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第六七八話、ジブラルタル、そしてブレスト軍港襲撃


 異世界帝国軍プロドスィア艦隊は、ジブラルタル海峡に差し掛かった早々に、突然の旗艦を含む艦艇消失に巻き込まれた。

 その様子を遮蔽で隠れて飛んでいる彩雲改二が観測。T艦隊へ、マ式通信にて報告を入れた。


『イギリス情報、戦艦『ヴァンガート』、オライオン級と思われる旧式戦艦1、オーディシャス級空母2、コロッサス級空母4、ダイトー級巡洋艦3の転移を確認』


 偵察機からの報告は、T艦隊旗艦、航空戦艦『浅間』の艦隊司令部にも届いた。


「戦艦2、空母6、軽巡洋艦3を敵艦隊から除外か」


 艦隊司令長官、栗田 健男中将は頷く。田之上首席参謀は、ボード上でそれを記した。


「残るは戦艦2、空母9、重巡洋艦4、軽巡洋艦13、駆逐艦40……ですか」

「空母の3分の1を削れたのは大きい」


 戦艦もまた半減している。藤島航空参謀は相好を崩した。


「今頃、敵さんは、消えた艦艇を探して右往左往しているんじゃないですか」


 異世界帝国側が、転移で消されたと気づいたならば、また行動も変わるだろうが、わからないままならば、しばらく見つかるはずのない艦を探して時間を潰すのだろうか。


『彩雲より報告! 敵艦複数に爆発と思われる水柱を確認!』

「始まりましたな」


 ニヤリとした藤島が、神明参謀長を見た。

 第七艦隊から借りた戦力、潜水型敷設艦の『津軽』『沖島』が、海中からマ式誘導機雷を散布、誘導して敵艦隊を襲ったのだ。

 開戦時、第四艦隊第十九戦隊に所属していたこの二隻は、異世界帝国軍の空爆により沈没。潜水機能を与えられ、大改装して蘇ったが、以後、第七艦隊の一員として活躍を続けた。


 ばらまかれた多数の誘導機雷は、まず離脱する空母とその護衛に襲いかかった。続いて捜索活動中の駆逐艦や軽巡洋艦に吸い寄せられるように移動し、次々とその艦底部に穴を開けて、大破、沈没させていく。


 その機雷の魔の手は、空母『ヴィクトリアス』と『オーディシャス』を損傷させ、軽空母『オーシャン』を爆発、転覆させて、『ヴェネラブル』を大破させた。

 消えた艦艇の捜索から一点、空母部隊への攻撃を潜水艦の襲撃とみた駆逐艦部隊が駆けつけようとするが、そこにさらなる機雷が襲いかかる。張り巡らされた蜘蛛の糸にかかるが如く、機雷で駆逐艦や巡洋艦の艦首や底に穴が開く。アッパーをくらったようにつんのめり、大量の浸水が護衛艦艇を行き足を止めていく。


 結果的に軽巡洋艦4隻が損傷。駆逐艦9隻が沈没、7隻に航行不能の大損害を与えた。


『津軽』『沖島』が散布した誘導機雷の数は2隻で800発を超え、これらがある程度の誘導によって、近づいた艦艇を吹き飛ばしたのだ。

 そして範囲外の機雷は、ジブラルタル海峡に即席の機雷原を形成。異世界帝国船舶しか通らない場を、異世界人らに掃海させるという手間を与えた。


 プロドスィア艦隊は、ジブラルタル港、セウタ港にそれぞれ入港し、損傷艦の修理、そして今後の行動についてしばし足止めを食うことになった。

 T艦隊は、予定通りに、プロドスィア艦隊を地中海入り口にて、その動きを封じることに成功したのであった。



  ・  ・  ・



 フランス西部、ブルターニュ半島の西端にある港町――ブレスト。

 ヨーロッパでの最大の停泊地があり、ブレスト鎮守府のおかれたブレスト城もあって、かつてはフランス海軍の重要拠点であった。

 そして今も、その施設、設備を引き継ぐ形で、ムンドゥス帝国軍が駐留している。

 その広大な泊地に対して、艦隊はさほどなかった。



●ブレスト艦隊

 前弩級戦艦:「シュフラン」「ブリタニア」

 重巡洋艦:「カナリアス」「バレアレス」

 装甲巡洋艦:「ゲイドン」「モンカルム」「デュプティ・トゥアール」

 軽巡洋艦:「アルミランテ・セルペラ」「ミゲール・デ・セルバンテス」

 駆逐艦:12

 潜水艦:6



 その編成は、フランス、イギリス、スペインの鹵獲艦艇の集まりである。

 以前、地中海への補給船団を護衛していたエスパーニャ級戦艦を含む艦隊も、このブレスト艦隊であったが、そこで失った分の補充がなく、現在の規模となっている。


 前弩級戦艦の『シュフラン』はフランス、『ブリタニア』は、イギリスのキング・エドワード7世級である。

 前者が1万2750トン、全長128メートル、速力18ノット。後者は1万6350トン、全長138メートル、速力18.5ノット。それぞれ40口径30.5センチ連装砲二基四門を主砲としている。


 戦艦とはいえ骨董品であるこの2隻に対して、カナリアス級重巡洋艦は、近代的条約型重巡洋艦の流れをくむスペインの軍艦であった。基準排水量1万360トン、全長193.8メートルと艦隊最長。9万馬力33ノット、50口径20.3センチ連装砲四基八門と、世界的に見ても標準型性能を持っている。


一方、ゲイドン級装甲巡洋艦はこれまた古い艦で、排水量9177トンから9548トン。137メートルに対しての艦幅19.38メートルのずんぐり体型。速力21.8ノット、40口径19.4センチ砲を主砲に据えている。


『ゲイドン』と『モンカルム』はハルク、つまり倉庫艦になっていたが、引き上げられた『デュプティ・トゥアール』の同型艦だと知った異世界人が、魔核を用いてそれに合わせて作り直した。結果、戦闘力を復活させたものの、現代の艦と比べても低性能であり、如何にも数合わせ、警戒や護衛に用いようという気しか感じさせらない。


 なお、ゲイドン級は、かのルイ=エミール・ベルタンの設計した軍艦だ。このベルタンと言えば、日本政府が海軍技術者として呼び、日本海軍創生期に活躍した人物である。松島型巡洋艦、有名な三景艦などの設計に関わっている。もっとも彼の最大の貢献は、呉と佐世保工廠といった近代的造船所の建造だったりする。


 閑話休題。

 これらブレストに駐留する艦隊は、1944年8月2日、ブレスト海峡を突入してくるT艦隊と、その航空隊による襲撃を受けた。

 空母艦載機である暴風戦闘爆撃機が嵐のように襲来。大西洋の嵐から停泊地を守る形であるロスカンヴェル半島を超えて入り込むと、5インチロケット弾の猛爆が、艦艇を襲った。


 旧世代の艦艇は、その低い対空能力で抵抗する間もなく、次々に被弾、炎上。複数の高角砲で武装する近代的巡洋艦であるカナリアス級、プリンチペ・アルフォンソ級軽巡の『アルミランテ・セルペラ』『ミゲール・デ・セルバンテス』も、ろくな反撃もできないまま爆撃を受けて大破した。


「目標、ブレスト鎮守府、司令部であるブレスト城!」


 T艦隊旗艦『浅間』『八雲』、2隻の航空戦艦が、艦首の40.6センチ三連光弾三連装砲を、要塞城へと向ける。


「かのリシュリュー枢機卿も仕事をした地で、そのリシュリューの名を持っていた戦艦が砲撃を仕掛けるとか、何という運命の皮肉だ」


 栗田は呟いた。航空戦艦『浅間』は、フランス海軍の新鋭戦艦『リシュリュー』の大改装艦だ。


「主砲、撃ち方始め!」


 光弾砲が唸り、その3発繋がりの光弾は、堅牢な城壁を穿ち、吹き飛ばす。

 T艦隊は、ブレスト軍港で暴れ回り、異世界帝国の支配する大西洋に面した一大拠点を完膚なきまでに叩き潰したのであった。

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