のある場所では複縦陣になることもあるが、狭い場所、曲がりくねった地形などでは、一列になって進んだ。


「まったくもって、不便極まりないことよ」


 第三戦闘軍団、司令長官であるコーリスモス大将は、立派に整えた口ひげを伸ばすように押さえた。貴族特有の立ち振る舞いも、少々腹が出ていることで台無しである。


「見よ、この行軍の遅さを! さながら中世に逆戻りした気分だ!」


 まるで徒歩の軍隊だ、とコーリスモスは唸った。


「しかも、ルートによっては夜間航行ができぬと来たものだ」

「はっ、川の流れの早さから、夜間は危険なカ所があるようで、停船せざるを得ないのであります」


 それを無視して強行すれば事故のもと、というのである。だから余計に移動に手間取っていた。


「しかし、この暑さはどうにかならんものか」

「雨が降りましたら――」

「土砂降りも面倒だぞ」

「……」


 異世界からこの世界にきたばかりの者たちは、熱帯雨林の過酷な気象と、移動の遅さに辟易していた。コーリスモスもその一人である。


「実に不便な場所にゲートを作ったものよ。誰だあんな場所にゲートを作ったのは――」

「はあ、あそこがもっとも異世界ゲートを通すのに、エネルギーの消費が少なく経済的な場所でありますから――」

「ふん、航行日数と燃料の消費は、とても経済的とは言えない気がするのは、わしの気のせいか?」

「……」


 参謀たちは閉口する。司令長官に反発してではない。誰もが長官に同意したい気分だったからだ。

 だが、彼らは自分たちを待ち受けている存在に気づいていなかった。



  ・  ・  ・



 それは突然だった。

 光が瞬いた瞬間、単縦陣で進むオリクト級戦艦四隻が、艦側面を撃ち抜かれて爆発した。

 緩やかなカーブを曲がったプラクス級重巡洋艦が、正面から飛来した光弾に貫かれて、スクラップ同然となって漂い、岸辺へと流される。

 川幅のある場所を航行していたら、突然横合いから砲弾を叩き込まれ、それが装甲を容易く貫通してしまう近距離だったこともあり、次々と爆発、沈没する。

 それが至るところで発生した。


「敵襲だと!? どこにっ!?」


 コーリスモスは叫んだ。報告にきた通信参謀は困惑を滲ませながら言った。


「複数カ所での襲撃です! 我々の前も、後ろも――」

「それでは我々が包囲されているようではないか……!」

「実質、包囲されているのでは」


 参謀長がそう言ったので、コーリスモスは不快げに彼を睨んだ。しかしすぐに視線を切り替える。


「それで、敵と交戦中なのだろう? 相手は何だ? 敵は森にでも潜んでおるのか?」

「それが、わかりません」

「わからない、だと?」


 コーリスモスは苛立ちを隠さなかった。


「寝ぼけておるのか!? この真っ昼間に、何から狙われているかわからんと申すか!」

「私が言っているではなく……! どの報告も、敵は見えず、ただ攻撃されたとしか……」

「……遮蔽か!」


 眉をひそめつつ、しかしきっぱりとコーリスモスは告げた。ムンドゥスよりこの世界に派遣された時、彼は地球勢力に関するレポートに目を通している。

 敵、それもニホンともジャパンともいう軍が遮蔽技術を有しているらしい。


「敵が隠れているのなら、攻撃された場所にあたりをつけて、砲弾を撃ち込め! 姿が見えぬだけで、敵はそこにおるのだろうが! 軍団全艦にそう伝えぃ!」

「は、はっ!」


 通信参謀が、旗艦通信室へと駆けていく。それを不満げに見送り、コーリスモスは鼻をならす。


「忌々しい。こんな場所に敵が入り込んでいるなど……現地部隊は何をしているのだ」



  ・  ・  ・



 T艦隊は、アマゾン川流域に転移中継ブイを配置し、それを基点に、川を通過する異世界帝国艦艇を襲撃した。

 地形による見通しの悪さを利用し、複数の敵に見えない位置で待ち伏せ、先頭艦が現れれば、遮蔽からの先制パンチ。

 姿が見えないことを活かし、相手が近づく必中の距離での砲撃は、格上の艦艇の装甲さえ撃ち抜くほどの威力となる。つまり、一撃で装甲を撃ち抜かれ、大破、轟沈する艦艇が少なくなかった。


 また広い川幅では、浅間型航空戦艦や石動型大型巡洋艦、そして武尊型巡洋戦艦『武尊』にとって、絶好の襲撃地点と化した。


「砲術長! 通過中の敵戦艦に照準。4隻、やれるな?」


 艦長の尾形 七三郎大佐からの艦内電話を受け、浅井砲術長は答えた。


『まず前の2隻をやります。続く第二射は、残る2隻をやります!』

「うむ、タイミングはそちらに任せる!」

『はっ!』


 巡洋戦艦『武尊』の46センチ三連光弾連装砲四基のうち、艦首二基、艦尾二基が、それぞれ別の敵戦艦を狙う。直接照準、距離は2000メートルも離れていない。


「第一射、撃てェ!」


 なにもない空間から突然、三連光弾が放たれた。異世界人らにとっては、突然光ったとしかわからなかっただろう。

 次の瞬間、40.6センチ砲対応防御のオリクト級戦艦の装甲を簡単に貫き、艦の重要区画で爆発した。たとえランクが下の35.6センチ砲弾でも貫通しただろう距離だ。暴虐的な一撃は、異世界帝国の主力戦艦をあっという間に葬った。


「目標変更!」


 巡洋戦艦『武尊』の主砲が、高角砲並みの旋回速度をもって照準を変更する。相変わらず気持ちが悪いくらい早いのだが、敵が反撃する前に1秒でも早く攻撃したい今は、尾形艦長も浅野砲術長も、この旋回速度でもじれったく感じた。


「照準よし! 発射!」


 残るオリクト級戦艦に、46センチ光弾を叩き込む。まだ襲撃者の位置が掴めずにいる異世界帝国戦艦は、為す術なくバイタルパートを貫通され炎を噴き上げた。


 T艦隊の攻撃は続く。

 要所の奇襲地点で、通りかかった異世界帝国艦へ一撃を与えると、次の襲撃地点へ移動する。敵後続艦が、見えない襲撃者を討とうと森や川へ砲弾を撃ち込むが、ほぼ無駄弾に終わった。


 異世界帝国側は、空母から垂直離着陸可能な戦闘機を出して、上空から潜伏する艦へ睨みを利かしたが、これも初撃を許した時点で、さっさと転移してしまう日本艦を捕捉することはできなかった。


 かくて、異世界帝国第三戦闘軍団は、アマゾン川脱出に手間取り、大幅にその足並みを衰えさせたのであった。

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