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第六八三話、トロンハイム・フィヨルドの戦い


 改リシュリュー級の浅間型航空戦艦が、主砲の三連光弾砲を発射したその時だった。

 先ほどの主砲より小さな水柱と同時に、甲板上に一発、小爆発が起きた。


「何事だ!?」

『ビスマルク級の副砲が命中の模様!』


 見張員の報告が飛び込む。艦長が「被害確認急げ」と指示を出した。

 2万メートルを切っている現状、『ティルピッツ』が片舷に三基ずつ装備する15センチ連装砲を撃ってきたのだ。主砲に比べて仰角が必要な分、これに初弾で当たるとは不運としかいいようがない。


 しかし、その行動も、『浅間』の放った光弾が突き刺さり、無駄に終わった。右舷副砲もろとも艦上構造物に命中した破壊的な三連弾は、『ティルピッツ』の司令塔ごと構造物ごと吹き飛ばした。


 さらに一番主砲の光弾砲が、330ミリの主側面装甲を貫通、内部にダメージを与え、機関をも爆発と衝撃が襲った。

 ワーグナー式高圧重油専焼缶12缶が、縦の隔壁で三つの部屋に分けられていたが、その隔壁も40.6センチ砲弾級の光弾を防ぐ力はなく、やすやすと貫通したことで、ボイラーはほぼ全滅してしまう。

 艦上構造物と煙突が失われ、炎と煙が噴き上がる。これは大破、間違いなし。


『敵戦艦、発砲!』


 ティルピッツが主砲を発射した。射撃管制システムを失ったにも関わらず、主砲ごとの個別射撃で抵抗してきたのだ。


 戦意はよし。38センチ砲弾を防御障壁で弾きつつ、水柱が消えた直後、『浅間』は第二弾を発射した。

 すでに安全想定距離内に踏み込まれている『ティルピッツ』は、その装甲で防ぐこともかなわず、ブルーノ砲塔が撃ち抜かれ、弾薬庫が誘爆した。火山と見まがう大噴火が起きて、その艦体が裂けた。海水が流れ込み、艦が沈んでいく。


『敵戦艦、沈没しつつあり!』

「よし」


 栗田 健男中将は頷くと、視線を転じる。『ティルピッツ』の前に投錨しているソビエツキー・ソユーズ級戦艦――『ソビエツカヤ・ロシア』は、僚艦の『八雲』と砲戦を繰り広げていた。


「火の手が上がっているようだが……」


 二本ある煙突は煙で見えなくなっていた『ソビエツカヤ・ロシア』だが、その40.6センチ三連装砲は活発に火を噴いた。


「さすが、6万トンに近い排水量を誇る大戦艦。装甲もビスマルク級以上ということか」


 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦については、日本海軍も詳細なデータを持っていない。計画時の諸元など、ある程度の情報は収集し、特に軍艦方面でソ連のお得意様であったイタリア側からの情報で、現状予想が立てられている状況だった。


「三連光弾砲を受けて轟沈しない程度には、防御性能は高いようですね」


 神明がコメントすれば、栗田も同意した。


「装甲の防御範囲も、排水量からすれば相当広いと思われる」

「部分的には、大和型に匹敵する装甲厚があるかもしれません」

「もっと距離を詰めよう」


 栗田は振り返った。


「こちらは2対1だ。いかに装甲が厚くとも、想定安全距離範囲外の攻撃ならば貫ける」


 水雷屋らしい突撃を選択する栗田である。『ソビエツカヤ・ロシア』が『八雲』に主砲を振り向けている間は、『浅間』へは精々副砲や高角砲を振り向ける程度しかできない。

 それで集中されると、ヴァイタルパートは抜かれないが、割と非装甲部分へのダメージが面倒ではあるが、間違っても撃沈される可能性は極々低い。


 もっとも、すでに『八雲』の攻撃で艦上の副砲や高角砲が、ほぼなぎ倒されている格好なので、その心配も無用かもしれないが。

『八雲』に続き、『浅間』もまた光弾砲を、『ソビエツカヤ・ロシア』に叩き込む。


 そうなると、すでに限界に近づいていたソビエツキー・ソユーズ級も耐えられなかった。『八雲』の三連光弾により、頑丈な装甲もガタがきて、次に同じ場所に当たれば抜かれるという状態だったところに、攻撃が集まり、それまで運よく被害が少なかった艦内も無茶苦茶に破壊された。



  ・  ・  ・



 旗艦『ソビエツカヤ・ロシア』は炎に包まれた。

 北欧艦隊司令長官のセルモス中将は、沈みつつある艦にあって声を引き絞った。


「無念だ……」


 ろくな戦力ではなかった海防戦艦を、まともな戦力に改装し、ようやく艦隊らしくなったと辺境配置にも前向きになれた時に現れた敵。

 その奇襲により、艦隊は失われ、強力な戦艦たるソビエツキー・ソユーズ級もまたフィヨルドに没しようとしている。

 そして、最期の時はきた。機関か、それとも弾薬庫か。その凄まじい爆発が、5万9150トンの巨艦を粉微塵に吹き飛ばした。


 北欧艦隊が誇る二大戦艦は、トロンハイム・フィヨルドにて沈んだのだった。

 日本海軍の攻撃は、16隻の海防戦艦をことごとく大破、炎上、あるいは転覆させた。


 第三航空艦隊に続き、T艦隊空母戦隊も合流し、艦載機でさらなる空爆が行われ、フィヨルド内の異世界帝国艦はもはや動くものはなかった。

 近隣のオーランド基地から駆けつけたメッサーシュミットBf109、フォッケウルフFw190戦闘機、そしてユンカースJu87急降下爆撃機など、ドイツ軍鹵獲機も、暴風戦闘機に阻まれ、全滅した。


 パーフェクトゲーム――とは、残念ながらならなかった。デンマーク海軍から鹵獲されたH級潜水艦『ハブマイデン』の放った45.6センチ魚雷が、重巡洋艦『愛鷹』の艦中央に1発命中、損傷させたのだ。幸い、致命傷にはならなかったものの、転移離脱を強いられるほどの被害を受けた。


 しかし、作戦としては成功だった。

 T艦隊は、トロンハイム・フィヨルドの異世界帝国軍を壊滅させ、神明参謀長の提案で、撃沈した北欧艦隊の艦艇を回収した。伊350が回収を終えるまで、フィヨルド内にT艦隊は留まったが、さらなる敵が来ることはなかった。

 田之上首席参謀は言った。


「ビスマルク級にソビエツキー・ソユーズ級……これは収穫ですね」

「特にソビエツキー・ソユーズ級は、こちらもデータがないからな」


 神明は答えた。


「バルト海の艦隊にも、ソビエツキー・ソユーズ級がもう1隻存在が確認されているからな。性能解析は、次に戦う時に役に立つ」


 どの距離で戦うのがいいのか。ソビエツキー・ソユーズ級の得意とする戦闘距離は? 速力、航続距離の記録も取れるにこしたことはない。


「しかし……」


 藤島航空参謀が、眉をひそめた。


「あっちの新型はわかるんですがね、海防戦艦も回収しているようですが、アレは使えるんですか?」


 回収しても、性能が低かったり、使い道がなければ残骸が増えるだけである。それでなくても、回収した艦艇の残骸は山となっている。


「使えるかは解析しないとわからないが……ちょっと気になることがあってな」

「と、言いますと?」


 田之上が問えば、神明は目を細めて、転覆しているノルゲ級?――海防戦艦を見た。


「以前見たシルエットと微妙に違うんだ。異世界帝国は、後方戦力は手抜き、旧式の鹵獲艦艇も、あまり手を加えない傾向にあるが、ここの海防戦艦は、どうも改装されているようなのだ」

「改装されている、ですと……?」


 これまで旧式の鹵獲艦は、当時の性能とほとんど変わらないものとして考えていた。事実そうだったからだが、もし敵がこうした鹵獲艦も近代化改装を施していたとすれば。


「これまでのように格下と見ていると、足元を掬われる可能性もあるというわけだ」


 神明は顔を上げる。異世界人が、海防戦艦をどのように改装したのか思いを馳せていると、白城情報参謀がやってきた。


「参謀長、通信長が妙な通信を拾ったと報告してきまして――」

「妙とは?」

「ドイツ海軍の通信のようなのですが」


 ドイツ?――神明と、参謀たちは顔を見合わせた。

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