第六九八話、義勇軍艦隊、出撃す
幽霊艦隊を元に編成された義勇軍艦隊の練成が終わり、いよいよ異世界に乗り込むこととなった。
問題となるのは、どこから異世界に向かうか、である。
ウィリアム・ハルゼーら帰還者たちが使ったインド洋レユニオン島のゲートは、T艦隊によって破壊された。
現在判明している『海上にある』ゲートは、地中海はクレタ島と、アフリカ中部、西海岸にあるスペイン領ギニアのサンタ・イサベルである。
地中海のゲートは、異世界帝国が新たな艦隊を送り出しており、突入するにはまずその強力な防衛艦隊を撃破せねばならない。
一方のアフリカ・ゲートは、その防備が比較的手薄であり、異世界に突入時のためにある程度の戦力を温存しなくてはならない義勇軍艦隊としては狙い目であった。
協力する日本海軍は、支援艦隊を後続させる一方で、T艦隊による陽動作戦を立案した。
義勇軍のゲート確保の支援、その後の援護を目的としたト号作戦と、T艦隊によるカ号作戦である。
8月12日、鉄島を出撃したT艦隊は、カ号作戦を実行。まず転移で地中海に飛ぶと、フランス南東部トゥーロンを奇襲した。
トゥーロンといえば、1942年大戦中に異世界帝国軍の猛攻により、ヴィシー・フランス軍の艦隊が壊滅させられた地となる。ドイツ占領下だったフランス軍は、それもあって満足に動くこともできず、ほぼ一方的に撃滅され、その艦艇は異世界帝国軍に回収された。
それらは大西洋艦隊に組み込まれたが、結果として日本海軍に撃破され、鹵獲されている。T艦隊が使用する浅間型航空戦艦――リシュリュー級などがそれだ。
元々トゥーロンは、フランスにとって大軍港、海軍工廠があり、地中海艦隊の司令部が置かれていた。故に、異世界帝国も同地を拠点として据えて、艦隊を置いていた。
少し前までは、水上機母艦『コマンダン・テスト』の他は、小型艦ばかりだったが、クレタ島ゲートから、現れた援軍が到着した影響で、規模が拡大されている。
赤の艦隊、ルベル・クルーザーとその亜種が30隻ほどが、鹵獲フランス艦艇と共にトゥーロン港にあった。
その日、T艦隊が殴り込みをかけた。
港近くに投下された転移ブイによって、航空戦艦『浅間』『八雲』、そしてカリブ海の戦いで損傷、そして復旧したプチ浅間型のような艦容の、石動型大型巡洋艦『石動』『国見』が一度海中に潜ってトゥーロン港に近づくと、再度浮上し、三連光弾砲で砲撃を開始した。
『浅間』『八雲』の40.6センチ三連光弾は、洋上のルベル・クルーザーをたちまち轟沈せしめ、『石動』『国見』の30.5センチ三連光弾もまた、赤き巡航艦を爆散させた。
石動型――ダンケルク級戦艦2隻は、このトゥーロン港で沈められた艦艇故に、一種の里帰りである。自分たちを一方的に沈めた異世界帝国の艦に激しいお礼参りを浴びせる。
とはいえ、トゥーロン港には、同じく沈められ再利用されている元フランス艦艇もある。扱っているのは日本人ゆえ、ある程度割り切れたが、もしここにフランス海軍の軍人がいたならば、激しくセンチメンタルにさせられたかもしれない。
戦艦群の艦砲射撃と共に、T艦隊航空隊が港に殺到。暴風戦闘爆撃機が、ロケット弾と対地爆弾による爆撃を行い、異世界人が再利用する海軍施設が爆発、吹き飛んだ。
・ ・ ・
異世界帝国の目が、再び地中海、トゥーロンに向けられている頃、アフリカ、ギニア湾に、義勇軍艦隊が、日本海軍の支援艦隊による転移によって現れた。
その戦力は以下の通り。
●義勇軍艦隊:司令長官、ウィリアム・F・ハルゼー中将
・タスクフォース1
戦艦:「サウスダコタ」「ノースダコタ」
空母:「エンタープライズⅢ」
軽空母:「インディペンデンス」「プリンストン」
重巡洋艦:「グッドホープ」「モンマス」
軽巡洋艦:「ガンビア」「ドレスデン」
駆逐艦 :「バックレイ」「パターソン」「ラルフ・タルボット」「ブルー」「ジャービス」
・ダスクフォース2
戦艦:「ワシントン」
空母:「サラトガ」
軽空母:「ベローウッド」「モントレー」
大型巡洋艦:「ユタ」
重巡洋艦:「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」
防空艦:「ニュルンベルク」「ライプツィヒ」
駆逐艦:「モンセン」「ブキャナン」「マッカラ」「ラフィー」「ファーレンホルト」
・ダスクフォース3
防空艦:「ボルチモア」
駆逐艦:「ソーントン」「シカード」「プルイット」「ゼイン」
支援艦:「ヴェスタル」、「ネレウス」
補給艦:リバティ級4隻
幽霊艦隊が、以前より回収していた艦艇に加え、ハワイ周辺で回収していたアメリカ艦艇を中心とした艦隊である。
特にハワイ奪回の時に回収された戦艦、空母、駆逐艦が多い一方、第一次ハワイ沖海戦の結果、本土へ撤退しようとした補助艦艇で、異世界帝国から逃げ切れずに撃沈されていた艦艇の一部も幽霊艦隊が回収していて、それらが今回、義勇軍艦隊に加わっている。
たとえば、大型巡洋艦に類別されている『ユタ』は元戦艦にして標的艦で、工作艦『ヴェスタル』や、防空艦となっている『ボルチモア』は元防護巡洋艦だ。
他にドイツやイギリスの艦艇があるが、軽巡『ガンビア』以外は、第一次世界大戦の頃に沈んだ艦であり、ドイツのシャルンホルスト、グナイゼナウは、第二次世界大戦時の戦艦ではなく、装甲巡洋艦だった同名艦の方である。
「旧式も混じってるが、まあいかにも義勇軍って感じでいいだろう」
旗艦『エンタープライズⅢ』――異世界帝国中型空母から日本海軍回収、そしてアメリカに貸与された経歴を持つ『グレートブリッジ』の艦橋で、ウィリアム・ハルゼー提督は相好を崩した。
「いよいよ、帰ってきた。戦場の海ってやつだ」
再びゲートをくぐれば、ルベル世界、赤い空と海の異世界である。ハルゼーの傍らに、幽霊艦隊出身の参謀長、ロジャー・ミッチェル大佐が立った。
「ここを越えれば、異世界というやつですな」
「まあ、そっちのことはオレたち帰還者に任せておいてくれ。艦隊のことは任せるぜ、ミッチェル」
「アイ・サー。お任せください、提督」
日本の魔技研と共有している兵器や技術、その運用については、ハルゼーら帰還者より通じている幽霊艦隊出身者である。
『日本支援艦隊より入電! 偵察機報告、ゲート近辺に敵防衛艦隊を発見セリ。数は事前報告と変更なし』
「ふふん、では仕掛けるとしよう。――攻撃隊、発艦せよ!」
ハルゼーの号令がかかり、空母『エンタープライズⅢ』、そして『サラトガ』の飛行甲板に待機していた航空機が、次々に飛び立った。