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第七〇三話、作戦発動に向けて


 作戦案は、連合艦隊で通った。

 山本 五十六長官の了承のもと、神明は、作戦案を清書したものを軍令部の永野総長に提出。軍令部第一部、作戦課を通さず、直接元帥に持ち込んだ結果、軍令部総長の了解済みということで、作戦実行にGOサインが出た。


 連合艦隊、軍令部共に、作戦に必要な装備、物資の使用許可。さらに他の計画を一時遅らせても、今回の封鎖作戦のための行動を優先させることを認めさせた。

 かくて神明は、魔技研の他作業の進捗をしばし中断させてでも、必要装備の生産、配備を督促させたのだった。


 作戦の実行部隊には、T艦隊が用いられることになり、その司令長官である栗田中将は連合艦隊からきた作戦計画書を一読し、苦笑いするしかなかった。


「万事、君に任せるよ」


 栗田は、神明の好きにやらせることにした。代わりにこの作戦を仕切れと言われても、無理だとはっきり自覚していたからだ。

 本音を言えば、半信半疑だった。それだけ前代未聞な案もあったからだ。


 ただ、我らが参謀長は、有言実行の鬼で知られているから、彼ができると言えばできるのだろうと、半ば栗田は諦めた。

 この作戦に悲鳴を上げることになったのは、九頭島の魔技研関係施設である。


「回収した海防戦艦は、解析中ではありますが……」


 北欧のトロンハイム・フィヨルドで鹵獲した海防戦艦群。研究員が言えば、神明は例の鉄面皮ではね除ける。


「1隻か2隻、解析用に残せばいい。どうせ共通化されて他のもほとんど変わらないだろう。修理ではなく、改装して再生するから、そのように進めてくれ」

「最近、突貫が多くないですか?」

「敵は待ってくれんのだ。……まあ、作戦の三番目に間に合うようにしてくれればいい。後は自動化と魔核、能力者で間に合わせる」


 バルト海封鎖作戦で使う予定の海防戦艦である。こちらは、敵バルト海艦隊が動き出した時に使えればよいので、まだ少し猶予がある。

 もちろん、魔技研側は、研究員の言うとおり、突貫作業でやれば、であるが。少しの猶予が数日しかないというのは、ありそうな話である。


 神明は、幽霊艦隊の本拠地である亡霊島へ飛んだ。……なお紛らわしいが、ハルゼー提督が率いた義勇軍艦隊の拠点は幽霊島である。しかし組織は幽霊艦隊で同じだ。


 閑話休題。神明は、幽霊艦隊からマ式濃霧散布装置を複数調達した。これは義勇軍艦隊用の一種の煙幕装置であり、遮蔽に頼らない姿隠しの手段として配備されていた。

 必要な物資を回収し、九頭島に戻ると、続いて超戦艦『レマルゴス』を大改装したものの出撃準備をさせる。


 魔核を潰して、無理矢理完成させたそれに、能力者――航空隊から正木妹である妙子を引き抜き、その制御を任せる。戦艦『諏方』の時も、一時期彼女に任せたこともあるから、まったく扱えないということはない。ただ動かすにも、いきなりはさすがに難しいので、短い時間ながら調整運用させた。


 艦名は、レマルゴス改め、『富士』となった。純粋な戦艦とは運用が異なる、海防戦艦という扱いになる云々ということで、海軍省は艦名に旧国名を使わないことにしたのだ。

 天皇陛下に上奏の結果、日本海軍で一番の巨艦となるということで、日本一の山『富士』と決まった。


 なお『富士』の名を持つ艦の先代は、『戦艦』富士であり、その名を継いだといえば、戦艦としてその名が使われてもさほど違和感はない。なお、その先代『富士』は、航海学校保管艦、浮き校舎として健在だったりする。


『富士』の次は、巡洋戦艦『武尊』である。こちらは、航行可能状態で、すでに実戦にも投入されていたが、この短期間で魔核ブーストによる艤装工事を即時終了させ、乗員の訓練もそこそこにT艦隊に配備となった。

 そして準備が進行していく中、神明は参謀たちを集めて、作戦の細部を詰める。


「まずは、アマゾン川妨害作戦からだ」


 すでにここの敵は動いている。アマゾン川の中程より手前ではあるが、マナウスから出てきた異世界帝国艦艇が、川に沿って大西洋へ出ようとしていた。

 田之上首席参謀は言う。


「他の作戦案も見ましたが、ここではアレを使わないんですね?」

「準備はさせているが間に合わない。すでにここの敵は動き出しているからな」


 神明は答えた。藤島航空参謀が唸る。


「それにしても、敵さんは、なんだってこんな不便な場所にゲートなんか置いたんですかねぇ」

「秘密基地、じゃないか?」

「もうバレてますけどね」


 白城情報参謀が苦笑した。


「ただ藤島さんの言うとおり、いくらアマゾン川が幅があるとはいえ、こう曲がりくねっていると、中々距離が稼げませんからね」

「直線で移動できれば早いんだろうなぁ」

「そこから考えても、アマゾン川の艦には転移艦艇や装置はないのだろうな」


 神明の指摘に、田之上は首肯する。


「そのようですね。転移装置なりゲートがあれば、マナウスから出口であるベレン付近まで間をすっ飛ばせるのに。……何でやらないんでしょうか?」

「さあな、何か不都合があるのだろう」


 転移装置を置けない何か理由があるとか。神明は考えてみたが、さっぱり思いつかなかった。


「そこのところは、要塞都市内を調べればわかるかもしれないが、今のところは、川に沿ってほぼ三日かかる行程を進んでいる敵艦隊へ攻撃を集中することにしよう」

「その要塞都市を攻撃したらいけないんですか?」


 藤島が率直に聞いた。


「ゲートがあるんでしょう? 根本を断たないと、どんどん湧いてきますぜ?」

「異世界に通じるゲートは貴重だ。軍令部は破壊に慎重だった」


 作戦案を提出した際に、永野総長は、作戦課とも協議しないといけないと言っている。その結論を待っている時間が惜しいので、マナウスの要塞都市についてはノータッチで作戦を進めることにした神明である。


「こちらとしてはアマゾン川を行く敵は、転移と射撃の演習に利用させてもらう」


 新艦の訓練期間の短さを、実戦で鍛える。かなり無茶なことをやらせようとしているが、基本の動かし方さえ覚えているなら、あとはどうにでもなる程度のことしかさせるつもりはない。

 きちんと実戦経験のある艦も使うのでフォローもできるようになっている。


「基本は、遮蔽と転移を駆使した一撃離脱だ」


 神明は、アマゾン川の航空写真――彩雲改二が撮影し集めたそれをパズルのように合わせたそれを見下ろした。


「支流の入り口や、曲がりくねって視界の悪い場所などで、待ち伏せし襲撃を仕掛ける。川幅が広い場所は、特に複数隻を同時に攻撃できる」

「これ、川で沈めたら、そこで障害物とかになります?」


 一種の浅瀬のように、後続艦の針路妨害や座礁などが狙えたりするのではないか。藤島の確認に、神明は眉をひそめた。


「正確な深さの記録が手元になくてな。呂403が、敵の潜水艦が通ったところを追跡したが、深いところも多く、あまり過剰な期待はできない」

「そうですか」

「だが、やっていたらどこかで、そういう幸運にも敵を足止めできてしまう事態も発生するかもしれない」


 期待はしないが、起きるかもしれない。その答えに藤島はニヤリとした。


「精々、敵さんを翻弄してやろう」

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