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第六八四話、通信の主は?


 ドイツ海軍の暗号通信を、T艦隊は傍受した。

 正直、内容についてはさっぱりだった。ドイツが使用したエニグマ暗号だろうか? 少なくとも、T艦隊で解読の術はない。


「異世界帝国が打っているという可能性は?」

「なくもないですが……」


 白城情報参謀は首をかしげた。


「しかし、その意味があるのかどうか」


 トロンハイムが襲撃された――その報告を、わざわざドイツの暗号で打つ必要が、異世界帝国にあるのか?

 それとも襲撃してきたT艦隊のことで、何か暗号にすることがあったのか。……いや、それならば、別に異世界人の暗号でもよいのではないか。


「すると、ドイツ人の友人が、この近くに生存していた可能性が出てくるということか?」


 神明参謀長の発言に、田之上首席参謀が息を呑んだ。


「異世界帝国から逃れた者が、ノルウェーに潜伏していたとか?」

「ノルウェーは、異世界帝国が制圧するまでは、ドイツ軍が占領していたんでしたっけ?」


 藤島航空参謀が尋ねた。

 欧州での大戦は、開戦初期に、ドイツ軍はデンマークとノルウェーに侵攻した。それは異世界帝国軍の欧州制圧まで続くことになった。


「これ、どうします……?」


 首を捻る白城は、司令長官の栗田中将を見るが、その栗田は神明に視線を投げた。


「平文で返しますか。我々が日本海軍だと」


 何らかの意図を持って発信されているのであれば、わからないなりに反応しておけば、先方も対応を変えてくるだろう。


「平文は危険では? 敵に傍受されます」


 白城が言えば、藤島も頷いた。


「そもそも、この暗号電文も、手の込んだ敵の罠の可能性もあります」

「忘れたか? 我々は、セ号作戦のために敵の注意を引くためにここにいる」


 フランスから遠いノルウェーで、日本軍が活動している。しかも一度攻撃をして離脱するわけでもなく、何故か留まっている。敵も何をしているか気になるだろう。その分、欧州上陸部隊への注意も遠のく。


「回収の時間潰しに、この通信に付き合ってもよいかと思いますが、如何でしょうか、長官?」

「……そうだな。そうしよう」


 栗田は同意した。情報参謀兼通信参謀である白城は、通信室に行き、さっそく謎のドイツ海軍とおぼしき相手との交信を試みる。

 やや時間をおいて、返ってきたのは、数字の羅列。問題はそれが何の数字か、であるが、白城は仮説を立てた。


「この数字を緯度、経度と見るなら場所は、ノルウェー海とバレンツ海の境辺りになります」

「ノルウェーからすれば、近いか」


 田之上が腕を組み、藤島は鼻をならす。


「それが位置を示すってんなら、オレたちにここに来いって言ってるってか?」

「罠くさいな……」

「というか、この数字の通信分、敵さんも傍受してるだろう? 北欧艦隊の主力は潰したが、潜水艦とか警戒部隊がここに集まってくるんじゃないか?」

「まったくいないわけではないが、大した数にはならないだろう」


 神明の発言に、参謀たちは顔を向けた。


「何故です?」

「北欧艦隊の残存戦力は、おそらくトロンハイム・フィヨルドの出口に集結しているだろうからだ。T艦隊が出てきたら襲撃しようとな」

「あ……!」


 田之上が地図を見下ろした。


「確かに。北欧艦隊の主力がいるトロンハイムを我々が襲撃したのは、敵も把握しているでしょう。こちらは転移でやってきたとはいえ、敵からすれば、フィヨルドの出入り口を塞げば、袋のねずみにできる」

「そういうことだ」


 今頃、近隣を航行している部隊は、押っ取り刀で急行しつつあると思われる。T艦隊は転移で離脱する予定だったので、フィヨルドの出口で駆逐艦や潜水艦が待ち伏せしていようとも関係ない。しかし異世界帝国側からすれば、可能性を考え、封鎖しない理由はなかった。


「彩雲改二を出して、この座標に転移中継ブイを設置。転移で移動して、そこで少し待ってみよう」


 神明は口元を緩めた。


「それで敵潜水艦が集まってくるなら、潜水艦狩りをして北欧艦隊残存部隊を掃討。ドイツ軍の通信を使う何者かが接触してきたなら、それで相手の正体もわかるだろう」



  ・  ・  ・



 T艦隊は北欧艦隊主力の撃沈艦艇を回収し、離脱行動にかかった。

 謎通信の指定している座標へは、彩雲を飛ばして、転移爆撃装置による転移ブイの投下を行って、航空戦艦『浅間』、重巡洋艦『紫尾』、駆逐艦『氷雪』『早雪』、潜水艦『伊701』『伊702』が向かった。


「さて、現れるかな?」


 栗田は、7月とはいえ寒い北の海を眺めて呟く。神明は呟くように言った。


「先方が、こちらの転移のことを知らなければ、数日後のつもりかもしれません」

「早く来すぎて、待ちぼうけをくらうかもしれないな」

「そもそも、迎えが来るとも言っていませんからね」


 通信の主が現れる保証はない。少なくとも、すでに待機していた、ということは、この波うねる海上を見渡す限り、なさそうである。

 そして、待つことしばし――


『伊701より魔力通信あり。こちらに接近しつつある潜水艦を発見』

「敵かな?」


 栗田は、未識別の潜水艦に首をひねる。


「北欧製の潜水艦だったとして、敵も鹵獲しているからなぁ」

「近づかせ、反応を見ましょう。雷撃位置につくようなら、伊号潜に始末させます」

「そうしよう」


 果たして、異世界帝国か、謎通信関係の者か。その動向を注意する。


『伊701潜より通信! 潜水艦、潜望鏡深度にて、魚雷発射管への注水音を確認!』

「潜水艦が雷撃してきたら、伊701は、『敵』潜水艦を撃沈せよ」


 相手が魚雷を撃つ準備をしたからといって、まだ敵と決まったわけではない。こちらを異世界帝国か確認するまでに攻撃準備だけして様子を見る、という手も――


『潜水艦、魚雷発射! 2本!』

「高角砲、一式障壁弾による魚雷防御。――艦長、任せる」


 栗田は、『浅間』の操艦を担う艦長に、魚雷への対応を任せる。それ以上は、司令長官のすることではない。

 そうこうしているうちに、伊701が『敵』潜水艦を撃沈した。敵魚雷も障壁弾による壁で阻止。『浅間』にも艦隊にも被害はなかった。


『上空警戒の紫電改二より報告。北方より、浮上航行中の潜水艦を発見』

「浮上航行……」

「こちらで戦闘をやっていたのは遠方からも聞こえていたでしょう」


 神明は目を細めた。


「その上で、敢えて潜水せず航行しているのは、例の通信の主か、その関係者かもしれませんね」


 異世界人なら敵しかいないここでは、姿を隠して動こうとする。しかしこちらに用件がある、味方かもしれないと考えている者ならば、戦闘するどちらかは敵ではないから、敢えて浮上して近付くということも、考えられなくはない。


『伊702潜より、報告。接近する潜水艦はUボートの模様』

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