表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
672/1112

第六七二話、海防戦艦とかモニター艦とか


 永野軍令部総長は、超戦艦レマルゴスの再生運用案を了解し、ゴーサインを出した。

 海峡封鎖よりも、義勇軍支援戦力に使えるという点が、彼の心に響いたのだろう。できるだけ早期に戦争を終わらせたい。そのためには、異世界のことも知らねばならない。


 神明少将は、転移光線を用いた鹵獲案と敵が使ってきた場合の対策の通達を具申し、その件も了承された。

 それが終われば、九頭島の秘密ドックへとんぼ返りである。志下 (たもつ)造船大佐に、超戦艦再生改修に許可がおりた旨を伝え、さらに――


「海防戦艦……?」

「まあ、物の例えですが――」


 海防戦艦とは、海防艦の大型艦バージョンで、重巡洋艦の20センチ砲から大型巡洋艦の30センチ砲クラスまでの砲を搭載し、そこそこの火力と装甲を備えた艦である。

 自国の沿岸の防衛などで活用されるため、外洋の航行能力が低かったり、航続距離が短く、また比較的低速である。


 日本では海防戦艦はなかったが、日露戦争時代の装甲巡洋艦を、海防艦として運用していたこともある。

 今では海防艦と言えば、敵潜水艦を撃退し、船団護衛をする小型の護衛艦という印象が強いが、北欧や一部の国々では、海防戦艦を配備していた。


「本来の意味の海防艦とは少し違うのですが、防衛戦用の艦艇が欲しいな、と思いまして。軍令部は超戦艦を、ゲートキーパーとして運用したいと考えているようで」

「なるほど……」


 志下大佐は顎に手を当てて考える。


「ゲートは表と裏、両方があるわけで、1隻だけでは足りないわな」

「そういうことです。……私としては、まだ海峡封鎖用の艦艇というのを諦めたわけではないのですが」


 神明は作業用の机に、さっそく自身の案を書き出した。


「前々から、弩級戦艦以前の旧式戦艦を戦力として活用できないかと考えていたのですが、防御障壁を貫通する三連光弾砲が実用化されたこともあって、これを主砲として一基装備した防衛艦を考えてみました」

「……モニター艦のようだね」


 志下は、そう指摘した。ここで言うモニター艦とは、元祖モニターではなく、第一次世界大戦時に考案された対地攻撃用の大口径主砲を装備した浮き砲台の方である。


「確かに、大砲とはいえ砲が一基しかない、鈍足の艦となると、そちらが近いかもしれません」


 神明は同意した。呼び方は適当でよいと思った。海防戦艦にしろ、モニター艦にしろ、正しい意味では、この案の戦艦はどちらも違うのだから。


「できれば遮蔽装置は欲しいところです。防御障壁も、対空防御に特化したものを装備させます」

「対潜防御、魚雷に対しては?」

「それがこの艦のミソです」


 異世界氷の発生装置を艦の外側に配置し、自艦の周りに氷を展開して、それに魚雷をぶつけて、自艦を守るのである。分厚い氷の層が魚雷を阻み、さらに凍結で氷を補充し続ければ、防御は保たれる。


「どの道、ゲートの防衛なり、待ち伏せなりで使うフネですから、速度を出して機動戦をやるわけではありません。やってくる敵を三連光弾砲で撃つ浮き砲台ですから、氷をまとうことで足が遅くなっても構いません」

「耐水上艦艇迎撃用の装甲艦、海防戦艦ということか……なるほど。防御障壁すら抜けてくる砲を持つ艦が、待ち構えていれば、敵も迂闊に近づけないということだ。しかし、空から攻めてこられては対応できないな」

「そこは、空母を置くなり、転移中継装置で航空機を呼び寄せるしか手はないですね」


 神明は苦笑した。この案も、別に万能ではない。得意不得意があるのは、ある意味当然であった。



  ・  ・  ・



 地中海で動きがあった。

 T艦隊は、通商破壊を継続していたが、頻繁に飛ばしている偵察機が、敵の新手を確認したのだ。


「黒海艦隊か?」

「いえ、クレタ島です」


 白城情報参謀は、地図上、エーゲ海の南にあるクレタ島を指した。


「敵は増援を呼んだようです。黒海からではなく、異世界から」


 彩雲改二偵察機は、クレタ島近海ゲートから現れる赤い艦隊――ルベル艦隊と、異世界帝国――ムンドゥス帝国艦で構成される艦隊を確認した。


「旗艦級戦艦1、主力戦艦級4、大型空母1、中型高速空母4に、ルベル巡洋艦90隻あまり。補助艦含めて120隻ほど」

「大艦隊だな」


 栗田 健男中将は顔をしかめた。


「各部隊に退避を命令しよう」


 少数艦艇で通商破壊を行っている通商破壊部隊を、速やかに転移退避させる。まとまった敵戦力が出てくれば、被害を受ける前に引くのは、T艦隊の運用上、間違っていない。


「黒海ではなく、ゲートで直接増援を送ってくるとは……」

「いよいよ敵さんも、反攻態勢が整ってきたってことですかい」


 藤島航空参謀が口元を歪めた。


「ゲート守備隊にしてみたら上々ってところですかね。それとも、我々を地中海から叩き出したら、ヨーロッパ中の現地艦隊を集めて、アメリカ侵攻とか」

「現地艦隊と言うが、半分以上は第一次世界大戦前の化石みたいなフネだぞ」


 田之上首席参謀が、首をひねった。


「いくら数が来ようとも、米大西洋艦隊が負けるようなものでもないだろう」

「現地艦隊だけなら、そうですがね。異世界帝国の正規艦隊や赤の艦隊も加わったら、今のアメさんの戦力じゃ厳しいと思いますぜ」

「太平洋艦隊からも増援をもらうか……あるいは我々日本海軍が迎撃に加勢するか――」


 栗田が考え深げな顔をするが、白城が口を開いた。


「今なら英国本土奪回を狙うイギリス艦隊も加わってくれるかもしれません。……ですが、イギリスといえば、英国本土で建造されていた新鋭艦で構成された機動部隊が敵にあるので、それも厄介です」


 ルベルやムンドゥス帝国本隊以外にも、有力な艦隊が敵にはあるのだ。


「米侵攻については、根拠のない予想ですが――」

「おい、白城」


 根拠のない予想と言われ、藤島が顔を強ばらせれば、白城はすみませんと頭を軽く下げてから、切り出した。


「そのイギリス製の新鋭機動部隊が、英国を出て南下しております。もしかしたら、ジブラルタルを経由して、地中海にやってくる可能性があります」

「よほどT艦隊の存在が目障りらしい……」


 神明は薄く笑みを貼り付け、地図を睨んだ。


「ゲートから出てきた艦隊が、反攻戦力にしては少ないとは思っていた」

「少ない……?」

「確かに、これまでの敵ならば一度に戦艦、空母それぞれ10隻以上の艦隊を送り出してきてもおかしくありません」


 白城は同意した。


「それが旗艦級を含めるとはいえ5隻ずつ。ルベル艦で数を補っている風にも見えますが」

「本格反攻を敵も考えているのは間違いない」


 神明は断言した。もし、敵がこの世界を諦めたのなら、とっくの昔にゲートで自分たちの世界に帰っているだろう。


「その前哨部隊かもしれないが、その露払いとして、我々T艦隊を叩くべく戦力を集めてきた可能性は高い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ