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第六九一話、タマタブ洋上の空襲


 マダガスカル島の東部タマタヴ。

 世界第四位の巨大な島にあって、最大の港がある。


 この港からインド洋には、無数の星形の浮き桟橋型があり、異世界帝国――その中の真紅の艦隊ことルベル艦が停泊していた。


 さながら観光客で賑わう砂浜のように、多数の艦艇が星形桟橋にある姿は、ごっちゃりした印象を与える。

 その上空を警戒するは、球体胴体に、斜め後ろに向けて四本のフィン型の翼を持つルベル・ファイター『イグニス』である。


 日常の中にあったタマタヴの空。しかし、そこに日本海軍航空隊が殺到した。

 第二機動艦隊から飛び立った攻撃隊は、透明の衣を解いて、海上の星形桟橋と赤い艦隊に向けて突撃を開始。

 この時、攻撃隊指揮官機から、『奇襲攻撃成功』を意味するトラトラトラが発信された。警戒の数機を除いて敵航空機の姿はなく、まさに奇襲の好機である。


「もらったぞ!」


 二機艦、第一次攻撃隊指揮官である駒形 静夫中佐は、流星改二のコクピットで思わず声を張り上げた。

 無人コアの操縦する機体が増えたとはいえ、再編期間中は、搭乗員たちにとっては猛訓練を重ねてきた。


 何せ、二航艦航空隊のトップは、開戦前より、その苛烈な訓練で名を馳せた人殺し多聞丸こと、山口 多聞中将なのだ。奇襲攻撃隊を問題なく運用するあたり、その練度を高めた搭乗員たちには、久方ぶりの実戦に戦意が高ぶっていた。


 紫電改二が、わずかな敵戦闘機にかかっていく中、流星改二は腹に抱えた武器、1000キロ誘導弾、もしくは500キロE爆弾を投下すべく、敵艦に機首を向けた。


 敵は、ルベル・クルーザーと呼ばれる巡洋艦型が多かったが、クルーザーサイズの小型空母も相当数があるようだった。


 狙うなら空母だ――日本機搭乗員らが素早く目標を選定した時、それは起こった。

 海上のルベル・クルーザー――その中で胴体中央から艦尾までのっぺりした印章を与える艦から、複数の小爆発が発生した。


 垂直発射型の誘導弾かと思ったのもつかの間、爆発はロケットにより緊急射出された球体戦闘機――イグニスだった。


 ルベル・クルーザーの航空巡洋艦仕様。その艦体に緊急射出による迎撃機システムが搭載されているそれは、1隻につき最大8機の無人機を打ち出す。

 無人戦闘機スクリキと同様の短距離直援機が、イグニスという真紅の戦闘機である。


 奇襲成功とは何だったのか。

 あっという間に、双方の航空機が入り乱れた。球体本体に仕込まれた四門の12.7ミリ機関銃の射撃は、艦艇を狙おうとした流星改二に襲いかかった。


 突入時の味方機と離脱コースが重なって衝突するのを避けるため、遮蔽は解除している。つまり敵にも見えているということで、艦隊の奥の方へと向かいつつあった艦攻隊が、イグニスの餌食となった。


「くそっ、奇襲は完璧だったはずだ!」


 駒形は、曳光弾と共に周りをすり抜けていく敵機、そして運悪く撃墜される列機を見て声を荒らげる。

 こうも早く迎撃機が出てくるなど思わなかった。


 敵機は、空母や無人戦闘機を射出する航空輸送艦、そしてマダガスカル島の飛行場から出てくるものと思っていた。

 ルベル艦隊には、航空輸送艦は見えなかったから、敵機はほぼいないと思い込んでしまった。


 まさしく油断だった。というより、ルベル・クルーザーの中に航空輸送艦型が混ざっているなどという情報はこれまでなかった。


「中佐!」

「さっさと荷物を落とすぞ! 適当なやつを狙う!」


 ここまで機体が入り乱れては、遮蔽機の利点などほぼ活用しようがない。一刻も早く、攻撃を終えて退避しないと、敵戦闘機にやられる。

 誘導弾を搭載する機は、泊地の奥の方の艦を狙うことになっていた。これは射程の短い爆弾搭載機が、手前の艦を狙うという役割分担のためだ。

 しかし、こうも戦闘機が乱舞していれば、奥も手前も関係ない。


「当たれよ!」


 正面に捉えたルベル・クルーザーに、1000キロ誘導弾を投下する。誘導装置をその目標に向ける。

 このまま敵艦へ導いて当ててからではないと転移退避はできない。転移してしまっては、誘導制御ができなくなるからだ。

 少なくとも、命中したか確認しなくては、戦果報告もできない。攻撃隊指揮官として、駒形は歯を食いしばる。


 その数秒が嫌に長く感じる。敵機が通過する音、銃弾が通り抜けるドップラー音が、誉発動機の音の中から突然現れては消えていく。


 誘導している間、駒形は周囲を確認できない。敵機が真上や真後ろにいて、いままさに狙っているとしても、振り返ることが許されない状況だ。一度誘導を開始したら、当たるまで目標を注視し続けるのが、彼の役割だった。

 が――


「くそっ――!」


 誘導装置の前を敵機がよぎった。照準器いっぱいにイグニスが覆い、次の瞬間、駒形中佐の流星改二が、敵機と衝突し機首から潰れた。



 ・ ・ ・



 乱戦だった。

 ルベル艦隊は、まるで日本機の奇襲攻撃を読んでいたように、艦載機を展開した。

 だがそれはある意味正しく、ある意味間違っている。


 ムンドゥス帝国側は、奇襲攻撃隊が遮蔽から姿を現した瞬間、つまり対空レーダーが、上空に一定数を突然捕捉した際、無人機が上空へ自動射出されるシステムを構築した。


 これは、紫星艦隊のヴォルク・テシス大将が幕僚たちと、日本軍の奇襲攻撃隊に対する迎撃案を考案し、それを実行したものであった。


 これまで散々日本軍の航空奇襲にやられてきたムンドゥス帝国である。テシス大将は、これを防ぐ手立てを発明しない限り、帝国は日本軍にやられ続けると考えていた。


 その結果は、このタマタヴ沖上空で一定の成果を見せた。イグニス戦闘機隊は、これまでほとんど手が出せなかった日本の奇襲攻撃機、特にその攻撃の直前に攻撃を仕掛けることに成功したのだ。


 スクリキ無人小型戦闘機が攻撃直後の日本機と接触、あるいは交戦はあったが、どうしても日本に第一撃を許した後だから、これは一歩前進と言えた。


 だが、日本海軍の奇襲攻撃隊全体を止めるまでには至らなかった。これまでより多く、攻撃を断念、あるいは撃墜して、被害を抑えた。

 しかし、多数の流星改二は、ルベル・クルーザーとルベル・キャリアーに、誘導弾やE爆弾を叩きつけ、大破、撃沈へと誘った。


 さらに離脱際に、流星は主翼のロケット弾を撃ち込んで、さらなる被害拡大に務めた。やることをやった攻撃機は転移で離脱し、イグニス戦闘機の追撃を許さない。


 途中からは紫電改二が制空隊として、無人戦闘機を相手どり、これまた一定数の撃墜を果たした。直進性の高い光弾機銃、それも20ミリを四丁も浴びせられれば、当たればイグニスの胴体は秒で溶けた。そのまま火の玉のようになって墜落した。

 短くも濃密な戦闘は終わった。


 大破炎上するルベル艦艇。沈没したものも少なくなく、星形桟橋も轟沈の余波でひっくり返ったり、引き裂かれているものもあった。

 その様子を、遮蔽に隠れた彩雲偵察機が静かに観測し、攻撃隊の戦果の確認を取った。

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