第六九九話、義勇軍航空隊、攻撃す
ボランティア・フリートの空母から飛び立ったのは、レンドリースされたF4Uコルセア、F6Fヘルキャット、そして独自生産のJu87シュトゥーカD-2改、日本海軍供与の彩雲偵察機であった。
アメリカが日本やイギリスの海軍向けに出しているだけあって、F4UやF6Fは、比較的入手しやすい機体だ。
義勇軍艦隊を預かるハルゼーは、補佐する参謀たちから機体は極力統一したほうが整備や補給が楽になると力説された。
特にF6Fヘルキャットは、折りたたみ機構に大変優れているので、機体を多く載せられる。さらに戦闘機としてだけでなく、艦上爆撃機としても、魚雷を積んだ艦上雷撃機としても使えるからとプッシュされた。
それを受けたハルゼーも米国製のF6FとF4Uで機体を統一しようと考えたが、これにまったをかけた者がいた。
艦隊に参加するハンス・ルーデル大尉とその仲間たちである。
「我々は、スペシャル・シュトゥーカしか乗らない」
実のところF4Uコルセアに目移りしていてはいたが、単座機であることから、やはりシュトゥーカ・カスタムがいいとゴリ押した。
実際、ルーデル大尉専用シュトゥーカは、マ式エンジンに換装しそこらの戦闘機に匹敵する高速機だった。
艦爆や艦攻を載せず、マルチに使える戦闘機で占める予定だったが、艦載機として改良された機体ならいいだろうと、ハルゼーも了承した。
何だかんだ言っても、ハルゼーはパイロット資格を持っていて、実際に空の男の仲間入りをしているから、パイロットたちの要望には極力答えるのである。
かくて、『エンタープライズⅢ』『サラトガ』から発艦した攻撃隊81機――F4Uコルセア24機、F6Fヘルキャット48機、Ju87シュトゥーカ9機は、軽空母『インディペンデンス』から発艦した彩雲艦上偵察機の誘導を受けて、ギニア湾にある異世界ゲートを目指した。
・ ・ ・
ギニア湾異世界ゲートの周りには、ムンドゥス帝国の警備艦隊が展開していた。
その戦力は、重巡洋艦2、軽巡洋艦5、駆逐艦15、航空輸送艦5で、すべて純正のムンドゥス帝国艦艇である。
防衛艦隊の主力は、ダカールにあるため、ゲート周りの艦隊はさほど多くない。
そんな警備艦隊は、重要ではあるが、退屈な警戒活動を続けていたが、ついにそれがやってきた。
『対空レーダーに反応。ゲートに向けて接近中の航空機群を探知!』
「来たか」
旗艦である重巡洋艦『レイモーン』の艦橋で、警備艦隊司令官のパラーメ少将は、顔をしかめた。
ここ最近、地球側の奇襲部隊が、ムンドゥス帝国の拠点や艦隊に襲撃をかけてきていた。敵は神出鬼没であり、退屈な警備任務にも一種の緊張感を与えていた。
それが、とうとうこのゲートにも現れたのだろう。
「敵は地中海ばかりを狙っていると思っておったが」
「あるいは、地中海は囮だったのかもしれませんな」
先任参謀が言った。
「やたらと地中海を狙っていたのは、このアフリカ海上ゲートを狙ってのことだったかもしれません」
「むぅ、もう一日遅く来ておれば……」
パラーメ少将は歯噛みしたが、敵はこちらの都合などお構いなしだ。
「味方が来るまで保たせるぞ。全艦、戦闘配置!」
警備艦隊は、飛来する敵性航空機に備えて、対空戦闘陣形を構成する。先任参謀が口を開いた。
「スクリキは上げないのですか?」
「敵の姿が見えてからでも遅くはない。敵の狙いがゲートか我が警備艦隊のどちらにせよ、おそらく空母機である以上、低空に降りなくてはならんのだ」
艦隊の航空機は、航空輸送艦に搭載されるスクリキ小型無人戦闘機、計80機がメインだ。
サンタ・イザベルの航空基地からも援護の戦闘機があるが、警備艦隊自体の防空戦力は、さほど余裕はない。
『敵機、直上!』
見張り員の絶叫が、艦橋に響いた。パラーメ少将はドキリとして声の方に振り返る。
「なにっ?」
敵はまだ見えていないはず。それが突然、艦隊の直上に現れるなど――
「遮蔽か! 敵の奇襲攻撃隊!」
その瞬間、爆発音が相次いだ。細かな振動がしたが、旗艦ではない。艦隊のどれかに敵の攻撃が直撃したのだろう。
それはおそらく――
『航空輸送艦が被弾、炎上中!』
やはり、スクリキ母艦が狙われた。警備艦隊の防空戦力を使わせないつもりなのだ。
――くそぅ、さっさと戦闘機を飛ばしておくべきだったのだ!
パラーメは己の判断が裏目に出たことに後悔した。だが後の祭りである。
『敵機は日本機の模様! 急速離脱中!』
翼に赤い丸――日の丸をつけた機体――烈風改戦闘攻撃機は、やることをやったら長居は無用とばかりに退避する。
もちろん、ムンドゥス帝国側は、この襲撃者が日本軍である以外に何者であったかは知らない。
『敵航空機群、接近!』
艦隊に迫りつつあった敵およそ80機が、まだ点のようだが視認できる距離に現れたのだ。
この目に見える航空機群で艦隊側の注意を引き、遮蔽攻撃機を潜ませて襲う。日本軍の奇襲にまんまとしてやられた。
・ ・ ・
ゲート警備艦隊の航空輸送艦を叩いたのは、ホ号潜水空母『鳳翔』の烈風改部隊であった。
須賀大尉、正木 妙子少尉組の誘導を受けた無人烈風改部隊は、遮蔽で姿を隠しつつ接近すると、急降下爆撃もかくやの方法でロケット弾を叩き込んだのだ。
戦闘機の傘を張ることに失敗した異世界帝国警備艦隊に、ハルゼー艦隊からの攻撃隊が殺到した。
ロケット弾装備のF4Uコルセアが先陣を切り、続いてJu87シュトゥーカが対艦誘導弾、F6Fヘルキャット雷撃装備が、魚雷攻撃を仕掛ける。
異世界帝国艦艇は、対空光弾砲や高角砲、機銃で応戦したが、ハルゼーの航空部隊の猛攻に耐えきれず、被弾、大破撃沈が相次いだ。
特にシュトゥーカが搭載した新型の誘導弾は、攻撃力を重視したエネルギー爆弾。その直撃は、重巡洋艦の防御シールドを大幅に削り、艦体に当たりさえすれば、それを真っ二つにできるほどの威力があった。
パラーメ少将の旗艦『レイモーン』も、シュトゥーカの連続攻撃に耐えられず爆発轟沈し、警備艦隊は戦闘可能な艦が一隻も残らない大損害を受けるのであった。
その間にもハルゼー艦隊――義勇軍艦隊と、それを支援する日本海軍の新堂艦隊が、ギニア湾ゲートに接近しつつあった。
異世界へ突入するのに、邪魔者は排除されたのだ。