表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
685/1117

第六八五話、ドイツ海軍の使者


 その潜水艦は、U-459と名乗った。

 ドイツ海軍の小型潜水艦で、その大きさは全長40メートルそこそこしかないようだった。

 異世界帝国と交戦していたT艦隊に接触してきたU-459潜水艦。その副長である、パウル・デッカー大尉は、T艦隊旗艦『浅間』に乗艦。栗田 健男中将と面談した。

 そこで語られた内容は――


「ドイツ海軍の残存部隊が残っている?」


 本国は、すでに異世界帝国によって占領され、ソ連や北欧にいたドイツ軍もまた、異世界人の前に壊滅した。

 そう思われていたが、ドイツ海軍の生き残り部隊が、まだ存在していたらしい。


「失礼ながら、あなた方が異世界人ではないのは確認いたしました」


 デッカー大尉は言った。


「少々予定より来るのが早くて驚いていたのですが、これは司令部にもよい報告ができそうです。司令部に機密電を送りたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ドイツ人の大尉によれば、友軍と確認したら、秘密基地へ案内できるとのことだった。彼らもまた、ここに現れた日本軍が、異世界帝国の仕掛けた罠ではないか、疑っていたのだ。

 デッカーが艦に戻り、司令部とやらに報告を送っている間、T艦隊司令部は話し合う。


「とりあえず、白城情報参謀。軍令部に行き、ドイツ海軍の残存部隊と接触したと報告に行ってくれ。現状の報告と、今後の対応についても聞けたら聞いてこい」


 栗田が指示を出し、白城は転移室で軍令部へと飛んだ。藤島航空参謀は腕を組んだ。


「まさか、ドイツ軍の残党と接触することになろうとは……」

「まったく想定外だった!」


 栗田の声に力が入っていた。


「主なドイツ艦は鹵獲され、異世界帝国に使われていると見ていたが、まだ残っていたんだなぁ」

「そう考えると――」


 田之上首席参謀は声を落とした。


「残っている規模は、やはり大した数ではないのでしょうか」

「せいぜい、Uボート数隻程度、か?」

「事と次第によっては、日本に合流する、という展開ですかね?」


 司令部で話し合っている間に、U-459からデッカー大尉が戻ってきた。改めて対談すると――


「我が司令長官が、ぜひとも日本海軍と面談したいと仰せです。しかし、異世界帝国に秘密基地の場所を見つけられるわけにはいかないため、できれば将官級の方と随行に数名、我がU-459に乗艦していただき、案内したいと思います。艦隊には失礼ながら、隠せる場所がないため、今回は同行は遠慮いただきたい、と」

「それはあまりに勝手ではないか?」


 藤島が怖い顔をすれば、神明は手ぶりで押さえた。


「彼らが用心深くなるのはわかる。実際、T艦隊で乗りつけて、それを敵に目撃されては、彼らの秘密拠点がバレてしまう。その責任を、こちらはとれないだろう」

「ですが……!」

「デッカー大尉、君たちの司令官がこちらと面談したい旨は了解した」


 神明は、通訳を通さず直接ドイツ語で言った。


「しかし、それでは時間がかかり過ぎる。おそらく君たちの拠点は、この海域より離れているのだろう? 我々にもスケジュールがある。モタモタしていては今後の作戦にも差し支える」

「はい……」

「そこで、だ。場所を教えてくれれば、我々の特殊偵察機が転移――瞬間移動により、君たちの拠点近くにまで移動することが可能だ。面談する将官含めて、使者を載せた隠密性の高い艦艇で移動し、早々に面談できるようにできるが……どうだろうか?」


 デッカーは転移と聞いて、わけがわからないようだった。瞬間移動云々で、直接移動できると言われても、理解が追いつかない。自分なりに理解しようと努め、少々考えた後、彼は答えた。


「場所を教えることはできません。案内はできますが」


 まだ完全に信用していないのか。あるいは、デッカーは信じているが、司令部とやらがまだ信じ切っていないのかもしれない。

 神明は頷いた。


「了解した。偵察機に君か、信用できる者を搭乗して、道案内をしてくれ。それなら問題はないだろう?」


 案内はできるが、場所は教えられない。教えた途端に場所が漏れて、敵に知られるのが嫌というのなら、潜水艦ではなく航空機に乗って案内させる。位置座標を知らせることなく、案内でいいのなら、飛行機でも問題はないはずだ。


「は……? あ、ええ、確かにそれなら……問題はない、かと」


 デッカーは間違えがないか考えながら頷いた。


「航空機は着陸はできるか?」

「擬装滑走路がありますので、大丈夫です。航空隊の連中が訓練で使っていましたから」


 よろしい、潜水艦のペースで移動などできるか――神明はさっそく栗田に、航空機を使って、ドイツ軍の秘密基地への飛行。そこからの司令長官とやらと面談、場合によっては交渉もすると告げた。


「――で、一応、言い出しっぺなので、私が彩雲に乗って行きます」

「参謀長!」


 栗田も、周りの参謀たちが目を見開く。


「君が行くのか?」

「少将ですし」


 相手は、将官級の会談を求めている。それを聞き、佐官である参謀たちが言葉に詰まる。が、藤島は強い口調になる。


「しかし、神明さん! 何があるかわかりません。もしもあんたを失うことになったら、これからの海軍はどうなるんです!? 魔技研は!」

「私は、そこまで重要な存在ではないよ。代わりなんぞいくらでもいる。いや、能力者としてはあまりいないかもしれないが」


 少々皮肉げに言う。


「だいたい、人数がいない。操縦士と、ドイツ海軍の案内人の他に一人しか彩雲には乗れない。ドイツ語ができる通訳を乗せるスペースはないぞ」


 あ、と誰かが声に出した。藤島が口を歪める。


「そういえば、神明さん、ドイツ語ができたんですね。留学してましたっけ?」

「妹が医療系を学んでいてね。専門用語は基本ドイツ語だ。その繋がりで勉強した」


 これは日本が西洋の医学を学ぶ時に、最初にドイツ医学を参考にしたためだ。現代における医療用語もドイツ語ばかりなのも、その影響である。閑話休題。


「ということで、先方が何を求め、これからどうするつもりなのか、聞いて参ります」

「うむ。……本当に大丈夫なのか? 万が一のこともある」


 栗田が心配を露わにした。神明はポケットに手を忍ばす。


「魔技研の転移カードを忍ばせてあるので、即死でなければ脱出できます」


 それを聞き、田之上が吹き出したが、すぐに真顔になった。


「藤島」

「はっ、『翔竜』に、彩雲を用意させます!」


 藤島が通信室へ移動する。神明は、どういう流れかわからず視線を彷徨わせているデッカーを見た。


「君はフネに戻り、隠密航空機で、直接乗り込むことを司令部に報告してきなさい。同行者は、少将である私であることも伝えてよい」


はい(ヤー)、承知しました」


 デッカーは敬礼すると、さっそく仕事に取りかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ