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第六七一話、海峡封鎖以外の使い道


 神明少将が軍令部を訪れ、まず向かったのは第二部長の黒島 亀人少将のもとだった。

 軍備担当である第二部の部長である黒島に、神明は魔技研の造船担当者と話し合った上での、海峡封鎖用の超戦艦の活用法と、その性能について資料を提出した。黒島は資料を見ながら、自身の禿げ頭に触れた。


「今から用意して、間に合うのか?」


 黒島の言いたいことは、こうだった。


「貴様は、地中海にルベル世界――赤の世界とやらに行ける異世界ゲートがある話は聞いているな?」


 異世界帰還者がもたらした情報である。地中海東部にあるクレタ島に、異世界帝国は異世界ゲートを設置した。

 第二次世界大戦が始まって、イギリスが進駐し、ドイツが占領、イタリアがやってきて、異世界帝国に支配され、主がころころ変わった島である。


 異世界帝国がヨーロッパの攻略を終えて、捕らえた地球人を連れ去るために、クレタ島に転移ゲートが置かれたが、これは今も稼働している。

 黒島は続けた。


「T艦隊が地中海で暴れ回っているが、これを敵も黙っては見ていないだろう。ゲートを守るため、有力な戦力をクレタ島に送ろうとするだろう。そして、今クレタに一番近い敵は?」

「アレキサンドリアに小艦隊がありますが」


 地中海に分散配置されていた主な敵は、先日叩いたオラン、タラントの他、フランスのトゥーロン、エジプトのアレキサンドリアである。


「とぼけるのはやめろ。黒海の艦隊があるだろう?」


 黒島は指摘する。


「黒海からボスボラス海峡を抜け、ダーダネルス海峡を通ってエーゲ海に出て、そのまま南に行けばクレタ島だ」


 付近の有力な艦隊となれば、黒海艦隊が出てくる。戦艦、巡洋戦艦10隻、うち半分が弩級戦艦以前の旧式でさほどの脅威ではないが、巡洋艦の中には新型も混じっており、駆逐艦の数も豊富である。


「それらが、真っ先に駆けつけてくるとすれば、今から封鎖用の超戦艦を作っても間に合わないのではないか?」

「確かに。改修前に出てきてしまうのなら、別の手を使うしかありません」


 もし、黒海艦隊が来るなら、やはり海峡を通過している間に、何とか手を打ちたい。転移中継ブイは撒いているから、要所で機雷を散布するなり、航空奇襲をかけたり、T艦隊による襲撃もある。


 ――いや、最近手に入れた転移照射装置を遮蔽艦に乗せて、転移させてしまうのもありか……?


 神明の脳裏に過るひらめき。ベンガル湾で撃沈、鹵獲した転移艦の転移装置を、重爆撃機に載せようという即興案は間に合わなかったが、あれで別の案を思いついていた。

 不可視の転移光線を当てて、航行している敵艦船を転移させ、鹵獲できないか、と。


 異世界帝国の旗艦級戦艦――メギストス級超弩級戦艦を、転移装置で陸地へ飛ばして手に入れた策の延長である。射程に入って見えない転移光線を浴びせるだけなので、その時よりも楽に、鹵獲、拿捕ができるのではないか。


 ――しかしこれは、敵も同じ手を使ってくる可能性はないか……?


 それに気づいてしまった。敵の旧式戦艦改装の転移艦は、遮蔽装置を搭載していた。今神明が思いついたことが、即時可能な能力を持っているのだ。


 ――これは、すぐに軍令部と連合艦隊司令部に知らせないといけないな。


 幸い、日本海軍の艦艇は転移装置を搭載しているから、敵の転移光線を浴びて、どこぞへ転移させられても、即、味方テリトリーに転移すれば鹵獲の危険は避けられる。


 問題は、こういう事態の可能性があって、ちゃんと脱出方法があると周知させることだ。突然、奇襲で転移させられ、混乱してしまい、解決策が思いつけず、やられてしまう可能性だってある。

 人間、緊急時に最善策が思いつけるとは限らないのだ。

 などと、神明が頭を働かせている中、黒島は言った。


「しかし、この超戦艦、使えるな……」

「何です?」

「うむ。ボスボラスやダーダネルス海峡の封鎖には間に合わないかもしれないが、別の使い道がある」


 そう言うと黒島は、自身の散らかったデスクの上を漁り、ある資料を持ってきた。


「貴様も知っているだろうが、幽霊艦隊絡みで、義勇軍が整備されたんだ」

「異世界帰還者たちがこぞって志願しているという……」

「そう、わざわざアメリカからウィリアム・ハルゼーがやってきて、指揮官に収まった。アメリカさんは、異世界どころではないが、帰還者たちは、同胞を救出しに戻ると息巻いている」

「なるほど」


 魔技研の別動隊、幽霊艦隊が密かに準備していた戦力と、独自にサルベージした改修艦艇を加えた義勇軍艦隊が、近々活動を開始するらしいと聞いている。


「義勇軍に関しては、日本が積極的に支援を表明している。まあ、他の国に異世界にまで手を出している余裕がないというのが本当のところではあるが、永野軍令部総長は、この戦争の落とし所を探している。この戦いを終わらせるためならば、異世界に乗り込むこともやむなし、と」

「……」


 そしてその異世界への突撃役を義勇軍にやらせて、日本はそれを支援することで、本格的に侵攻することになった場合の情報を収集する。


「貴様にも、近いうちに相談がいくかもしれない。異世界に行った際、転移連絡網や物資転移装置などが使えるのかどうか。色々確認しておかないといけない装備も多いだろう」


 別世界に行った際に第一に心配なのは、補給の問題だろう。世界を超えてこちらの転移装置が使えないとなったら、それなりにタンカーや補給船を用意する必要があるだろう。異世界に持って行く物資の量も増える。現地でどれだけ補充できるか未知数の場合は特に。


「ルベル世界に関しては、こちらが乗り込んでも人体に影響がないのはわかっているが、現地の抵抗勢力がどこまであてになるかもわからない。だから義勇軍艦隊にしても、こちらは補給船団を編成する必要があるわけだ」


 船は、これまで沈めて回収した敵輸送船を再生させればよい。物資はアメリカからのレンドリース物資や燃料で補えるので、そちらは問題ない。軍隊を送れないなら、せめて物資はよこしてもらわねば困る。


「そちらは目処がつくが、問題は、連絡線の確保だ。要するに、義勇軍と我が偵察部隊が乗り込んだ後、敵にゲートを奪還されるようなことがあっては困るのだ」


 つまり、ゲート守備隊が必要となる。だが大規模な戦力を貼り付けるわけにもいかない。


「いわゆる門番をどうするかで、頭を悩ませていたんだが、貴様の提案した封鎖用の超戦艦。これをゲート防衛戦力に使えるんじゃないかと思う。どうだ?」


 元より鈍足ゆえ、艦隊行動は期待できない。しかし、異世界帝国も、超戦艦レマルゴスをゲート守備に置いたから、使い方自体は間違っていない。あの超戦艦を沈めるのは、それなりの戦力を必要とする。


「悪くはないと思いますが、過信はできないかと思います」


 本音を言えば、あの超戦艦は、日本海軍の重爆撃機部隊による光線砲の連続攻撃で沈めているのだ。光線砲自体、異世界人の発明なのだから、同じ手で攻撃される可能性もある。もちろん、改装した超戦艦には、複数の防御手段を装備する予定ではあるが。


「そういうことだ。とりあえず、使い道はあるのだから、超戦艦を戦力化するために、総長に話を持っていこう。貴様も来い」


 黒島は、永野軍令部総長に直接、この案を持ち込むつもりのようだった。神明も、それで話がまとまるならと同行した。

 転移光線を使った鹵獲作戦案と、敵がそれを使ってくる可能性、その対抗策についても話をするつもりだった。

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