第六八二話、改リシュリュー級VS.ビスマルク級戦艦
「第二回戦だ」
栗田 健男中将は呟いた。T艦隊水上打撃部隊は、重巡洋艦『愛鷹』を先頭に、『大笠』『紫尾』、航空戦艦『浅間』『八雲』、大型巡洋艦『筑波』の単縦陣で、フィヨルド内に、転移出現した。
峡湾入り口や、入り組んだ水路には、敵の小型潜水艦が潜んでいる可能性を踏まえての転移突入である。
転移中継装置によって現れた第三航空艦隊の航空隊が、艦隊を追い越し、トロンハイム・フィヨルド内を低空で飛ぶ。
暴風、業風戦闘機、九六式陸上攻撃機が、フィヨルド内の施設および、艦艇へ攻撃を開始する。
警報が辺りに反響して響いているようだが、すでにT艦隊は懐に飛び込んでいる。本来、ここに達するまでに、守備隊や艦隊も、防衛態勢を整える猶予があるはずなのだが、日本軍はそれを許さなかった。
艦艇に乗る乗組員らが、機銃座について対空射撃を開始する。しかし単発機のロケット弾攻撃は、それら機銃が敵機を捕捉するより早く飛び込んできて、艦体に命中、爆発した。
先制攻撃は、異世界帝国北欧艦隊に突き刺さった。これまでの奇襲襲撃同様、立ち直る余裕を与えない。
「航空隊より報告! 北欧艦隊の超弩級戦艦2隻を確認。空爆するも、防御障壁を展開、効果不充分と認む!」
旗艦『浅間』の艦橋に上がった報告を受けて、栗田は神明参謀長を見た。
「さすがに、そう何度も奇襲が通用はしないわな」
「ここ数時間で、連続して襲撃しましたから」
異世界帝国側も、まだ転移襲撃があるかもと警戒していたとしてもおかしくはない。
「しかし、見たところ、他の海防戦艦や駆逐艦は爆撃により大破、炎上していますから、奇襲の効果はあったでしょう」
「問題は、一番叩いておきたかったドイツとソ連製の新鋭戦艦」
栗田は視線を転じた。
ドイツ海軍ビスマルク級戦艦『ティルピッツ』とソ連海軍ソビエツキー・ソユーズ級、『ソビエツカヤ・ロシア』。
この北欧艦隊の中で、もっとも新鋭であり、かつ脅威度の高い戦艦だ。
「敵は障壁に守られているようですが、幸い、こちらは障壁突破可能な攻撃手段を持つ浅間型航空戦艦。ここで仕留めてやります」
「うむ。『浅間』と『八雲』で敵戦艦に対処する」
栗田の指示が飛び、重巡洋艦3隻と2隻の航空戦艦は分かれた。フィヨルド内の他艦艇を攻撃に向かう愛鷹型重巡と、さらに奥へと進む『浅間』、『八雲』。その護衛に軽巡洋艦『奥入瀬』、駆逐艦「朝露」「夜露」がつく。
『距離2万! 正面の敵戦艦は、こちらに対して右舷側を見せています!』
「期せずして、丁字戦法をやられているな」
栗田は呟く。田之上首席参謀が口を開いた。
「前にあるのが、ソビエツキー・ソユーズ級、後ろがビスマルク級ですね」
2隻とも投錨しているが、まだ動き出していない。しかし、その搭載している主砲が、右舷へと指向し始めていた。
まだ動けないが砲撃はして、向かってくる『浅間』と『八雲』を迎え撃つつもりなのだ。
『ティルピッツ』はビスマルク級戦艦の二番艦。
基準排水量4万2900トン。大和型が就役するまでは世界最大の戦艦だったのは昔の話だ。
全長253メートル。全幅36メートル。16万3000馬力、最大速力30.8ノットと、近代的高速戦艦である。
主砲は48口径38センチ連装砲四基八門で、当時のイギリスの主な戦艦と正面からの撃ち合うことが可能。イタリア、フランスの新戦艦と同様の38センチ砲なので、欧州戦艦とも互角以上に渡り合えた。
他、15センチ連装副砲を六基装備し、高角砲も備えていたものの、水上戦闘を得意とする艦である。
対して、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦――四番艦の『ソビエツカヤ・ロシア』は、基準排水量が5万9150トンと、6万トンに近い大戦艦である。
全長271.5メートル、全幅38.9メートル。ビスマルク級同様3軸推進艦であり、機関出力21万馬力、最大速力28ノットを予定していた……とされる。
実際のところ、今次大戦で建造が中止され、異世界帝国が魔核技術で完成させたから、戦艦として形になっているに過ぎない。もし異世界人が介入しなかった世界だったなら、完成していたか大いに怪しい戦艦である。
主砲は、50口径40.6センチ三連装砲を三基九門。配置や口径などを見ると、アメリカの最新鋭戦艦のアイオワ級に匹敵する。……実際、ソ連の大砲技術がそれに勝っているのか劣っているかはわからないが。
副砲に15.2センチ連装速射砲六基十二門、ほか高角砲と、ビスマルク級戦艦と似ており、両者の区別は、主砲配置と煙突の数でつけるのが、遠目からもわかる判別方法となるだろう。
「普通に考えれば、より口径の大きいソビエツキー・ソユーズ級の方が格上なのでしょうが……」
田之上は、戦艦の基本、自艦の主砲に耐えられる装甲を持っているという点から、強さをそう予想する。
砲のサイズも口径も、ソビエツキー・ソユーズ級が上なのだから、単純に考えればそうなる。が実際、砲弾重量や砲戦距離の問題で変わってくる部分もあるので、一概には決めつけられないところはある。
ただ見た目で判断するなら、より艦が大きいソビエツキーの方が強力と見えてしまう。
「我々としては、やることは単純です」
神明は言った。
「敵の砲撃を防御障壁で耐え、射撃の隙間に三連光弾砲を撃ち込む。それだけです」
ほぼ直進する光弾砲。それも障壁貫通用の三連弾。その斉射を受けて、同レベルの装甲を持つ戦艦といえど無傷では済まない。
「丁字を取られていますが、浅間型は主砲が艦首にしかないので、全門斉射が可能です。まったく問題ありません」
むしろ正面からの被弾面積を減らせる分、有利まである。
「『浅間』はビスマルク級、『八雲』はソビエツキーの方を狙え」
栗田が指示を出すと、それに呼応したかのように、正面の敵戦艦が発砲した。
『ビスマルク級、ソビエツキー・ソユーズ級、主砲発射!』
「障壁で防げ」
やや斜め上から飛来した砲弾は、『浅間』の周りに水柱を突き上げさせた。噴き上がるフィヨルドの水が、甲板に降りかかる。
「やはり正面から突っ込む分、目標が小さくなって狙いづらいか」
「敵艦捕捉! 主砲、発射準備よし!」
「司令長官――」
「艦長、撃ち方始め!」
撃ち方始め!――『浅間』の40.6センチ三連光弾三連装砲二基六門が、光を放った。 浅間型航空戦艦――改リシュリュー型戦艦、対、ビスマルク級&ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の戦いが火蓋を切られた。