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第六九二話、積極果敢


 第二機動艦隊航空部隊は、四つの航空戦隊16隻の空母から編成されている。

 航空戦隊の総旗艦は、第二航空戦隊の旗艦『大龍』が務める。


『大龍』は、米空母『レキシントン』をマ改造したもので、艦容が似ていることから、中身は異なるにも関わらず、大鳳型、もしくはその改型と日本海軍では分類されている。

 その旗艦の艦橋で、航空戦隊指揮官の山口 多聞中将は、報告を受け取り、淡々と頷いた。


「そうか、思ったより損害が大きかったか」


 事前の偵察で、無人機を搭載する航空輸送艦は確認されていなかった。しかし敵が備えていないはずもなく、二機艦の奇襲攻撃隊にも対応してきた。


「敵さんも、少し見ないうちに対策を立てていたわけだ」

「そうなります」


 岡田 次作参謀長が頷いた。


「戦いは日進月歩ですな。常に模索しながらやっていかねば」

「うむ。さしあたり、およそ300隻の赤の艦隊、その半分にダメージを与え、そのうちの100隻前後を撃沈波した」

「数からすれば大戦果ですが……」

「敵はそれ以上に数が多いからな」


 普通に考えれば、1回の航空攻撃で100隻も戦闘不能な打撃を与えたというのは、恐るべき戦果と言える。

 正直、炎上している艦や水柱を撃沈のそれと誤認し、過大報告になっているのでは、と疑いたくもなるほどだ。


 しかし、実際に攻撃した搭乗員だけでなく、戦場を俯瞰して観測している彩雲偵察機からの報告と重ね合わせて、判定しているから、誤認の可能性は誤差レベルであろう。


「赤の艦隊は、今回、空母型や航空巡洋艦型が確認されたようですが――」


 岡田は事務的に言う。


「どうにも巡洋艦型のバリエーションに収まっているようで、おそらくその耐久性も巡洋艦くらいなのでしょう」

「これが戦艦や大型空母だったりしたなら、もう少し撃沈波は少なくなっていた、か」


 山口は目を伏せた。

 巡洋艦が相手だったなら、1000キロ誘導弾や500キロE爆弾の一発で大破、二発で撃沈も充分考えられる。もちろん当たり所にもよるが。

 損傷を与えつつも、小破で収まっているのは、ロケット弾攻撃によるものか。


「第二次攻撃隊で、トドメを刺したいが……」


 山口は腕を組む。


「気がかりは、紫の艦隊が確認されていないことだ」


 これまで、日本軍に痛打を与えてきた異世界帝国の紫色の艦艇で構成される艦隊。山口がマダガスカル島の異世界軍への奇襲攻撃にこだわった理由の一つである。

 第七艦隊の哨戒空母が、頻繁に同島の偵察活動を行っており、紫の艦隊の所在については目を光らせていたのだが――


「この艦隊は三日前に港を出てから、その行方がわからなくなっている」

「当初は、演習の可能性も考えられましたが……」

「結局、発見できず、またマダガスカル島の別の港に移動したわけでもない」


 山口は唸る。


「俺としては、赤の艦隊をこのまま撃滅したいところであるが、紫の艦隊が潜んでいて、横やりを入れられることが怖い」


 インド洋で第八、第九艦隊がやられた時もそうだった。攻撃中に急に忍び寄って致命的な一撃を打ち込んでくる。

 岡田参謀長は真剣な顔つきで告げる。


「敵は我が方の位置を掴んではおりません。こちらの攻撃隊は遮蔽で進撃し、攻撃終了後は転移で母艦まで戻ってきております。攻撃方向も、退避方向も探られません」


 こちらの攻撃隊を密かに追跡することも、事実上不可能である。


「こちらは索敵機を出し、他の敵も警戒しております。まずは、現在判明している赤の艦隊を叩き潰しましょう」

「そうだな。いないかもしれない敵よりも、まずは目の前の敵だ」


 山口は、待機している第二次攻撃隊に出撃を命じた。

 攻撃隊の数は550機。第一次攻撃隊より増えているのは、護衛の戦闘機であり、攻撃の主力である艦攻の数は変わっていない。

 こちらの追い打ちを警戒して、直掩の数が増えているだろうと予想されたためだ。16隻の空母から飛び立った攻撃隊は、赤の艦隊にトドメを刺すべく突き進む。


 この赤の艦隊300隻の大半を沈められたなら、インド洋で警戒すべきは潜水艦と、紫の艦隊だけになる。

 大西洋での活動の可能性を考えても、西のインド洋の脅威は減らしておくに限るのだ。



  ・  ・  ・



 日本軍の機動部隊による攻撃は、タマタヴ沖の赤の艦隊を痛打した。


「――敵の二回におよぶ攻撃により、巡航艦78、巡洋空母35、航空巡洋艦30が撃沈されました」


 紫星艦隊、フィネーフィカ・スイィ首席参謀は報告した。


「さらに89隻が大破、戦闘不能状態にあります」

「うむ。……これは壊滅的な損害ではある」


 ヴォルク・テシス大将は自身の席にゆったり腰掛けながら、散歩の話題のような軽さで言った。ジョグ・ネオン参謀長は、自身のひげを指先で撫でた。


「まあ、艦隊の一つが、ではありますが」


 四つあるうちの一つ。それがやられただけである。


「まだ、こちらには900隻のルベル艦があります」

「そうだ。日本軍はマダガスカル島にいる我が軍を先制攻撃で潰そうとした。彼らは今頃、その思惑が果たされたと思っているか……」


 テシスは自身の顎に手を当て、考える。


「いや……彼らは、さらにマダガスカル島の燃料施設や港をもう一撃してくるかもしれないな」

「そうでしょうか?」


 ネオン参謀長は首をかしげる。


「まことに小癪なれど、我が方は敵機動部隊を発見できておりません。もちろん、彼らも我らの位置を掴んではおりませんし、他のルベル艦隊も遮蔽スポットに隠れております。敵とすれば、確認されていたルベル艦隊300隻を壊滅させたのですから、気づかれないうちにそのまま離脱するのが、もっとも合理的ではないでしょうか?」


 奇襲攻撃隊を活かす機動部隊。その行動は隠密性がもっとも重視されるものであり、相手側に気配を探らせないまま消えるのが、利点を最大限に活用できるのである。


「スイィ首席参謀。君は、敵の戦力をどれほどと見るか?」


 テシスの言葉に、首席参謀は手元のレポートに目を落とした。


「二回の攻撃で、おおよそ950機の敵機を確認されています。敵正規空母の標準搭載数から、大体13隻。これに艦隊直掩の戦闘機も残しているでしょうから、敵空母は15隻前後と推定されます」

「日本軍の主力機動艦隊規模、ということか」


 テシスはうっすらと笑みを浮かべた。


「どうやら日本海軍も、戦力の回復が済み、本格的に動き出せるようになったとみるべきだろうな、――参謀長」

「はっ」

「日本軍の第三次攻撃の可能性あり。マダガスカル島各飛行場、港湾施設に警戒を促せ。それと……遮蔽スポットから、ルベル艦隊を出せ」

「よろしいのですか……?」


 怪訝な顔をするネオンに、テシスは獰猛な獣もかくやの笑みを浮かべた。


「どの道、失った300隻艦隊の代わりに、日本軍の目を引きつける役として披露する予定だったのだ。それが少し早くなっただけだよ」


 日本人には、今しばらく、マダガスカル島が脅威であると認識してもらわねば困るのだ。

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